第18回 邪魔者
「チッ……! 仕方ないな……」
ボスの潜伏攻撃によって、危うく死にかけた影響だろう。
生意気な野球帽の少年――藤賀真優――が、渋々といった様子ながらも俺たちに協力してくれることになった。
「――グガガッ!」
さすがに四人の力を合わせて殴ると、ボスのデッドリーゼリーは変形の度合いが大きくなり、明らかにそれまでよりダメージを受けてるのがわかる。バットも最初の頃と比べると大分すり減ってるが、この調子なら使いものにならなくなる前に倒せるだろう。
「いい感じだ。野球帽のおかげだな」
「ホント、佐嶋の言う通りだねぇ、藤賀のおかげだなー」
「まったくだ、わしらがここまで頑張れるのは、全部藤賀様のおかげだわいっ!」
「……陰湿すぎる。終わってるな、お前ら……」
「「「……」」」
その台詞、俺たちに対して散々悪態をついてきた野球帽にだけは言われたくないもんだなあ。黒坂と風間もそんな感じの顔をしている。
とはいえ、こういう不穏な気配はあるものの、俺たちは至って順調だったので空気は悪くなかった。
それもそのはずだろう。一般人パーティーがダンジョンでボスを倒すなんて夢物語でしかないと思っていたことが、もうすぐ現実になるかもしれないんだからな。
「――はっ……」
「さ、佐嶋、どうした?」
「佐嶋よ、どうしたのだ?」
「い、いや、なんでもない……」
実は、ボスの体が点滅を始めたんだ。これは、もしかするとそれだけ弱り始めた証拠なのかもしれない。
「――ガガガッ!」
「…………」
やはりそうだ。俺たちの攻撃がヒットするたび、デッドリーゼリーの点滅速度は目に見えて増加していたんだ。
みんなの表情を窺っても、何かに気付いたような様子はまったく見られないし、これはウォーニングゾーン同様に、【クエスト簡略化】スキルを持っている俺にしか見えないものなんだろう。
「――ガガガアッ!」
よし、いいぞ、この調子だ。俺たちはもうすぐボスを倒せる、倒せるんだ――
「――いやぁ、実に素晴らしい……」
「「「「っ!?」」」」
場違いな拍手とともに喜色に満ちた声を発したのは、俺たちの中にいる人物ではなかった。
虐殺者の羽田京志郎がいつの間にかすぐ近くに立っていて、一段と薄気味の悪い笑みを振りまいていたのだ。
「な、何の用だ、羽田?」
「ま、まさか……あたしらが勝つと思って邪魔しようってんじゃないだろうね!?」
「なんと!? それは約束が違うぞ!」
「……いやいや、約束を破るつもりなど毛頭ない。私はそんな小物ではないからなあ」
「じゃあ、一体なんだっていうんだ……?」
「妨害行為の逆で、こうして祝福しに来てやったというわけだ。もうすぐお前たちがボスを倒して賭けに勝つのが、私には手に取るようにわかるからなぁぁ……」
「…………」
俺はわけがわからなかった。つまり、敗北宣言をしに来たってことか? 羽田はなんでわざわざこんなことを言いにきたんだ……?
やつは高レベルのスレイヤーだから、俺のように点滅の有無によって判別できるかどうかはともかく、なんらかの方法でボスが弱っているのはわかるとしても、それを俺たちに話すことの意味がわからなかった。
「――来るぞっ!」
「ブオオォォッ!」
虐殺者の羽田との会話中、俺たちは襲ってきたボスに対し、避けながら素早くバットで反撃する。
「グガガアァァッ!」
今回のボスに対する一撃で、やつの点滅速度はこれ以上ないくらい早まるのがわかった。間違いなく、あと一発で倒せると確信できるものだ。
「おおぉっ、頑張ったなぁ、佐嶋ぁ。あと一撃加えればボスを倒し、報酬を得られるぞ。羨ましいものだぁ……なぁ、そこにいるお前もそう思わないか? お前はもう佐嶋の仲間ではないようだが……」
な、なんだって? もう俺の仲間ではない……? 羽田が言うお前っていうのは、ま、まさか――
俺の見開いた目は、自ずと視界の片隅にある、パーティーメンバーを示す黄色いマーカーに向けられていて、それが既に四つから三つに減っていたのがわかった。
「――ぐあっ!?」
その直後、俺は右足に激しい痛みを感じて、倒れた拍子にバットを何者かに奪われてしまった。
「お、お前は……」
バットを奪った裏切者を俺は見上げる格好になっていた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます