第1話 何で僕を

「はっ、、、はぁっ、、、」

暗く、恐怖に満ち溢れた夢から覚めた。

あれほど、怖い夢を見たのは、初めてだったので動揺と身震いが治まらなかった。

窓を見ると、いつもと何ら変わらない草原、村々、駆け回る少年達。

いつもと変わらない事がおかしく感じるほどの始まり方だ。


「あれ、俺、、、何の夢見ていたっけ?」

あれほど息を切らし、恐怖していたはずの夢だったが、綺麗さっぱり内容の箇所だけが記憶から抜けていたのだ。夢は普通、印象が強ければ強いほど、トラウマとなって、記憶のどこかに保管される。だが、記憶だけが不思議と消えていた。

あるのは、もどかしい恐怖だけ。


「とりあえず、、、」

ベッドから体を降ろし、部屋から出ようとする。

「忘れよっと、、、」

扉の前で独り言のように言った。

夢の事だから忘れておくのが一番だろう、ストレスにならないし、それに周りにも迷惑をさせない、それでいい。

「それに明日で、やっと大人の仲間入りだ。」

この国では、17才で成人を迎える。やっと父と晩酌を共に出来るのだ。


新しい気分で、ドアを開けて階段を降りた。

開けると、調理場の方から香ばしい匂いと、食欲をそそる音がしてきた。

どうやら、今日の朝食は、ベーコンエッグと、野菜のスープのようだ。

この時期だと、ベーコンは、保存食として希少その為、価格も少し高価だ。


「おはよう、アリナ母さん、ペレス父さん。」

目覚めた直後とは裏腹に、気分がとても良かった。


「おはよう、イヴァン。」

二人は、口を揃えて言った。その瞬間、顔を赤らめた。

少し恥ずかしかったのだろう。まだまだ子供だ。


「イヴァン、今日の朝食はベーコンエッグと野菜のスープよ。」

「父さんがわざわざ狩って来てくれたの。」

「野菜は、庭の畑から採ってきたから無農薬なの。」

母さんがテンションの高い人とは知っていたが、今日のテンションは異常な物だった。これでは、食べる僕たちよりも、作っている母さんの方がウキウキしているので、かなりシュールだ。


「イヴァン、朝食を食べたら狩に行こう。」

「今日は、明日の成人の儀のため、大物が狩れたらいいな。」

いつも静かに、それでいて優しい父さんも少し声音が嬉しがっているような気がした。

自分の子供が立派な大人になって喜ばない親は、いないだろう。

ただ、この国では、他の理由も関係している。

自分の子供が魔女になる心配が無くなるからだ。


―約500年前、災厄の魔女ワルプルギスが世界に向けて放った、災厄、そのせいで、人類の住める土地は、半分以上が復興出来なくなった。死者は、軽く1000万人を越えただろう。その暴挙を見て、四大英雄とある王家の分家にあたる家系が立ち上がった。

ワルプルギスは、四代英雄によって、力を抑えられ、現王家である、フィクス家の初代当主、ブラフ·フィクスが、災厄の魔女を葬ったという。

それ以来、四大英雄とフィクス家は、国から英雄とされ、英雄達は、自らの子供達を技や武具の後継者とした。だが、忌まわしい魔女は、自分の死後、ある呪いを完成させた。それは、魔女の後継者、、、この呪いによって、魔女に見入られた者は、成人になる前に魔女となる。


この呪いに恐れながら、慎ましく人類は、生きてきた。

だから、自らの子供が、魔女になる事など、あって欲しくないと祈って生きているのだ。

正直魔女にだけは、なりたくない。だから成人を待ち望んでいたと言ってもおかしくは、無いのだ。

そう思いながら座っていると、料理が出来上がったようだ。


「母さん、僕運ぶの手伝うよ。」

少しでも、大人になった自分を見てほしかったので普段は、しない手伝いを進んでやろうとした。

「あら、ありがとう。」

「イヴァンのベーコン2枚にしておくわね♪」


「やった!、、、あっ、、」

嬉しくて、本音が出てしまった。


「イヴァンは、歳が重なっても、子供なのね。」

笑ってこちらを見る母の目は、裸足で小石を踏むよりも痛々しい気持ちになった。


「いっ、、、いただきます、、、」

もう何も漏らさないように、少しもどかしく言った。

こうして、家族団らんの朝食をとり、太陽が少し真上の方に動き始めた所で狩に出かける。いつもと変わらない1日。


―数時間後―


狩が終わり、明日のために準備をしていた、ちなみに、今日の収穫は、猪一頭、鹿二頭、兎五羽だった。(兎は鶏と同じで、羽と数える。)

これを解体して、村の住民に配る。冬と秋の境目位の季節だから、肉の腐敗は進みにくい。だから、猪肉は、余すこと無く、明日の成人の儀で使用出来る。

「父さん、今日もいっぱい狩れたね。」


「あぁ、母さんの作る料理が楽しみだよ。」

少し笑みを浮かべながら今日あった事を語り合った。

そうしてると、鼻に白い物が付いた。

「これっ、、、雪だ、雪だよ父さん。」

ここ最近、冬に雪が降る事が少なくなっていたから、珍しく感じた。


「今日は、やけに寒かったからな、雪も降るか。」

「この調子で降れば明日には、少し積もるだろうな。」

「よし!急いで帰るぞ。」

少し速足で歩き出した。


数分経つと、2階建ての家が見えてきた、我が家だ。

さすがに夜になると、寒さが強まり、全速力で、家に駆け込んだ。


「うぅ、さむさむ。母さん、暖炉って今点けれる?」

父は、生まれたての小鹿のような身震いをしながら、母に尋ねた。

「えっ、ええちょうど寒く、、、」

最後の言葉を言う前に父は、暖炉の前で暖をとっていた。


食事を済ませて、風呂に入り、朝考えていた、災厄の最後の記述を思い出し、考えていた。

「魔女は、悪い種族だけど、今の魔女のほとんどは、もともと人間だったと考えると、、、」

「やっぱり考えないでおこう。もう関係ないし。」

分かっていても忘れることしか出来ない。自分の弱さに少しだけ腹が立った。


風呂から上がり、寝巻きを着るとすぐに眠くなり、ベッドに直行した。

「おやすみ、イヴァン、明日は、成人の儀だから早く起きなきゃね♪」

母は、こんな時間帯でもテンションが高い。


「おやすみ、怖い魔女になって無いといいな。」

父は、冗談混じりで、からかう。


「おやすみ、それにもう関係無いから。」

その後、僕は部屋に直行したあとすぐに眠った。

いつもは、寝るのに一時間以上かかっていたが、今日は、一分も経たず眠りに落ちた。



眠ると、しばらくして、体中が痛くなり、次第に激痛へと変わっていった。

「体が熱い、、、」

耐えられなくなりそうだったが、徐々に痛みが消えた。


少し明るくなっているのが、日の光が入り込み実感する。

少しだるいが、目を覚まそうとする、意識が覚醒する。


目が覚めると、胸に違和感を覚えて少し見てみる。

明らかに無かったはずの物が其処にはあった。

驚く前に、僕は、鏡を見た。

そこには、僕ではなく、黒髪の女性が、涙を流して立っていた。


―僕は、魔女になっていたのだった。

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