第4話 死の魅力

「お前、それ他の人の前で言うなよ。」


聖女でありながら聖者の在り方を否定する発言。

そんなことが他の聖者に漏れれば異端者として身を追われる立場になることは間違いない。

仮にそんなことになろうものなら誰よりもダリウスが耐えられない。


「どうして?だってそうじゃない。生と死は表裏一体。生きることが尊いなら死ぬことも尊いと思うの。生きる権利が認められているのにどうして死ぬ権利は認められないのかしら。」


アーニャの言っていることは分からなくもない。

だが生きたいと願う事こそ人間の本能ではないのだろうか?

そんな当たり前のことに疑問を抱く彼女が怖いと思ってしまった。

そしてそれと同時に悲しいとも。


「じゃあ同郷の頼みとして他言はしないって約束してくれよ。」


「そうね、ダリウスの頼みなら少なくとも聖者には言わないわ。それよりもダリウスはここに居ていいの?」


少なくとも聖者には言わない、そんな言い方にひっかかりを覚えたがその後の発言がすべてを吹き飛ばした。


「そうだ!俺はお前を探してこいって言われてたんだ。行くぞ、アーニャ。」


「えー、いやよ。今行ったら絶対に怒られるじゃない。」


人の気も知らないで。

あのメリダ様をみていないからそんなことを言っていられるんだ。

もし連れて行かなかったら激昂したメリダ様に何を言われるか。


「いいから、来いって。」


多少乱暴になってしまったがダリウスはアーニャの手を取り木から飛び降りた。

そして手をつないだまま正門へと走る。

靴は、、、、まぁいい。



「はぁはぁ、聖女アニスターシア様をお連れしました!」


正門へと駆け戻り息も絶え絶えに報告をする。

だが正門に待機していた先輩兵の表情はすぐれない。

その表情だけで何かあったことは明白だろう。


「ダリウス、すぐにアニスターシア様をお連れしてメリダ様の支援に迎え。分隊長たちだけでは手に負えないらしい。救援を呼んではいるが時間がかかる。」


分隊長たちで手に負えない、そんな相手に自分たちが加わったところで何かが変わるのだろうか?

だが上の命令には逆らえない。


「はっ!」


敬礼をしすぐにアニスターシアの手を引き街道へと駆けだした。

門をくぐるときにちらりと後ろを振り返ると外へ出られるのがうれしいのかアニスターシアの顔はさっきよりも生き生きとしていた。

ここまで走ってきたにも関わらず息一つ上がっていない。

そんなことを恨めしく思いつつもダリウスは全力で走り出した。



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