第2話
「ごめん、部屋とベッドわけてもいいかな?」
そう言い出したのは、彼女だった。
「あっ、そっか、そうだよね。プロジェクトあるしね、、、」
「なに?寂しいの??」
「そりゃ、寂しいよ。寂しいに決まってるだろ!」
「決まってるんだ??」
そうからかいながら、ころころと笑う彼女はとても愛おしくて、もう付き合って3年と半年も経っているのに、僕らはとても仲が良かった。
彼女と僕は一緒の会社の同期だ。歓迎会でお互い深夜ラジオにハマっていることがわかってから意気投合。そこから、僕からの猛アタックの末、恋人になった。
彼女は僕よりも遥かに優秀で、人望も厚かった。そんなこともあってか、僕たちの代では初めて大きなプロジェクトを任されることになった。
帰る時間が遅くなるから、僕に迷惑かけたくないからと彼女はそういうけど。
部屋とベッドをわけることに、僕はどこか寂しさと少しの劣等感を感じていた。
彼女の言う通り、プロジェクトが始まってからは一緒に過ごす時間がぐっと減った。
彼女はプロジェクトのリーダーとして、誰よりもしっかりしていなければと、朝から晩まで会社に篭っているようだった。
いってきますのキスも、おかえりなさいのキスも、おやすみのキスだって、もういつからしていないのだろう。
ピロンと携帯が鳴る。
『今日、一緒に飲まない?』
普段だったら断ってるそのお誘いに、何故かその日は行きたくなった。
『すぐ行く。場所どこ?』
飲み会が終わって、家に着いても、彼女は帰っていなかった。
どこに行ってたの?とか、珍しいねとか、私も飲みたいのにとか。
愚痴だって、説教だって、拗ねた態度だって、全部受け止めるつもりでいたのに。受け止めたかったのに。
想像していたあの頃の二人は、もうどこにもいなかった。
そこから僕は飲み会に明け暮れるようになった。
毎日のように、居酒屋へ繰り出しては、同期と、はたまた大学の友達と、毎晩飲むようになっていた。
彼女のプロジェクトが終わったその日だって、僕は飲み会に行っていた。
プロジェクトが終わっても、僕たちの関係性は変わらなかった。
朝もほとんど会話をせず、僕が帰るころには彼女は自分の部屋で寝ていたから。
一緒に過ごす時間なんて、ないのと一緒だった。
いつのまにか開いていた溝に気づかないフリをして、僕は毎日を過ごしていた。
そんな日々が続いていたある日、飲んでから帰った家には久しぶりに彼女の姿があった。
「おかえりなさい」
そう言って、口づけをする。
いつぶりだろうか、おかえりなさいのキスなんて。
動揺する僕に気づかないフリをして、彼女はもう一度キスをする。
唇がやっと離れたところで、彼女が口を開いた。
「また、私からキスしてるね」
「えっ」
「あのさ、結婚しようよ」
「えっ」
この流れで、このタイミングで、まさか結婚の話が出るとは思わず、呆然とする。
そんな僕を悲しそうに見つめながら、彼女は微笑んだ。
「即答できないんだ、そっか」
その場から動けない僕をよそに、バタンと扉のしまる音がした。
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