第25話 ファイン・ガール、国立天文台へ行く(3)

 三人は受付に寄り、受付をすませて見学ガイドと紙のワッペンをもらった。

 「その紙のワッペンはどこか服の目立つところにぺたって貼ってね。紙に貼っちゃうと取れなくなるから気をつけて」

 そう言ってから、声をかけたお姉さんは、自分の名まえは桧茂土ひもと菜緒なおだと自己紹介した。

 「案内しようか? 天文台」

 「え、いいんですか?」

 暁美あけみがきく。

 「ええ。だってそのためにいるんだもの」

 「あ、天文台の案内係の人ですね」

 セリが口をはさむ。

 「ええ」

 菜緒さんは答えた。

 「でも、天文台の係っていうより、学生でね、ボランティアでやってるの。ふだんは大赤道儀室だいせきどうぎしつっていうところにいて、天文台の歴史の説明とかやってるんだけどね」

 「ああ、あの大きい望遠鏡のところ?」

 「ええ」

 「前に来たときに、大学生の人に写真を撮ってもらいました」

 セリは、天文台までどれぐらい時間がかかるかは覚えていないのに、そういうことはよく覚えている。

 菜緒さんは、坂を登ると、左へ曲がった。右には学校のような建物があり、左には駐車場がある。

 その向こうには高い木が並んでいた。みごとに紅葉している。

 駐車場の横を通り過ぎながら菜緒さんがきいた。

 「さっき、バスが遅れたって言ってたけど、中央線の武蔵境むさしさかい駅から来たの?」

 「えっと……」

 「あ、はい」

 暁美が答える。菜緒さんはセリにきいたのだろうけれど、セリが駅の名まえを覚えているなんて考えないほうがいい。

 「このあたりって、走る車が増えるのに道路を広げたりするのが追いついてないから、ときどき渋滞するのよね。近くで大きいイベントがあったりすると、バスがものすごく混んだりもするし」

 「あ、それ、わかります! 東京のバスって、大きいイベントがあると混みますよね」

 これまで黙っていた一年生の高科たかしななずなが勢いよく答えたので、暁美とセリが振り向く。

 「なんで知ってるの?」

 セリがふしぎそうに聞いた。

 「いや、漫研で、前にコ!………………ミケで体験しました あ、いや、えっと、その、漫研で、東京に来たときにそうでしたから」

 なずなは恥ずかしそうに首をすくめた。

 なずなは漫研の部員で、兼部で天文部にも所属している。

 セリはまだしばらくふしぎそうになずなを見ていたけれど、何も言わなかった。

 駐車場を通り過ぎてしばらく行ったところで、菜緒さんが左側を向いて言った。

 「さ。これが最初の見学場所。第一赤道儀室って言うんだけど」

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