第3話 聖女(見習い)
*
「ふふ、きっと今頃は先生大慌てね。もしかしたら顔を真っ赤にして怒っているかしら。」
聖都に数多くある公園の一つにアニスターシアはいた。
聖女の衣装を身につけたまま公園の端に立っている大きな木の枝の一本に座っていた。
アニスターシアは正確にはまだ聖女ではない。
聖女の資質を兼ね備えてこの世に生を受けたアニスターシアはこの聖都へと連れてこられ魔法の何たるかや幅広い知識を教会で学んだ。
そして聖女見習いとしてメリダについて自立するまで学ぶことになったのだった。
今日がその一日目、初日からアニスターシアは務めを放棄したのだった。
「アーニャ、やっぱりここか。」
下からアニスターシアを呼ぶ声がしたので枝の間から顔を出す。
だが顔など見なくても声の主は分かっていた。
「ダリウス、あなたもどう?気持ちいいわよ。」
彼女の想像していた通り声の主は一等兵士であり、友人のダリウスだった。
ダリウスは彼女がここに来る前からの友人であり幼馴染でもある。
彼女が聖都へと引き取られてから彼も彼女を追うようにしてこの聖都へ兵士候補生として聖都の門をくぐった。
「相変わらずだな、お前は。それよりもいいのか?メリダ様かなり怒っていたぞ。」
ダリウスは軽々と木へ登りアニスターシアの隣へと腰を下ろしてからそんなことを言った。
彼らの故郷ではよくこうして木に登り多くを語り合ったものだ。
ダリウスはそんな時間が嫌いではなかった、そしてそれは今も。
「知ってるわ。でもせっかくあの協会から解放されたのにまたあんなところに缶詰なんて耐えられないわ。」
「けどそれがアーニャの仕事だろ?お前みたいなお転婆でも聖女様なんだから。それになんでも数千年に一人の逸材とか。」
大きく伸びをしながら悪びれる様子もなくそんなことを言う。
すでに彼女は靴を履いていなかった。
ダリウスは呆れつつも彼女が聖女であることを望んではいないことも、聖女に向いていないことも百も承知で意地の悪いことを言ってみた。
だが彼女が逸材というのは本当のことだ。
でなければいくら聖女の資質を兼ね備えていようが修行前の者を聖都に連れてくることなどありえない。
「ダリウスって時々すごくいじわるよね。私がそのことを心から嫌っていることを知っているくせに。」
アニスターシアはダリウスがわざとそう言ったこともわかっている。
口をとがらせながら反論する姿は昔と全く変わっていない。
あの頃村で一緒に過ごした時のままだ。
「ねえダリウス。どうして人はそんなに救われたいのかな?だっておかしいじゃない。人はいつかみんな死んじゃうんだよ?それは神様が決めた絶対で、もし今私が死ぬとしてもそれは運命ですでに決まっていたことかもしれない。それなのにどうして人は運命に逆らってまで生きようとするのかしら?私たち聖者が人を救う行為は何よりも信奉している神様を裏切る行為だと思うの。」
ダリウスが過去に想いを馳せているとふいにアニスターシアがそんなことを尋ねてきた。
聖女らしからぬ発言は今に始まったことではないがこの発言にはさすがに驚いた。
なにせその発言は聖者の在り方そのものを否定するものだったからだ。
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