和解のあとの雑多談笑

「古井さんの小説も面白いねぇ……というか僕の文なんてそんな、まだ公開すらしてないのに」

「してください」

 犬飼と私は同時に口に出していた。今日は不思議にも犬飼と発想が合う。話が一段落したところで通話を切り、私たちは再び二人で通話を始めた。

「よかった、一件落着が見えてきたぞ」

「それよりハルさん黒幕説浮上の方が衝撃だったけどね」

「それはそう。驚愕の事実だなぁ」

 私は驚愕の事実を文書ファイルにまとめながら、犬飼に私の立ち回りの上手さを自慢した。

「そういやあれ上手くなかった?あの声を出さずに反応……ってやつ」

「それな」

「反応どころか平然と質問を続けるという……」

「あれは強いわ」

「さて、もう23時かぁ」

「まあオールするんだけどね、意味もなく」

 こうして徹夜しても、明日は日曜日。まったくもって奇跡的だ。

「それでなんだけど、僕は親が寝たから普通にそういう話できるよ」

「深夜テンションでの軽率な猥談やめーや」

「えー」

「それに私の親はまだガッツリ起きてるんよ」

 私の親は遅寝だ。ときには3時頃まで起きていることすらある。

「ええ……」

「まあ、4時ぐらいには寝る……と思う」

「そうだ、今日面白いツイート見つけたんだよね」

「何やってんの」

「いや、午前中に」

「あー、そういうことね」

 と、ここで犬飼がチャットに入力を始めた。


犬飼拓海――でもあんなに取り乱したさゆさん初めて見た

    ――ちなみに

    ――お母さんは場所聞くの失敗したんだけど

    ――「どこにいるの?(優しい口調)」だったんよ

    ――僕は

    ――「さゆ、今、どこにいるか教えてくれない?」って聞きました

    ――「何か周りに場所がわかるものとかさ、ない?」

    ――「よかった。そこにいたんだ」

    ――(ちなみにここで背中摩ってる)

    ――「そこで蹲ってるのしんどいでしょ?あっちのベンチでお話しよ?」


「イケメンか貴様」

 私はそう吐きすてた。犬飼ならやりそうなことだとも思ったが、まさか本当にやっていようとは思わなかった。


犬飼拓海――立ち上がってくれたから

    ――「途中で転んだりとか何もしてない?大丈夫?」

    ――あ、ちな歩道を全力疾走してるとき、周りの人から割とやばい目で見られてた

    ――(全力で走りながら器用にスマホ操作してるからね)


「まあそりゃあそうだろうな。そんなやつ見たら私なら三度見ぐらいするわ」


    ――さゆさんベンチに座らせて落ち着かせてるとき

    ――「大丈夫?」(複数回)

    ――途中で何度か「ごめん」って言われたけど

    ――「いいや、君が謝る必要なんてないよ。ただ僕が行くって決めたから来たの」

    ――「なんで来たのかって聞かれたも答えないよ。まぁそれは後でわかると思うから」

    ――ちな帰り際

    ――母「ありがとうね」

    ――僕「いえいえどうも」

    ――僕「さゆ、あおばくんはもうブロックしといていいからね。後はこっちで全部何とかするから。じゃ(颯爽と去る)」


「お、えらい。イケメンだな」

 私はそう言ってから、前に犬飼が車道側を歩きたくないと言っていたことを思い出していた。


犬飼拓海――ちなみに、公園から家に戻るときはちゃんと車通る側に立ってた()

    ――(歩道っていう概念がない道ね)


 すぐに解消された疑問に、私は改めて犬飼の愛の強さを感じた。気づけばすでに3時。親はまだ寝ていなかったが、やっと寝室に入ったようだった。

「さて、あと三時間で日の出だな」

「まだまだじゃね……?」

「三時間も待つのは暇だからなあ……そうだ、エナジードリンクまだ残ってたわ」

「草」

 私はエナジードリンクを一気に飲み干して、頭上の天井を眺めた。窓の外で光る路地の街灯が、カーテンを透かして花柄を天井に映していた。

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