第23話 猫の手
頭の中ではわかっている。
この道を選んだのは自分。
そして、その道に今立っている。
実家の母は、夫にすごく気遣うようになった。
時には手作りの煮物も持ってきてくれたり、夫の衣類にアイロンをかけたり・・・。
娘の私が間違ったことを、詫びるかのようにいろいろと気遣ってくれた。
申し訳ない気持ちになるけれど、もう、子供も産んで育っている、この現実を、誰にとっても幸せなものにしたいと思っていた。
でも、私にはすでに精神的な限界が訪れていた。
彩南が彩幸のおもちゃをとって喧嘩をして、二人ともが取っ組み合いの喧嘩になり、二人とも泣いていた。
その大騒ぎで寝ていた彩斗が起きてしまい、三重奏のようになった。
その時、私の中でぷつんと何かが途切れた。
「うるさいよ!!もうやめて!!」
力いっぱい叫んでしまった、そして、私の手は彩南と彩幸の腕を掴んでいた。
少し力が入っていたから、
「ママ、痛いよ、ごめんなさい」
と、二人が謝ってきた。
でも、私にはそれがきちんと聞こえているはずなのに、耳に入らなかった。
そして、私は走って家を出た。
子供たちだけが残された家、わけがわからなくなり、飛び出してしまった。
中から、彩南や彩幸や彩斗の鳴き声がすごかったのはあとから思い出すほど、現実から逃げたくなった、突然に。
実家の母が仕事で来れなかった日だった。
子供を放置してそのままにして、家を飛び出してしまった。
近所の公園のベンチに座った。
深呼吸をして、自分を落ち着かせた。
何も持たずに出てきてしまったから自販機で何かを買うこともできない。
ポケットに小銭はないかと探したけど、なかった。
諦めて、しばらく下を向いていたら、涙が止まらなくなった。
子育ての大変さと、彩斗の出生についてのこと、夫への申し訳なさ、すべてがどっと押し寄せてきた。
せめてこの涙が止まったら家に帰ろう。
そう思って、ひとしきり涙を流し続けた。
猫の手も借りたいほど忙しいなんて、比じゃないくらいの毎日に精神的なダメージが覆いかぶさってきていた。
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