第10話 観望会の解説担当
「でもさあ」
三十分前まで
「そんな大きいことじゃなくていいと思うんだ」
すかさず言い返す。
「大きいことを言い出したの、セリちゃんじゃない?」
彗星とか小惑星とか、こともあろうに系外惑星とか。
「それはだからさあ」
セリの弁明。
「それは、大きいことができればそのほうがいいって思ったからさ。でも、そんな大きいことじゃなくても、何かグミ先輩の印象に残るようなことを――もちろん悪いことじゃなくてだよ!――そういうのをすればいいんじゃないかな?」
「何かあるかな?」
考える気力はなかった。でも、セリにばかり言わせていると、そのうち、人がまじめに考えてるのに、と言い出す。
それに、たしかに、ほんとうにセリにばかり考えさせるのはよくないと思う。
「わたしたちで、って考えたら、やっぱり部の活動で考えるしかないよね? それで何かあるかなぁ。外国行くんだとしたら忙しいだろうから、グミ先輩退会記念の観測会やります、っていうわけにもいかないし」
「あ」
セリが身を起こした。ひとのベッドの上で、座ったり寝たりまた起きたりと、ほんとうに落ち着きのない子だ。
「そう言えば、今月の観望会って、解説、アケビの担当だよね?」
「あ」
そう言えば、忘れていた。
毎月、月の後半に、高校天文部で観望会をやる。昨日から今朝までの流星観測とは違って、部員外の高等部や中等部の生徒も参加できることになっている。
暁美がグミ先輩に向かって天文部に入部するなんて言ってしまったのもそういう観望会でだった。
あのときは、注目を集めていた
ふだんは、部員のほかは、来ても二人か三人、ゼロということも多い。
とくに今月は夏休みのただ中、しかも、夏休み明けに向けての追い込みの時期だ。
だれも来てくれそうにない。去年の八月も部員以外はだれも来ず、部員のお茶会になってしまった。
暁美はそんな月の担当になってほっとしていた。
天文についてほとんど何も知らないまま天文部員になって一年と少しで、系外惑星の見つけかたもいちおうは知っているくらいの知識は身につけた。
でも、かつての自分のような、天文について何も知らない人に、その知識の説明ができるかというと、それはまだまだだ。
天文部は三人だけだから、三回に一回は観望会の説明の当番が回ってくる。前に担当した五月の回は雨が降って中止になったが、その前の二月の回はひどかった。
観測対象のオリオン座大星雲の説明はいろいろと調べて覚えてきて、ともかく無事にすませた。
ところが、見に来ていた中等部の生徒にオリオン座の伝説についてきかれて、まったく答えられなくなり、泣き出してしまったのだ。あとは、暁美はセリに慰めてもらい、質問の受け答えはぜんぶグミ先輩がやってくれた。
その前のアンドロメダ銀河のときにはもっとひどくて、説明のための下調べはしてきたのに「説明します」と言ったとたんにその全部を忘れてしまって、最初からグミ先輩にぜんぶかわってもらった。そのときも部室に戻って自分のふがいなさにずっと泣いていた。
「こんどこそ、成功させよう」
セリが、優しい声で言った。
「すくなくとも、グミ先輩の前でアケビが担当する最後の回なんだから、最後まで投げないでやろう。そうしたら、グミ先輩の印象にはきっと残るよ、きっと」
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