第18話 可愛い悪戯
「バルセロンダ・ルーニャ卿?」
「ああ、漆黒の騎士様だろ」
「すっごく強いって話ですよ」
定例の『箱庭』でのお茶会の日、やってきた婚約者候補の三人を東屋に放り込むと、ラナウィは一同を見回して漆黒の騎士の情報を求めた。
ヌイトゥーラは小首を傾げただけだが、ハウテンスとサンチュリは大きく頷いた。
さすが物知りなハウテンスと騎士見習い予定のサンチュリである。
「どうしてもどうしても彼に悪戯をしたいので、協力をしてほしいのです」
父にこの怒りをどう発散すればいいのかと相談すると、子供の範疇で悪戯をすればいいと教えられた。悪戯はしてはいけないのでは、と若干青くなったラナウィに、父は随分とにこやかに微笑んだ。
曰く、子供の悪戯に目くじらをたてるなんて大人げないのだと。
なんだか、父の後ろから黒いオーラが見えたような気がしなくもないが、それはさておき。生まれてこの方、悪戯などという行為とは無縁の世界に生きてきたラナウィには、何をすればいいのかさっぱりわからない。
父も一緒に昼をとりながら、あれこれと考えてくれたけれどやはりいい案は浮かばなかった。
ただ、目指すは子供らしい可愛い悪戯である。
気持ち悪いと言われたからには、子供らしいふるまいをぜひとも見せてやろうと意気込んだ。
そこで、子供らしいことは子供に聞けばいいと思いついた。そのため、婚約者候補たちに話を持ち掛けたのだ。
「い、悪戯!?」
「悪戯は悪いことなんじゃないのかな?」
「いやいや、自制って言葉がぴったりなラナウィがこんなことを言い出すなんてよほどのことだぞ。僕は協力するね」
何度か対面をして、互いの性格は大まかに把握しているので、ハウテンスはよほどのことがあると理解してくれているのだろう。
「テンスは……きっとやりすぎるから、僕が調整するしかないのかあ。はあ、漆黒の騎士様に悪戯かあ、殺されないかなあ」
「そんなに苛烈な性格なのか?」
「僕も噂でしか知らないけれど、平民出身だけど突出した剣の才能を見込まれて最年少で騎士になった方で、やっかみがすごく多いらしいよ。でもそれをすべて過剰にやり返しているって。一時期は『剣闘王』の後継者かなんて騒がれていたけれど、性格に問題がありすぎて違うんだろうって言われてるんだ」
歴史書を紐解けば、いずれの初代も性格は穏やかで皆から愛される存在であるかのように語り継がれている。実際に何人か現れた後継者も同様に人格者であったらしい。
どこまでが盛った話かは検証できないけれど、国民は皆信じているのだ。
つまり、そこから外れるような性格であることには間違いがない。
「僕、治癒も得意だから!」
「ありがとう、ヌイト~死なない程度に頑張るよ……」
肩を落としたサンチュリを精一杯励ましているヌイトゥーラは今日も安定の可愛さである。ノリノリのハウテンスを調整してくれるサンチュリがいてくれるおかげで、この一味はある意味バランスが取れているとラナウィは感じた。
「テンス、どうすればいいか案はあるかしら」
「そうだね、落とし穴を掘って落とすとか水鉄砲を作って水をかけるとか、まずい料理を食べさせるとか、一室に閉じ込めるとかいくつかは思いつくけれど、ラナウィはどれがいいと思う」
「なるほど、素敵ですわ。さすが『大賢者』の後継者」
「お褒めいただき光栄です、姫様」
優雅に一礼したハウテンスに、にっこりと微笑む。
「すべてを入れて、計画を練ってくださいな。もちろん、この場の全員が強制参加ですわよ――さあ、皆さま、最高の子供らしい可愛い悪戯を漆黒の騎士様にお見舞いして差し上げましょう!」
ちなみに、ラナウィはこの場にいる少年たちがただの五歳児ではないことなど、怒りに任せてすっかり失念していたのは言うまでもない。
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