第34話 三鷹は今日も大忙し!(1)

 大赤道儀室から外に出たところに太陽系の土星の模型が置いてあった。「太陽系ウォーキング」の終点だ。土星は大きな輪がついているのですぐにわかった。

 天王星・海王星と準惑星の冥王星については、土星の横にまとめて解説がある。

 土星の次は天王星だ。そこまでは、土星から、さらに太陽から土星の場所までの距離と同じくらいの距離がある。道はここまでなので、ここの「太陽系ウォーキング」はここで終わりらしい。

 外はもう暗くなっていた。天文台は五時で公開終了だ。その時間が近づこうとしている。ほかに展示室があるのだが、ゆっくりと見学しているとそこまで行っていられなくなった。

 もし来年の春に新入部員が入れば、もういちど、このメンバーでここに来る時間はあるだろう。そのときには、セリには寝過ごさせないようにして、もし寝過ごしたらほうっておくことにして、もう少し時間をとって来ようと思う。

 大赤道儀室から、最初に見た第一赤道儀室に戻る。今度は、太陽系を土星から木星へと戻る順番になる。土星から木星がまた遠かった。土星も木星も大きいから、両側が広く空いている必要があるのだろう。

 こういうのってグミ先輩ならどう説明するんだろう、と暁美あけみは思う。それから、いまオーストラリアにいるグミ先輩はどうしているんだろう、とか、グミ先輩だったら、菜緒なおさんに頼らなくてももっと自分でいろいろ説明できるだろうな、とかいろんなことを考えた。

 空から照らす月がちょっと涙ににじみそうになる。でも。

 「えっ、これですか?」

 セリが妙な声を声を立てたので、暁美の感傷もそこで終わりになった。

 「そう。これ」

 セリとなずなと菜緒さんは、「地球」の説明版の前に集まっている。暁美も後ろからのぞきこんだ。

 「これって板を固定するピンじゃないんですか」

 「地球」の説明版についている小さい銀色の球のことを言っているらしい。

 「違うって。これが一四億分の一の地球。そこまで縮めると直径が一センチぐらいになるの」

 「でも、木星とか土星とか、大きかったじゃないですか?」

 「木星は地球の一一倍だから、地球が一センチだとしたら一一センチぐらいかな」

 「それぐらいでしたよね」

 なずなが両手で「一一センチ」ぐらいの幅を示して、横から言う。セリは、ああ、そうか、と言っている。それで納得したかどうかはわからない。

 「ね?」

 菜緒さんが優しく言った。

 「一一倍ってことばでいうと大したことなさそうに感じても、模型で見るとぜんぜん大きさが違うでしょう?」

 「うん」

 「ああ、それに、夏に部長さんが言ってらしたとおり、横幅だけじゃなくて高さとか奥行きとかもあるから、ほんと大きいですよね」

 ああ、そんなこと言ったっけ、と思う。

 あのときはグミ先輩に見てもらうことに気をとられていた。あの日は部員ではなくてただの見学者だったなずなにどれくらいわかるように説明しただろうか。

 自分ではよくわからない。

 「でも、望遠鏡で見たより、大きさわかるよね」

 セリがその暁美をちらっと見てから言った。

 「望遠鏡で見たら、ああよく見えるな、きれいだなとか思うだけで、大きさとかあんまり意識しないですから」

 「そうね」

 菜緒さんが答えた。

 暗くなってきて、第一赤道儀室の明かりが明るく、温かく見える。さっきは、外からでは明かりがついているのもわからないくらいだったのに。

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