第16回 犠牲


「ブオォッ――!」


「――はあぁっ……!」


「グガガッ!」


 ボスが足元から飛び出す直前のタイミングで、俺は際どく回避してみせると同時に、バットを振り下ろしてダメージを与える。


「……はぁ、はぁ……」


 片足がない割りに動けてるほうだとは思うが、上手く力を込めて叩けない上、何よりとても気分が悪い。こんな状態で戦ってるんだから当然ではあるが。


 こうなってくるとこっちが倒れるか、相手が倒れるか。どっちが先になるのかはまったく読めない……。


「はっ……!?」


 俺は隠れたボスの攻撃をかわすべく、その場から移動しようとして転んでしまった。左足がないことで右足に負担をかけすぎたのか、痺れたためだ。


 まずいな、これは……。このままでは、右足の脛から先がまだウォーニングゾーンに残ってるので溶かされてしまう。右足まで失ったら、さすがにもうまともに避けることもできなくなるから一巻の終わりだ……。


「佐嶋あぁっ――!」


「――ブオォッ!」


 万事休すかと思いきや、黒坂、風間、山室、野球帽の四人が俺の体を押してきて、それでなんとか逃れることができた。


「た、助かった……。けど、一歩間違ってたらお前たちが死んでたぞ。危険すぎる……」


「佐嶋……あんたなあ、あたしらだってパーティーメンバーってことを忘れてるだろ! 余計な真似をしたなんて言わせねーよ!」


「そうだそうだ、佐嶋よ、わしらの力も借りることだ!」


「自分たちも力になりますよ、佐嶋さん……」


「……あ、あぁ、これからはみんな力を借りるよ。ありがとう……」


 俺は黒坂たちに感謝しつつ立ち上がる。いつまでも感動してる暇なんてなくて、次のボスの攻撃、さらには反撃に備えないといけないのだ。


「チッ……こんなことして工事帽みたいに足を失ったらどうすんだか……」


「…………」


 野球帽のやつは本当にブレないな……。冷たい言葉の割りに彼も助けにきてくれたが、それを言ったことの気持ちもわかるし、今度は助けに来なかったとしてもその選択を大いに尊重したい。自身の安全を守るためには最善の手段だからだ。


 そのあとも、潜伏したボスによる地中からの攻撃が延々と続いたが、俺たちは慣れてきたこともあって冷静に対処することができるようになっていた。


 ウォーニングゾーンが足元に浮かんだ人物、その名前をボスの攻撃が来る3秒前に叫び、それでみんなに回避してもらうという方法だ。


 避けるタイミングがそれより早いとボスがターゲットを変えて混乱を引き起こすし、逆に遅いとピンチになってしまう。なのでこれが最良の方法に思えた。


 ――まもなくボスの攻撃が来そうだ。山室の足元が赤く染まっている。


「山室さんっ!」


 俺の言葉を受け、山室がのろのろとウォーニングゾーンを出る。その直後にボスが飛び出してきて、俺はバットでやつの頭部を強打した。


 しかし今のタイミング、かなり危なかったな……。山室は息も切れかかってるし、動きもやたらと鈍いので毎回ヒヤヒヤさせられる。それは黒坂、風間、藤賀も同じだが、山室の場合は顕著だった。


 仲間たちの体力がなくなる前に決着をつけたいものだが――って……。俺はを前にして目を疑った。


 な、なんてことをするんだ……。


 山室が何を思ったのか、俺がバットで攻撃した直後、倒れかかるようにしてボスに肘打ちしたのだ。


「な、何をするんだ、山室さんっ!?」


「……はぁ、はぁ……す、すみません、佐嶋さん。でももう、これ以上、動けそうにないんです……」


「や、山室さん……!?」


「だ、ダメだ、山室っ! 死ぬんじゃねえ!」


「い、いかん、山室よ、わしより若いのにここで死んではダメだっ!」


 俺だけでなく、黒坂と風間が血相を変えて山室の手を引っ張るが、びくともしない。


「藤賀っ! あんたも手伝えよっ!」


「そうだそうだ、藤賀よ、お前さんに心はないのかっ!?」


「……はぁ? そりゃ俺だって助けたいけど……もう無理だろ、そいつは!」


 悔しいが、野球帽の言う通りだった。山室の体はもう半分以上ゼリーの体内に取り込まれてしまってるし、こうなった以上は助けようがない……。


「……うぐぐ……最後に……借りを、返せましたかね……」


「「「「……」」」」


 山室は俺たちに悲しむ暇さえ与えず、あっさりとデッドリーゼリーの中に呑み込まれてしまった。動けなくなれば迷惑がかかるのをわかっていて、その前に少しでも役に立ちかったんだろう……。

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