002.働く人・雑貨小売






 束ねた黒髪、黒の半袖、黒のズボン、黒の靴。その黒一色の上を、覆うエプロンは茶色。

 だから、その背中の紐が斜めにずれているのは、わりあい、目立つ。

 よく動く背中だ。

 中肉中背、年の頃は三十代も半ばだろうか。取り立てて厚くも薄くもない背中は、よく動く。

 小物を多く扱う店であるためお客は多い。3点4点、細々としたものを持ってお客はどんどん並う。レジ打ちをする彼女はマニュアル通り丁寧に応対し、バーコードを読み取り、合計金額を告げる。レジ袋の有無を尋ねるのも忘れない(近ごろ有料となったのだ)。お客の列が伸びればチャイムで応援を呼び、商品について問われれば他の店員に案内を頼む。

 たまに、ぽっかり、お客が途切れることもある。

 そんな時、彼女は周りを見計らって腰をかがめ、保冷カバーのついたペットボトルを取り出し、二口三口と水分を補給する。

 一息入れた彼女は立ち上がる。背の髪は馬の尾のように豊かに揺れる。ずれたエプロンの紐に気がつかぬまま、その背中はまた、よく動き出す。






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残暑に

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