第15回 忍耐力
「――ブオオォォッ!」
「はっ……!?」
俺の左足に焼け付くような痛みが一瞬走ったかと思うと、膝から下の部分が完全に溶けてなくなってしまっていた……。
「ぐ……ぐあああああっ!」
左足がなくなったという衝撃的な事実に加え、猛烈な吐き気や苦痛が思い出したように襲い掛かってきて、俺は今まさに絶望の中で意識を手放そうとしていた。
「「「「佐嶋あぁっ――!」」」」
「――っ!?」
だが、仲間たちの俺を呼ぶ声がかろうじて聞こえてくるとともに、羽田の満面の笑みが脳裏をよぎったことで、それをきっかけにして我に返ることができた。
……そうだ、ダメだ、ここで自分が気を失ったら、それこそ終わりだからだ。間違いなくパーティーは全滅してしまう。それだけは絶対に避けなければならない。
踏ん張るんだ。片足がなくなったことは確かに痛いが、だからといって何もかも諦めてしまうわけにはいかない……。
「う……うおおおおおおぉぉっ!」
俺は渾身の力を込めて叫ぶことで強引に意識を呼び戻すと、バットで地面を強打して踏みとどまった。
「うぐぐっ……」
耐えがたい激痛や吐き気に加え、目眩までしてきた俺はバランスを崩して倒れかけたものの、なんとかギリギリのところで持ちこたえることができた。
「はぁ、はぁあ……」
俺はみんなのほうに強い表情で語り掛けることで、無事であることをアピールしようとしたが、声を出そうとしても出すことができずにいた。
まずいな。このままじゃ周りのモチベーションを大いに下げてしまう。なんとしても声を出すんだ……。
「……ま、まだ……まだだ……。こ、この程度、大丈夫だから、まだ慌てる必要はない……」
よし……なんとか喋ることができた。これでもう大丈夫だ。これしきのことで、俺は倒れはしない。
「も……もういいっ、佐嶋っ! あんたはもう充分に頑張ったじゃないか! あたしが交代するからそのバットを貸してくれっ!」
「そ、そうだ、あとのことはわしらに任せて、お前さんはもう休めっ!」
「佐嶋さん、どうか、休んでください……」
「お前、そんなんで戦えるかよ、バカッ……!」
悲痛な声を上げる黒坂らに対し、俺は笑みを投げかけてみせた。
「……し、心配、するな……。か、片足を失っただけだ。まだ、戦える……」
仲間たちの気持ちはありがたいが、【クエスト簡略化】スキルがなければ一般人がボスに勝つことは極めて難しいだろう。
「……な、なんでなんだよ、なんでそこまで頑張れるんだ……? 佐嶋、あんたはスレイヤーでもなんでもないっていうのに……」
「……お、俺は……スレイヤーに憧れてたから……。こういう大怪我を負うくらい、激しい戦いをやることを、想定していた……。だから、これくらい、なんともない……」
「佐嶋……あんたは一般人なんかじゃねえよ。もうあんたがダンジョンスレイヤーでいいよ……」
「う、うむ、佐嶋よ、お前こそ真のスレイヤーだ、わしも認めてやるっ!」
「うぐっ……さ、佐嶋さん……本当に申し訳ないです、自分のせいで……」
「チッ……! 今はボスと戦ってる最中だぞ。こんなときに、ダラダラお喋りしてる場合じゃないだろ……!」
「「「……」」」
黒坂たちの棘のある目が野球帽に向けられるが、確かにやつの言ってることは正しい。
「や……野球帽の言う通りだ、みんな……。ボスは既に地面に隠れた。やつの次の攻撃に備えるぞ……」
◆◆◆
「ぐ……ぐあああああっ!」
「「「「佐嶋あぁっ!」」」」
「……フン」
羽田京志郎の右の口角が微かに吊り上がる。
彼の目の前では、佐嶋が仲間の山室を助ける際、デッドリーゼリーの攻撃によって左足を失うという悲惨な光景が繰り広げられていた。
(佐嶋康介、か……中々面白い男だったが、こうなった以上さすがにもう終わりだなぁ。残りはカス揃いだし、これで賭けは私の勝ち――)
「――う……うおおおおおおぉぉっ!」
「な……なんだと……?」
だが、その直後に佐嶋が起き上がったため、羽田は驚愕した様子で目を見開いてみせた。
(あの男……ボスの攻撃をことごとく予測できるだけではない。卓越した忍耐力をも兼ね備えている……)
「はぁ、はぁあ……ま、まだ……まだだ……。こ、この程度、大丈夫だから、まだ慌てる必要はない……」
「…………」
佐嶋を見つめる羽田の眼光がますます鋭さを増していく。
(神種はエリート種の中からのみ、誕生するはずだが……妙な胸騒ぎがする。あの男、やはり生かしておけば今後厄介な存在になりうるかもしれん……。ただ、私はやつと賭けをしている状況だからなぁ、困ったものだ……)
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