第一章 《初めまして新世界》-4
ミクトルは、テーレとともに彼女の拠点へ向かうことになった。
そのための移動手段は、彼女の乗ってきた四輪車だ。
テーレの乗ってきた四輪車の後部に、ミクトルは腰掛ける。漆黒のゼミウルギアが座る玉座はそのまま移動用の荷台となり、四輪車で牽引して移動を始めた。
「この車は法力を使って動いているわけではないようだが、お前の持っていたこの結晶板はなんだ? 施設の扉を開け、オレを目覚めさせた。オレの時代の
後部座席でアベスタを手に取るミクトル。なんだ、という質問に前から返事が来る。
「さぁ、わたしもよくはわからないの。おじいちゃんから貰った……ううん。遺したもので、たった一つの形見だから。手探りで使ってるの」
肩を竦め、薄い笑みを浮かべるテーレ。表情が見えないため、感情は見えない。
だから彼女の言葉に、ミクトルは疑問符を浮かべる。どういうことだと体を起こそうとしたところで、キィィィィッ! と四輪車が止まった。
何事だ、と問いかけようとしたミクトルは前方に何かが立っていることに気づいた。
「な、なんでここに!?」
四輪車から降りたテーレは、驚愕と怒気の混じった声を張り上げる。おもむろに車両から降りたミクトルの目には、巨大な人型機械が映った。
「ゼミウルギアか? にしては、ずんぐりというか、太いというか、少し小さい?」
ミクトルが眠っていたものとは違い、四角い箱をいくつも組み合わせたような胴体と、直線的な手足。表面に紋様も結晶体もない。大きさも成人男性の十倍強、と言ったところだ。けれども肩には意味のなさそうなトゲの鎧がある。
その真ん中。胸部にあるハッチから顔を出す禿頭が、目に入った。
「こんなところに、一体何しに来たのよ! コーダ!!」
勇猛果敢に進み出るテーレ。ミクトルは一瞬、彼女の横顔に恐怖が浮かぶのを見た。
「誰だこのハゲ」
彼の呟きは相手側には聞こえなかったようだ。禿頭にきついメイクを施した色黒で筋肉質な人物は、ゼミウルギアの上からテーレに声をかけた。
「テーレちゃんよぉう! いいもの発見したみたいだなぁ?」
ずいぶんと奇抜なものが来たな、とミクトルは内心呟く。
彼らはテーレと職業分類上は同じ発掘師と言っていいだろう。
だがそのやり方は無法そのもの、古代の遺産への敬意など全くない。壁をぶち破ってでもお宝に辿り着き根こそぎ奪う。先客がいればそれからも奪う。そんな輩だ。
「知り合いか? オレが言うのもなんだが、友人は選んだほうがいいぞ」
「どっちかっていうと敵対者よ!」
吐き捨てるかのような言い方は、テーレはこの男が相当嫌いなのだと、ミクトルにも理解させる。コーダと呼ばれた男の後ろにはさらに四機のゼミウルギアが控え、各々の手には巨大なライフルが握られている。
どうやら、出口で待ち伏せされていたらしい。二人は否応なく理解した。
「まさかこんなところに古代遺跡が眠っているとは思ってなかったぜぇ。お前のケツを追っかけてぇ、正解だったなぁ」
テーレのことを嘲笑うかのような調子で言い放つコーダ。その様子から、この出会い方も一度や二度のことではないのだとミクトルには察せられる。
「いっつも卑怯なことして……。なんでわたしばっかり!」
「おいおい、これでも俺はお前を評価してるから、今日もご挨拶に来たんだぜぇ」
「要するに横取り専門のザコか。嫌な奴に目をつけられたものだな、お前も」
「なんか言ったかテメェ!」
今度の呟きは、しっかり届いたらしい。コーダは一瞬にして憤慨し、彼の乗るゼミウルギアのライフルがミクトルに向かって放たれたる。ゴンッ! と鈍い音が響くと、着弾とともに土煙を上げた。
巻き上がる砂塵がミクトルの姿をテーレの車両ごと覆い隠す。
