第8話 『箱庭』の恋
ラナウィはサルバセ王国の王女だ。けれど兄がいて、二番目の子になる。
女王が治める国であるから、兄は家臣に下るか、他国へと婿入りするかになるけれど、そこに確執はなかった。昨年には大臣の家から嫁を貰って、公爵として納まっていて幸せそうではある。
あるとするならば、近しい血を持つ女である。けれど、ラナウィが圧倒的に有利であった。だからこそ、次期女王と呼ばれているのだ。
それは翠銀色の髪に暁の瞳を持つ――『魔女王』の後継者であるからだ。
この国を建国したのは一人の偉大な魔女だった。翠銀色の髪を持ち、暁に燃える瞳をした彼女は莫大な魔力を持ち、何もない平原から一夜にして一国を築いたと言われている。豊富な魔力は全ての創造の根幹だ。彼女を心酔する者は多く、その取り巻きたちがいたけれど、とりわけ三人の英傑が有名だ。
それぞれの力の大きさから『魔道王』『大賢者』『剣闘王』という大それた呼び名がついている三英傑だ。
彼らは『魔女王』の忠実な臣下であったが、彼女はその中から一人を選び愛を与えた。それが『魔女王』の加護だ。
選ばれた男は強運に恵まれ、誰よりも秀でた能力をさらに強化させ、丈夫な体に、たぐいまれな身体能力を得た。彼は王配でありながら、女王を献身的に支え、王国を繁栄させ一時代を築いたと言われている。
それほどに『魔女王』の加護は素晴らしいものだと歴史は語る。
また、『魔女王』に心酔していた三人は、彼女の元に再び集うことを魔法契約の元、魂に制約をかけた。
それ以来、王国は女王を掲げ、再び『魔女王』の後継者が生まれるのを待ち続けた。だがある時を境に、『魔女王』の後継者は生まれず、ラナウィが五百年ぶりとなった。
おかげでラナウィは生まれたときから次期女王としての教育を受けた。
何より、愛した相手に加護を与えると考えられてきた。そして、加護が国外に与えられないように注意を払われて囲われてきた。
王女は国が大切に育て、外に出ることはないけれど、『魔女王』の後継者はその扱いが顕著になる。
ラナウィも同様に、幼いときから婚約者候補がいて、王城の中庭に招いては、共に過ごした。勉強も食事も遊びも、なんでも四人で行った。狭い世界に、四人きり。子供たちの『箱庭』だ。
そうして三人の婚約者候補たちと、それぞれに関係を築いてきた。彼らは剣術、魔法、知略の分野において優秀で頭角を現していた天才たちだ。
自分の加護を必要とはしないのではないかと思うほどには優秀な子供たちだった。
だというのに、大人たちは更なる力の飛躍を望んだ。
三人の中であれば誰を愛してもいいと言われ、お膳立てされたのだ。
彼らは能力だけでなく、容姿もとても整っていたので、優劣はつけがたかった。
たとえ身分差があったところで、ラナウィが選べばその相手に一代限りの爵位を与えるのは当然だと母である女王が公言していたため、大した障害にもならなかった。
どこか、お膳立てされた恋に反発する心がありつつも、ラナウィは三人の中の一人を選ぶのだろうと彼らに会う前までは思っていた。
けれど、実際には三人揃わなかったのだ。
一人だけどうしても『剣闘王』の後継者だけが名乗りをあげない。けれど、三人いると女王の名前で発表してしまった手前、一人欠けているとは言えなかった。
『魔女王』の再来とまで謳われるラナウィの元に、まさか三英傑が揃わないなんてことがあるだろうか。
そのうえ、ラナウィが恋をしたのは『箱庭』に集められた子供たちではなかった。
ラナウィの不幸は、恋を自覚した途端に失恋してしまったことだった。
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