第2話 世界から嫌われている
―長く、綺麗な黒髪、それでいて、少し面影があるような顔。
そんな姿が鏡に映りこんでいた。
「何で、、、」
声も、普通の青年が発する声からは、想像できない高い声になっていた。
ドアの音が少し軋み、父と母が入るまで、自分の置かれた状況を否定しようとしていた。これは夢だ、悪夢だ、断じて現実とは関係の無いことだ。
自分の信じた虚言は、一瞬で終わりを迎えた。
「おはよう!イヴァ、、、」
元気いっぱいの、母と父の声がした。
その元気も、一瞬のうちに否定された。
「父さん、母さんっ、、、」
涙が溢れそうだった、実際溢れていたのかも知れない。
何かにすがり付こうと、声が震えていた。
父と母は、絶句して、同時に絶望もしていた。
「イヴァン、、お前何で、、、」
父は、驚きと恐怖で僕よりも声が震えていた。
「あぁ、神よ何で貴方は、イヴァンをこんな風にしてしまったのですか。」
冷静沈着で、いつでも優しくしてくれていた父さんのイメージが、崩れ落ちた。
それと並んで、母さんは、涙をこぼして泣いていた。
心情的に、精神的にきつかったのであろう。
自分が腹を痛めて産んだ子が、世界から迫害され、忌み嫌われる魔女になるなんて。
ーこの状態で、成人の儀を実行できる筈もなく、1日が経過していった。
母は、1日で
父は、性格から、何から何まで、1日で酷く変わってしまった。
まず、飲まないと決めていた、酒を飲み始めた。それに、森の薬草を、葉巻にして吸っていた。一番驚いたのは、産まれてこの方、見たこと無い、母への暴力だった。
大好きだった人達が、こんなにもあっさり崩れていく様を見ては、居られなかった。
ー次の日
僕の部屋の前に、冷たく硬いパンと、しょっぱい水が置かれていた。
1日泣いていたのでぐったりしていて、腹も減っている。
僕は、それを貪った。
そこからは、部屋で本を読んでいた。
いつも本は、読まかったが、部屋の見栄えが良くなると思って置いていた。
その中に、魔術の文献や、薬草の知識、護身術等の本もあった。
あまり、文字は得意で無かったが、狩よりも難しくなく、すぐに読む事が出来た。
本によると、魔術は、体内の魔力量に比例して発動する事ができるが、魔力を持った人間は、極めて稀で、10年に一人出るか出ないかの逸材らしい。
魔法を放つのに必要なのは、詠唱だが、魔方陣を作成して置けば、無詠唱で発動出来るようだ。
魔力は、食べ物、生命、睡眠によって回復することが、分かった。
これだけ読むのに、丸1日かかってしまった。
読むのに夢中で、腹が減った。部屋の前に置いてある食べ物を食べようと思って
ドアを開けたが、其処には何も無かった。
腹が減り、下に降りると、独り言を言う母と、酒に浸る父がいた。
「母さん、食べ物が欲しいんだけど、、、」
それに対しての母の言葉は、残酷な物だった。
「お前のせいで、、、」
「何で魔女なんかになったのよ、、」
「そのせいで、、、私は、、、」
一言目を言うと、僕の首の方に腕を伸ばし、女性と思わせない力で、首を絞めてきた。
苦しい、死ぬ、何で、、、
僕の意識は、そこで途絶えた。
目が覚めると、ベッドの上に寝かされていた。
首には、絞められた後があり、気持ちが限界になっていた。
それでも腹が減って、親がいない事が分かり、村の露店に貯めていた貯金を持っていった。
いつもにぎやかで、落ち着きの無い所だが、油断出来ず、ローブを羽織って行く事にした。
いつも挨拶をしている人達に、他人の振りをして会うのには、少し気が引けたが、魔女が嫌われている事を見に染みつけたので、慎重になっていた。
「すみま、、せん、一番安いパンとスープを、、下さい。」
店の亭主は、不思議そうにこちらを見ながら会計を始めた。
「はいよ、銅貨5枚だ。」
手のひらを見ると、握りしめていたのは、小銅貨20枚だった(銅貨2枚相当)。
これでは全然足りない。
「すみません、、やっぱりパンだけで。」
空腹で限界だった。何でもいいから腹に入れたかった。
「それなら、銅貨3枚だ。」
亭主は、さらに怪しそうにこちらを見つめていた。
「なっ、、、」
買えない、お金が足らない、空腹で気が遠くなり、思考能力が低下していた。
腹が減った、もう限界だった。
僕は、気づけばパンを持って走っていた。
ローブも脱げて顔も体も見られた。
だがそんな事どうでもよかった。食べ物が手に入ったのだ。
後ろから、怒りに身を任せて走ってくる店の亭主が見えた。
恐らく盗んで逃げているからだろう。
「とりあえず、森に、、、」
森の奥で見つからないように食べようと思った。
だが、近くにいた兵隊に見つかってしまった。
「おい、魔女がいるぞ!」
「捕まえろ!」「殺せ!」
追いかけてくる兵隊。少しずつ距離が縮まり、押さえつけられた。
「―――――――!」
一瞬でくつわがはめられ、縄で拘束された。
見るからに豪華な鎧を着た男がこちらに来て。
「貴様、魔女だな。」
「魔女は、この国にとって有害であり、世界に破滅をもたらす存在である。」
「アルゴア王国騎士団長の命により、ここに貴様の死刑を言い渡す!」
ー薬で眠らされ、気づけば牢屋にいた。ー
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