第17回 炎
「黒坂っ!」
「あいよっ――!」
「――ブオオォォッ!」
あれから、俺たちは潜伏したボスの攻撃をいつものように避け、その流れのまま反撃に移行していたわけだが、何も変わっていないようで変化したこともあった。
みんなのどこか陰のある表情を見ればわかるように、山室を失ったことのショックをありありと引き摺っていたのだ。
その一方で、俺には燃えるような出来事があった。山室がボスに呑み込まれて死んだあと、虐殺者の羽田京志郎のほうに視線をやると、いかにも退屈そうに欠伸していたんだ。
別にあいつに何かしてもらおうと期待したわけじゃなくて、存在感がありすぎるのでついつい見てしまった格好だが、そのことを死ぬほど後悔した。まるで退屈なドラマか映画でも見ているかのような反応をされてしまったんだ。
死体を芸術品として重んじている割りに、死そのものを軽んじすぎている。あんなスレイヤーの面汚しに、断じて負けるわけにはいかない。
心の奥底まで燃え広がった炎は簡単に消えはしない。俺たちはこれ以上の被害を出さず、羽田との賭けに必ずや勝ってみせるつもりだ。
「な、なあ、佐嶋、あたしに考えがあるんだけど」
「なんだ? 黒坂」
「あたしらが一つの場所に集まって、それからボスの攻撃を避けて、みんなでバットを持って一斉に叩くほうが効率がいいかなって」
「なるほどな……」
黒坂の考えは確かに効率的だし面白いと思った。足元が見え辛くなるという欠点はあるものの、一か所に集まる時点でボスが攻撃してくる場所はもうわかっているので問題ない。
さらに全員で協力しつつ確実にウォーニングゾーンを出られるし、みんなで叩くほうがよりダメージも出るだろう。
「さすが、若いモンは良いアイディアを考えつくもんだのー」
「じゃあ、俺はパスで」
「「「……」」」
おいおい……野球帽のやつ、一体何を考えてるんだか……っと、もうすぐボスの攻撃が来る。
「ブオオオォッ!」
俺たちは揃って攻撃を回避し、さらに全員でバットを握って振り下ろした。ここに野球帽が加わればさらにダメージが増えるだろうに……。色んな考え方はあると思うし尊重はするが、この場面で協力を拒むのはさすがに納得できない。
「なあ、野球帽。何が気に入らないのかは知らないが、ここは我慢して俺たちに協力してくれないか?」
「そうだよ、あんた、いくらなんでも自分勝手すぎんだろっ!」
「そうだそうだ、藤賀よ、お前さんは自分が一体何様だと思っとるんだ!?」
「うるさいな。指図するなよ。大体、こうしてボスと戦うことを選択したのは工事帽だろ。俺たちは無理矢理参加させられたようなもんだし、山室を殺したのは工事帽、お前みたいなもんなんだよ」
「野球帽、お前……」
「あんた、言っていいことと悪いことがあんだろっ!」
「まったくだっ! これだから最近の若いモンは!」
「おい、俺と言い争ってる場合か?」
「野球帽の言う通りだ。もうすぐ来るぞ。お前のところに」
「っ!?」
「ブオオオォッ!」
その直後、野球帽の藤賀は間一髪でボスの攻撃を回避した格好になった。
「危なかったな、野球帽」
「チッ……! こ、こっちのほうに来るなんて……」
「「ププッ……」」
青ざめて座り込んだ藤賀の姿に、黒坂と風間は笑いを抑え切れない様子。
俺が山室を殺したようなもの、か。野球帽の言ったことがまったく気にならないといえば嘘になるが、いつまでも気にしていてもしょうがない。
今はボスを倒して山室の仇を討ち、羽田との賭けに勝ってみんなでここを脱出することだけを考えるんだ……。
◆◆◆
「ふわあぁ……」
スレイヤーの羽田京志郎は、一際眠そうに欠伸をしてみせた。
(……いやぁ、凄く眠い。退屈なドラマを見過ぎてしまったようだなぁ……。しかし、このままではあの男がボスを倒してしまいかねない。一体どうしたものか……)
一転して顎に手を置き、考え込んだような表情になる羽田。
(うーむ……佐嶋との約束など反故にして、皆殺しにしてやろうかぁ? しかし、それでは賭けに負けたような胸糞の悪さがしばらく残ってしまいそうでなぁ……ん?)
まもなく、彼はとある人物に目を向けると、いかにも愉快そうに左右の口角を吊り上げてみせた。
(あの滾るようなギラギラした目は……そうか、そういうことか。私の目も欺くとは、中々やるではないか。全員殺してしまうよりも面白いドラマが見られそうだし、もう少し様子を見守るとしよう……)
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