第5話
次の日になっても、その次の日になっても、ユキの元にハルからの連絡は来なかった。
ユキからハルに連絡を取る手段はない。
家にある電話は島の外に連絡をする時、自動で交換台に繋がり、要件を聞かれるし、繋げてもらったとしても3者通話状態になる。
そもそも、ハルがこの島に来ている事は規則違反である。
見逃されているふしはあるが、大手を振って会いに来ているわけではない。
ユキは形式上「古島」に仕事で赴任してきた、ということになっているが、身柄を監視下に置くことが目的であった。
島には捜査員が10数名いるが、ユキはその中にカウントされていないし、署に出勤したこともない。
ユキの仕事で5日に一度、夜中に署の屋上で不審な船が航行していないか海を眺めるだけ。不審船を見つけた事はない。事件が起きた事もない。
赴任してきたからには仕事をさせないといけないので、捜査機関が苦し紛れに任務をあてがっただけである。
ほとんどの時間、ユキはやることがなかった。
ユキはその能力を見込まれ、スカウトされて捜査機関に入った。
捜査機関は、魔法使いのずっと前から存在する組織で、公共の安寧を目的とする国家最大の行政機関だった。交通、犯罪、災害、その職種は多岐にわたる。
捜査機関が「使い手」の犯罪に対応するのは当然の流れだったし、変化した犯罪に対応するための「使い手」の雇用にも力を入れていた。
ハルは、一般の就職試験を受け、一般の人々が通る教育課程を同じように受けた。
「使い手」としてではなく生え抜きの捜査員として教育を受けた彼は組織からの信頼が厚い。
一方ユキは、「使い手」として必要な時に招集される職員であった。捜査員の制服を着て、街頭に立ったこともない。
ユキのような能力はその特性がゆえ、捜査機関から重宝されていた。
ユキが大きな規律違反をした後、二つに一つを選ぶように言われた。
流刑になるか、法のもと裁かれるか。
逃亡を手助けしてくれたハルのため、ユキは前者を選んだ。
だが、実際に流刑になってユキは気づいた。
捜査機関としてはハルを組織に残すためユキを流刑にしたのだと。
ユキの能力は捜査機関にとって利益になる。
だが、替えは効く。
いなくてもなんとかなる。
流刑になるのはそんな人材ではない。
ユキは島に来て、会った他の流刑人は、規格外の奇跡を持つ「化け物」達だった。
島に流刑人は現在に8人いる。
ハルと最後に会ってから1週間が経過した。
連絡はまだない。
いつもなら赤い布の上に手紙の一通でも寄越すのだが、今回はない。何か特殊な事情があるらしい。ユキが所属する部隊には魔法の使用を感知する「使い手」もいる。
だが、ハルはいつもユキが不安にならないようにと、事件事故があるたびに「心配しないで。でもしばらく会いに行けない」と連絡をくれた。
ハルの身に何かあったのでは。という不安は確かにあった。だが知る術はない。待つしかない。
島での単調な生活でただ待つだけ。悪い想像が浮かんではいつまでも消えない。
徐々に膨らむ不安。そんな最中、ユキに仕事が入った。
新しい「流刑人」が赴任することになったのだ。
新入りに島でのルールを教えるのは、ユキの役目だった。
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