戦う我らと深夜テンション
「こんばんはー」
青葉の緊張感皆無な声が、私の緊張をより強くした。中学生時代に吹奏楽部の曲紹介や道案内で培った図太い神経も悲鳴を上げている。
「……こんばんは」
私は声が震えるのを抑えるため、深呼吸をして頭の中を空にする。何も恐れることはない、相手はただの調停交渉相手だ。私がヘマをしようが完璧にやり遂げようが、何も変わることはない。決裂しても交渉が成立しても調停は成功する。ならばとことんやってやろうじゃないか。
「お初にお耳にかかります、さゆさんより調停依頼を受け交渉に参加させていただきます、古井論理です」
「あ、よろしくね」
青葉は相変わらず緊張感皆無だ。これは余裕なのか虚勢なのか、それとも平常運転なのか。私にはわからなかった。
「まず現在のさゆさんの状況を説明させていただきます」
犬飼が話を切り出す。青葉は飄々とした態度で聞いていたが、犬飼が
「一歩間違えれば取り返しのつかないことになるところでした」
と言ったところで「そうですか」と明らかに反省の色が見える声で言った。
「それで、青葉さん。これからどうするかお聞きします」
「僕のせいでそうなったのなら離れ……たほうがいい、というより離れる以外ないですよね」
青葉は即答した。あまりのことに私は危うく「本当ですか」と聞き返すところだった。犬飼も耳を疑っただろう。
犬飼拓海――古井君や
――声を出さずに反応求
――仲直りしたいけどしたくない、というかむしろしたくない。
――↑彼女の考え
「それはどういう意味ですか?」
私は少し追求することにした。そして追求しながら犬飼にメッセージを打つ。
古井論理――それって言った方がいい?
犬飼拓海――一応
「僕と関わったからそうなったのなら僕が悪いですよね。繋がっているといってもこのチャットアプリだけですし、フレンドから削除すればすぐに関係は断てます。ですから、関係を切ります」
青葉の言葉が終わると、私はさゆさんの考えを伝えることにした。
「さゆさんは仲直りしたいけどしたくない……というかむしろしたくないとのことです」
「そうならなおさら関係を切ったほうがいいですよね」
「そうですね。そういえばさゆさんは青葉さんと付き合ってるハルさんから青葉さんのことを聞いたり、一緒にいるときに青葉さんからの電話がかかってきて楽しそうに喋るのが辛いと言ってたんですが……」
この犬飼の言葉は、青葉を驚かせたようだった。
「え?そんなことハルからは何も聞いてないんだけど……」
この青葉の言葉に、私と犬飼は同時に驚愕の声を上げた。
「それは……本当ですか!?」
「うん。何も聞いてない」
青葉の言葉に、私は頭が混乱するのを感じた。
「まさかのハルさん黒幕説……?」
「……あるなぁ」
私と犬飼は新たな事実に驚きしか感じなかった。
「で、そういえば君たちはどういう関係なの」
青葉の質問に、私が答える。
「小説を書いている仲間ですね。小説の共同執筆もしています」
すると青葉は驚いた口調で言った。
「へぇ〜、実は僕も書いてるんだよね」
これは意外な事実だった。とっさに私と犬飼は同じようなことを言った。
「どんな感じですか?」
「見せていただけますか?」
青葉は尻込みしたが、私たちが押し切るとテキストファイルを送ってみせた。その文章は、美麗であった。そして同時に筆者のイマジネーションの豊かさを示すものでもあった。
「これは……すごい」
読み終えた私は言った。圧倒的な文才を感じる。この文章は、私には書けない。そう確信した。
「すごいじゃないですか……圧倒されました」
犬飼が感服したといった口調で褒め称える。私たちは自分の小説を送り、青葉に見せた。ここから雑多な談議が始まった。
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