第36話 父親とは

仕事は高校を卒業してからずっと同じ職場だ。

毎日上司や先輩に怒られながらも、たくさんの工程を覚えて、町工場ではあったが、三年もすれば、そんな俺にも後輩ができた。


職場で知り合ったさやかとは真剣に付き合って、無事結婚となった。

家は父が持っていた土地に、新築の二階建て、天井が高い、リビングが見渡せる、小さくても庭があるといった、俺や、さやかの希望に沿うように作られた。

新婚のころは二人で、どんな家庭になっていくか、さやかはとても明るくて、柔軟性のある女性だったから、結婚してからも喧嘩はしても、家庭に入ってもらっていろんなことを任せていた。


そして、可愛い長女がさやかのお腹に宿った時は、感動した。

夫婦だった二人が、父と母になる、家族という大きいくくりがまたできあがるんだって、仕事も朝早くから夜遅くまでがんばった。


長女が生まれてきたときは、さやかに感謝して、恥ずかしながら泣きまくった。

さやかへのありがとうと、長女が生まれてくれてありがとうとで、とても嬉しかった。感動した。


それからは家族を守ろうと、寒さで手がこごえたまま機械を動かしていてけがをしたこともあったが、それでも帰ったらさやかが待っている、長女が待っている、そう思うと頑張れた。


さやかが育児で大変だっただろうけど、会社の連中に飲みに誘われても、断るか、うちに来て宅飲みしないかなど、できるだけ、いつでも手伝えるように、自分勝手に外出しないようにして、たまにはさやかの息抜きもできるようにと、気遣えるようにしていた。


ほどなくして、次女がさやかのお腹にきてくれた。

さやかはとても喜んだ。

つわりもほどほどに、長女が最初は赤ちゃん返りというか、甘えん坊がひどくなってきたのもあったから、そんなとき、

「ママー」

だから、父親とは・・・と考えることもあったけど、できるだけ愛して、それはそれは可愛がった。


次女が生まれる前、もっと稼いで楽をさせてやりたい、出産のときは個室を用意してやりたいと思って、朝早くから夜遅くまでの仕事をこなし、さやかは長女と過ごすこと、お腹の子供のこともあり、ちょっとストレスもたまってるようだった。


それでも、家族のためと、働き続けた。



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