第24話 ファイン・ガール、国立天文台へ行く(2)

 「だからさ、バスが遅れたんだからしかたないじゃない?」

 セリが言う。暁美あけみはあいかわらずふきげんだ。

 「バスが遅れる前に、電車に乗り遅れてるでしょ? だいたい、寝過ごしたからとか言って、集合時間も二度も遅らせて、それでさらに遅刻してくるんだから」

 「それでも一二時に駅を出たじゃない? なんで東京に着いてからここまでこんなに時間がかかるわけ?」

 「前に来たことあるんだから、知ってるでしょ、それぐらい」

 「一回来ただけで、そんなに詳しいところまで覚えてるわけないじゃない?」

 暁美は何か言い返そうとしたけれど、何も言わないで、黙って正門を通り抜けた。

 門の中は上り坂だ。

 「こんにちは」

 「はい?」

 いきなり声をかけられて、暁美はうわずった声で返事した。

 「見学?」

 声をかけてきたのは、少し歳上らしい女の人だった。暁美ににっこりと笑いかけている。

 「あ、はい、えーと、そうです。見学です」

 「それだったら、受付で名前書いて、パンフレットと見学者証をもらって」

 暁美は首を傾げた。

 「えっと、……受付って?」

 「そこの、小さくてちょっとノスタルジックな建物」

 その暁美に、セリが言う。

 「前に来たことあるんだから、知ってるんじゃないの?」

 ささやくような言いかたをしたのは、たぶん、わざとだ。

 「だからさ」

 暁美は、ちらっと新入部員の高科たかしななずなのほうを見てから、不満そうに言いわけした。

 新入部員といっても、なずなが入部してからもう三か月経っているけれど。

 「前はぜんぶグミ先輩がやってくれたから」

 前で見ていたお姉さんが、ふっと息を漏らして笑ったと暁美は思った。

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