第5話 森の異変


「はあっ! せいっ!」

「ハハハ、キレがないぞ。もっとフェイントを入れないと」


 昼過ぎ、

 俺は、久しぶりに帰ってきた父さんに、剣術を教えてもらっていた。


 スキルは、ある程度揃ったし、

 俺は、剣をメインウェポンにするつもりなので、父さんに頼んで久しぶりの休日に、教えてもらっている。


 バキッ

 父さんと俺の木剣がぶつかり、俺の木剣が折れた。

「その年にしては上手だが、まだまだだな。そもそも工夫が足らない。

 剣は、工夫が全てだ。」


 単純な力で木剣をへし折っておいて、それを言うのか。

 まあ、父さんの言うことにも、一理ある。

 それにアドバイス自体はしてくれているので、文句は言えない。


「じゃあ、工夫の仕方を教えてよ」

「それは、自分で考えて身に付けろ。俺もそうやった。……あ、言い忘れていたが、しばらく森には行くな」

「どうして?」


「最近、森がやけに静かになったんだ。それで調査に駆り出されたんだが、

 普段は、いるはずの魔物が、一匹も見当たらない。

 何かが起こる前兆かもしれんから、しばらく森には行くなよ」


 なるほど、貴重な情報を貰った。

 言われたように、しばらく森に行かないようにしよう。

 その後、夕方になるまで模擬戦をして、家に帰った。


 そして、俺は[生活魔法]の[水生産]で作った水を[着火]で温めて作った風呂に浸かっていた。

 前までは、母さんが一人でやっていたらしいが、俺が[生活魔法]を覚えてからは、俺も手伝っている。


「ハアー、疲れがとれていく」


 今日は、一日中ずっと模擬戦をしていたから、疲れが溜まっている。

 その疲れをとっていると、

「……ッ!?」

 突然[気配察知]と[魔力感知]がとんでもない反応をした。


 急いで、風呂を出て父さんのところに行く。


「父さん!」

「ああ、分かっている」


 父さんは、すでに鎧を着て、剣を持っていた。


「アル、念の為にこの剣を持って家の中にいなさい。

 俺は、村の外に出るから、もしものときは、お前が母さんを守れ」


 そう言って渡された鉄剣の重さに、思わず体のバランスが崩れる。

 その様子を見て父さんが笑う。


「ハハッ、アルにはまだ早かったか。母さんを頼んだぞ」

「父さん、死亡フラグを立てないでよ」

「死亡フラグ? 何だそれ」

「とにかく、生きて帰って」

 

 そんな当たり前の会話をする。 

「アル、じゃあ行っている」


 父さんは、家を出ていった。


「俺が、父さんの代わりに、母さんを守るんだ」


 そう決意していると、誰かが慌てて、家の中に入ってきた。


「ガルス! ガルスさんは、いるか! ミアが、ミアが見当たらないんだ」


 え? 嫌な予感が、体を突き抜ける。


「父さんは、出ていったけど、ミアが見当たらないって本当なの?」

「あ、ああ、本当だ」


 俺は、知っていた。ミアが、毎日密かに努力していることを。

 俺は確信した。ミアは、森にいる。


 どうしよう。警備隊は、村を守るために、動けない。

 動けるのは、俺だけだ。

 だけど、俺は、父さんに頼まれたんだ。

 母さんを頼むって。

 もし母さんになにかあったら、父さんに示しがつかない。

 どうすれば、どうすればどうすれば……


「行っていいよ」

 母さんの声が聞こえた。


「大丈夫。私、これでも昔は、お父さんと一緒に冒険者として世界を飛び回っていたのよ。このぐらい、自分で生き残れる」


 いや、母さんは、全力を出せない。普通の状態だったら、父さんも、母さんを連れていくはずだ。だって

「母さん、妊娠してるじゃん」


 母さんの腹は、膨らんでいた。


 女性は妊娠すると、子供に全ての魔力注がれるため、全ステータスが50%低下する。

 その上、魔力は常に0なのだから、魔法使いの母さんは、ただの一般人位の力しか出せない。


「大丈夫。子供のミアちゃんよりは、まだまし。それに、ここは村の中。森よりも安全」


「……ありがとう。母さん」 


 俺は、森に駆け出していた。














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