「ミクトル!」
テーレがミクトルを心配する声を遮るように、コーダは声を張り上げる。
「毎日毎日健気に頑張っちゃって。死んだジジィたちはさぞ嬉しいことだろうねぇ」
明らかな嘲笑。ミクトルの方に向いていたテーレの視線が、コーダに向かう。鋭い目つきに、コーダはわざと怖がってみせる。
だがすぐに、その顔は嗜虐的に歪む。
「壊滅したギルドの生き残り。誰にも守られない一人っきりの発掘師。逃げるのばかりが得意なテーレちゃんも、ここじゃあどこにも逃げられなぁい」
この先にはミクトルの眠っていた遺跡がある。だがそこが安全とは限らない。むしろ完璧な袋小路。巨大な人型兵器に立ち塞がられた今、彼女に逃げる術はない。
「紳士な俺たちの最大限の配慮だ。見たところ、その荷台の奴はゼミウルギアみたいだな。それを置いていけば見逃してやるから、またお宝見つけてよ。なぁ?」
評価はされているのだろう。
ただしそれは、自ら餌を見つける犬と同じ評価だ。
ここで発掘品を渡せば安全は確保できる。
だがそれは、自らの誇りも魂も削り落とした、屈辱的な敗北と何も変わらない。
「せっかくジジイから受け継いだ発掘師の才能だ。せいぜい有効に使いなよ!」
高笑いが峡谷に響き渡る。ひどく不愉快なのに、何もできない。
その悔しさは、むしろ涙を流すことなど許さなかった。
強烈な怒りが、テーレにその一歩を踏み出させようとする。
「ガタガタ騒ぐな。耳障りだ、三下」
その声に、テーレも、コーダも、その部下も、一斉に土煙が上がっていた箇所を見る。
そこには、無傷で砲弾を踏みつけるミクトルの姿があった。
どういうことなのかと困惑するコーダたちだが、テーレには思い当たる節があった。
彼は一体、何から目覚めたのか。
疑うしかない言葉を疑わなければ、彼は何者か。
「な、なんで生きてんだテメェ!? てか、誰が三下だ!」
「あいにく、今、オレは自分の立場を模索中の身だ。一先ずお前たちは下に見ておく」
常人なら直撃していなくてもライフルの衝撃に倒れているはず。
なのに、この男は人の腕ほどある弾丸を、どうやってか踏み潰していた。正確には、足の裏に現れた半透明の壁によって、だ。
その事実に、長い期間ならず者として生きてきたコーダの直感が警告を鳴らす。
「法力障壁……、テメェ、古代式ゼミウルギアのパイロットか!?」
コーダも、決して無知というわけではない。
ゼミウルギアの弾丸を止める手立てが、生身の人間にあるはずはない。となれば、目の前の相手は普通ではない。
「ほう。それなりに知識はあるか。無法なだけのハゲワシではないな」
コーダは追撃の弾丸を撃たない。足元に忍び寄る恐怖が、体全体の動きを止めた。
対するミクトルに、一切の恐れは存在しない
「本当に、あなたは、一万年前の……?」
困惑するテーレに向けて、ミクトルは肩を竦ませて見せる。
「言っただろう。テーレ、オレは、かつて覇王と呼ばれた男だと」
かつて、この世界に大きな大戦があった。
今は忘れさられた、星の命運を決める戦いだ。
その戦いで活躍したのが、ゼミウルギア。ヒトの形をした
古代式ゼミウルギア起動のカギとなる力である『法力』は、心臓の上にある法力器官と呼ばれる臓器を持つことによって生じるものだ。
祈りや願い、想いの強さが法力の強さと直結する。それは「こうなって欲しい」「こうしたい」ことを具現化させる力でもある。
そのため、法力を『世界の法則に干渉する思い込み』とも表わされる。
そして法力を具体的に使役すると『法術』と呼ばれるものになり、それを駆使する者たちを、ゼミウルギア操縦者という意味を含めて『
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