第2話 聖女様ご乱心

「アニスターシア!!」


普段の温厚な聖女様は何処へ、、、。

気高く、優しく、誰に対しても真摯に接する姿はまさに聖女の鏡、とまで言われた彼女が。

一度は大司教、そしていずれは教皇に、とまで言われた聖女メリダが。

顔を真っ赤にし、拳を振り上げそれこそまるで手のかかる子供を叱る母親のように、見えない相手に向かって怒鳴りつけていた。

いや、母親というよりは食堂のおばちゃんの方がしっくりくるようなそんな迫力がある。

これがあの聖女の鏡、メリダ様なのかと自身の目を疑いたくなる光景がそこにはあった。

そんな聖女様ご乱心の様子をすべて見てしまったダリウスはどうしていいかわからずにただ立ち尽くすしかできない。

だがダリウスをその場にくぎ付けにしている理由は聖女様のご乱心だけではない。

彼女の発した名前、

ダリウスは彼女のことをおそらく誰よりも知っている。


「ダリウス!聖女様をお呼びするのにどれだけかかっているんだ!貴様、民の命がかかっていることを忘れたのか⁉・・・・・・・・・コレは一体?」


「ぶ、分隊長!えっと、コレはその、なんなんですかね?」


聖女様のご乱心には終止符が打たれた。

待てど暮らせど一向に現れる気配のない聖女様に痺れを切らしたのか詰所に待機していた分隊長自らのお出ましだ。

だがさすがの分隊長も状況の理解が追いつかないらしい。

百戦錬磨の騎士とてご乱心の聖女様と出会うのは初めての経験らしい。

そんな分隊長の様子を見ていたらダリウスもつられてよくわからない返事をしてしまった。

聖女様を連れてくるという簡単な任務もこなせず分隊長の質問に質問で返すなど。。。。

これが平時ならこの時点で懲罰は免れない。

聖女様たちが住まう都というだけあって軍の規律はかなり厳しい。

いくらダリウスが新人だからといってこれはありえない失態である。

だがよくも悪くも聖女様のご乱心のおかげで誰も気に留めるものなどいない。


(あっぶねぇー。助かった。それにしてもアニスターシアか、、、。)



「はっ、め、メリダ様どうされましたか?」


だがそこはさすが百戦錬磨の騎士、冷静さを取り戻すのは早かった。

聖女様に声をかけ、冷静にするつもりなのだろうが、まずこの状況で声を掛けられる勇気をたたえたい。


「ダン、あなたがなぜこちらに?ええ、いいわ。なんでもありません。ええ、なんでもありませんとも。」


聖女様、まだ語尾に怒りマークが付いてます、、、、。


ダン分隊長がメリダ様に説明をしている様子を眺めながらダリウスはそんなことを思っていた。

俺はいったいここで何をしているのだろう。

ダリウスがそんな思いに駆られたことは言うまでもない。


「その様子ですと私一人で問題ありません。他への応援は保留にしておいてください。では行きましょう。」


「はっ!なにしてるダリウス、行くぞ。」


メリダ様と分隊長の会話をボーと眺めていたダリウスは危うく置いて行かれるところだった。

危ない危ない。


「そうです。ダン、ダリウスを少しお借りできないかしら?少し彼に頼みたいことがあるのだけれど。」


落ち着いた色合いの玄関扉を開こうとしていたメリダはそこで動きを止めあわただしく鎧の兜をつけなおしているダリウスに向き直る。

聖女様が所用に一般兵を使うことはよくある。

特に珍しいことでもないので断る理由などもないのだが聖女様の表情がなんか悪い。

絶対になにか企んでいる。

断固拒否!

そう叫んで早いとこ隊に戻りたかったが一兵士であるダリウスが断れるはずもなく、黙って聖女メリダから下される命令を待つしかなかった。


「ダリウス、あなたを見込んでお願いするわ。あの子アニスターシアを探してちょうだい。」








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