003.描く人・タブレット






 細く白いペンが踊る。

 上から下へ、また戻って、上から下へ。

 動きは一様ではない。滑らかに駆ける時もあれば、考えながら歩く時もある。直線を、あるいは曲線を、白いペンを握る彼は幾度も重ねる。

 彼はタブレットに向かって一心に絵を描いている。電車の座席で、背を丸め、液晶画面に顔を近づけて。サンドベージュの上着の袖が、黒いズボンの膝をこする。

 もう片方の手にはスマートフォン。模写をしているのだろうか、時にじっくりと小さな端末を見つめる。その軌跡の、その色の、その表現の意味を考えているかのように。

 指が動いた。

 白いペンを縦から横に持ちかえる。空いた人差し指と親指がタブレットに張り付き、ぐっ、と開かれる。

 彼は拡大したのだろう細部をしばし凝視し――また黙々とペン先を画面に踊らせる。





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初秋の朝に

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