死神になりたい聖女様
銀髪ウルフ
第1話 神の都
*
「聖女様!どうかあなた様のお力で私の娘をお助け下さい!」
聖都エウラリア。
ここはラシード王国の東に位置する神の都とも称される緑豊かな土地である。
その名の通り多くの聖職者たちがこの地を目標として各地で修行の日々を過ごしている。
いわば聖職者たちの聖地である。
そして聖職者たちの本部、フィデス教会があるのもここ聖都エウラリアだ。
当然のごとく日々多くの者たちが救いを求めてこの地を訪れる。
ここでは国王の言葉ではなく、聖者の言葉が都に響く。
人々を守るのは騎士の剣ではなく聖者の祈り。
人々が払うのは税金ではなくお布施。
ラシード王国にありながら国の以降が届かない地。
そんな聖都エウラリアでは今日も救いを求める人々の声が上がる。
*
「た、大変です!街道に複数の魔物が出没、こちらへと向かっていた商隊が被害にあったようです!すぐに聖女様も我々と共に救助に向かってくれとのことです。」
聖都の正門付近に作られた待機所、そこにはこういった場合に備え、当直と呼ばれる聖者が常に2人が常駐していることになっている。
正門に作られた詰所にももちろん兵はいるがそんなところに聖者様を入れられないという声のもとこの待機所が作られた。
ちょっとした家くらいの広さはあり快適度はこれ以上ないものになっている。
そして例にもれず今日も2人の聖女がこの詰所で待機しているはずだ。
魔物の襲撃を受け、一等兵士であるダリウスは待機所までの伝令を任され、急いで詰所を飛び出してきたというわけだ。
通信道具を使うほどのない距離の伝令。
用は使い走りだが聖女様と言葉を交わす数少ない機会である為、断る理由などない。
それにもともと断る権利もダリウスは持ち合わせていなかった。
「お落ち着きなさい、ダリウス。ですがそれは大変ですわね。わかりました、すぐに向かいましょう。」
窓際のゆったりとした一人掛けのソファーに腰掛け本を読んでいた聖女メリダは本を閉じる。
南区の司教でもある彼女は歳の功もあるがさすがに落ち着いている。
魔物の襲撃と聞いても取り乱す様子もなければ顔が青ざめるようなこともない。
一緒に現場に向かう聖者としてはこれ以上の人物はいない。
安心することによって周りを見渡す余裕のできたダリウスは部屋を見渡しあることに気が付いた。
《足りない》
「ありがとうございます。ですが、えっと、その、聖女メリダ様。もう一人の方はどちらに?」
そう、この待機所には常に《2人》いるはずなのだ。
現に引継ぎの際に顔を出した時にはきちんと2人いたのを確認している。
それが今目の前にいるのは聖女メリダ様だけなのである。
平屋であるこの家には一部屋しかなく、あとはトイレと簡易キッチンが取付られているだけだ。
隠れる場所などない。
となると考えられることはただ一つだけ。
「また、、、。」
部屋を見渡し、茫然と佇む聖女メリダ。
聖女メリダの体から何かが溢れでている。
ヤバイ。
ダリウスは本能で理解する。
だが立ち去ることも指一本動かすこともできない空気がすでに部屋を満たしていた。
「また、、、。」
同じ言葉をつぶやく聖女メリダ。
「また、ですか?」
沈黙に耐えかね問い返すダリウス。
「また逃げましたね!戻ってき来なさい!アニスターシア!」
腕を振り上げ大声で叫び、取り乱す聖女をダリウスは初めてみた。
しかもその相手というのが偉大な南区の聖女様。
これは悪い夢だ。
ダリウスは目の前で起きていることを自身の心の奥深くにしまうと神に誓ったのであった。
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