雑踏にて

@memokaki

001.中学生・男子






 彼はA駅から乗車し、おそるおそる2人掛けシートに座った。

 物慣れぬ様子で、そぉっと、車内の吊り広告や乗客を見回す。スマートフォンを取り出す様子は、ない。所持を許されていないのだろう、彼はまだ中学3年生だろうから。今日は公立高校入試日。彼は入試のため、会場である志望校へ行く途中なのだ。

 濃紺のブレザーに白シャツ、首元に色のスカーフ。上はきっちりとした制服なのに、下は青いウィンドブレーカーのズボン。服装を気にする高校生はまずしない、ちぐはぐな格好。朝から春一番の雨風が暴れる荒天だ、おそらくは親に助言されてズボンを身に着けたのだろう。その不揃いな上下が、彼の幼さをいっそう強調する。

 彼はまだ未成熟だ。華奢ではないけれどアジア系の体躯は細く、筋肉もさして感じさせない。なめらかでニキビ一つない肌。顔立ちの凹凸おうとつは浅く、世の面倒事は何も刻まれていない。短い髪の毛先が寝ぐせであちこちに跳ねていて、それがまた、いとけない。

 だが、彼はもう子どもではない。

 自信――できることはしたという落ち着き。

 不安――己の未来が未確定なことへの恐れ。

 その二つを目元に同居させた彼は、頑是がんぜない子どもでは、もう、ない。

 筆記用具や参考書が詰まったカバンを抱き、彼は入試会場である未来へ向かう。





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03.01 雨のち晴天




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