第28話 太陽系ウォーキング(1)
「さて、この第一赤道儀室の前から、向こうの大きい望遠鏡のあるところまでの道に、水星から土星までの惑星の紹介のパネルがあるんだけど」
第一赤道儀室を出て、
「セリちゃん、惑星の順番、わかる?」
「うん。水星、金星、地球でしょ、で、火星、木星、土星、それで天王星と海王星。今年の夏にさぁ、アケビに言われてちゃんと覚えたよ」
それは、つまり、言われるまで覚えてなかったということだ。
そこまで言わなくてもいい。
菜緒さんは説明を続けた。
「ここね、百メートルあるんだけど、説明版のある位置が、太陽から惑星までの距離の一四〇億分の一になってるの。だから、ここの一メートルは、太陽系の空間で一四〇〇万キロっていうことになるわけ」
「……って、どれくらい?」
セリが暁美にきく。
「地球と太陽の距離が一天文単位で、それが一億五千万キロだから」
セリが「天文単位」という表現がわかるのは暁美は知っていた。
忘れていなければいいけど……。
「ここの一メートルはその一〇分の一よりちょっと短いくらいかな。だから、ここで地球までが一〇メートルちょっとってことになるよね」
「わかった。ああ、じゃあ、水星まではすぐ、ってことね」
「だいたい四メートルだね」
菜緒さんが声をかける。セリはどんどん先に行く。
「で、金星、地球、火星、と」
セリが先頭を切って説明版の前をすいすいと通り過ぎてしまう。暁美となずなと菜緒さんがその後ろをついて行く。
水星、金星、地球はだいたい同じくらいの間隔で並んでいた。地球から火星がちょっと離れているけれど、ここもすぐに通り過ぎる。太陽から火星までは太陽と地球のあいだの一・五倍ぐらいだから、一五メートルほどだろう。
ところが、その先がない。
セリが菜緒さんを振り返ってきく。
「これって、火星までですか?」
「いや。ちゃんと土星まであるよ」
「ないじゃないですか?」
「ちゃんとあるから」
菜緒さんがセリを追い抜いてどんどん進んだ。だいぶ進んだところに、やっと「木星」の説明版があった。
振り向いて見ると、さっきの火星のところがもう遠い。
「なんでこんなに木星が遠くに離れてるんですか?」
セリが不満そうに菜緒さんにきく。
「だって、木星ってほんとにこれぐらい離れてるんだもん」
「でも、火星があそこですよ」
セリが後ろを振り向いて指さす。
わりと、はるか向こうだ。
「そう。火星と木星って、これだけ離れてるの」
「たしか、夏の観測会のとき、八億キロって言ってましたよね?」
「うん」
暁美は、自分が時間をかけて考えて話したことをなずなが覚えていてくれたので、うれしい。思わずセリに先輩風を吹かせたくなる。
「セリちゃんさあ、火星が太陽から二億キロちょっとで、木星は八億キロなんだから、これぐらい離れてるんだって」
しかし、暁美も、火星と木星のあいだを一四億分の一の縮尺で歩いてみて、その「六億キロ」の距離の大きさに驚いていた。
春に来たときには、暁美もまだあまり知識がなかったからそんなことに驚きもしなかった。
「でも、なんでこんなに離れてるんですか? 火星まではわりとくっついてるのに」
セリは、その暁美のほうは見ないで、菜緒さんに向かってきいた。
「あいだに小惑星帯があるから」
「それでも、火星のところまで、一五メートルぐらいでしたよね?」
セリが「小惑星帯って何ですか?」ときかなかったので、暁美はとりあえず安心する。
「うん」
「それで、ここでいうと、ここが太陽のところから……」
「五五メートルくらいかな?」
「だとすると、かりに小惑星が火星から二〇メートルのところにあったとして、また小惑星からも二〇メートル離れてるってことになるわけですよね? 最初のほうは一五メートルのあいだに四つも惑星があって、それから二〇メートル何もなくて、小惑星帯だけあって、それからやっと二〇メートルもあって、木星なんて。バランスがとれてなくないですか?」
セリにしては理屈っぽい言いぶんだと暁美は思う。
「いえ、それでバランスが取れてるの」
菜緒さんは答えた。
「だって、木星は大きいでしょ。ほら、一四億分の一の模型で、こんな大きさがあるんだから」
菜緒さんは、説明版の上についている銀色の球をとんとんとたたいて見せた。
「あれ? こんな模型、いままでの惑星にはついてなかったですよね?」
「ちゃんとついてるよ」
菜緒さんがセリの疑問に答える。
「あとで見てみるといいよ。つまり、気がつかないぐらい小さかった、ってことだよね」
「そうなんですか……?」
セリは不満そうだ。
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