第4話 むなしい期待




【取引メッセージ欄】


hatakeさん。こんにちは!


いや、このメッセージ内はレビューと違ってほかの人は見ることができませんから、「航ちゃん」と呼ばせてください。


僕のことも、気軽に宰と呼んでくださいね。(「つっくん」とか「つーちゃん」でも良いですよ!)


シャツもパーカーも、Tシャツその他もろもろも、無事に受けとりました!

今回も最高でした。もちろん、大切に大切に保管してあります(^^)v


ところで、航ちゃんはTwatterはやっていますか?


いくら僕たちが運命のつがいだといっても、僕の容姿がどれほどのものか、不安だと思います。(顔も知らないなんて昭和初期の結婚かよっ!てね笑)


というわけで、僕のTwatter アカウントIDを教えておきます。↓↓↓


@top_of_theWorld411


こちらでユーザー検索した上で、メディア欄を見てもらえれば、最新のものから数えて三番目に、僕の写真があります。

もちろん無言フォローも大歓迎です。 (411が何の日か分かるかな…?(^^))


自分としては上の中くらいの顔だと思いますが、周りからは上の上だと言われます笑

航ちゃんのタイプだったら嬉しいな……。


本当は航ちゃんのお顔も拝見したいところですが、やはり先に声をかけた方から晒すのが筋というものですよね!(いちいち堅苦しくてごめんね笑)


あんまり最初からたくさん話すのも気が引けるので、今日はこの辺で。

Twatterには抵抗があるかもしれないので、念のため、LIMU ID も置いておきます。参考まで。


↓↓↓↓


tsukasa_birth_411







◆◆◆






「これなんだけど……」


大学の講義が終わった後、航太は空いていたゼミ室で友人に相談を持ちかけていた。

友人——風間は、中性的な美しい顔を歪めて航太のスマホを覗き込んでいたが、すべての文面を読み終えると低く唸る。


「これはなかなか、パンチがあるな……」

「パンチどころじゃないよ……。こういうのが毎日来ててさ……」

「えっ、毎日?」

「うん……」

「やべえな」


「ツカサ」の強烈な存在を一人で抱えておけなくなった航太は、同じオメガである風間を頼ることにしたのだ。


ぼんやりとした顔立ちの航太と違い、風間は儚げできれいな男だ。オメガには、風間のように容姿が繊細な者が多い。

しかし風間は、その顔立ちに反して豪快な性格で、それが意外と航太と合うものだから、二人はこうしてつるむことが多かった。


風間は再び宰からのメッセージに目を通すと、「具合悪くなってきた」と呟き画面を閉じた。そして眉間に寄った皺をほぐしながら、低く言う。


「あれだな。こいつ、人をイラつかせる天才だな」

「…………」

「あとノリが古いんだよな。本当に学生なのか? 航太と話合わせたくて嘘ついてんじゃねえの」

「そうなのかな……」


航太は途方に暮れていた。

二回目に大量の服を送りつけて以降も、宰はひっきりなしにメッセージを送ってきた。

もちろんレビューも、売った服の数だけ届く。その数が増えれば増えるほど、宰の口調は馴れ馴れしくなっていた。突然「航ちゃん」と呼ばれ始めたときは、めまいがした。


——なぜ、こんなに話しかけてくるんだ。会ったこともないのに。


「ツカサさんから〜」という出だしを見るだけでスマホの画面をオフにしてしまうほど、航太は宰恐怖症になりかけていた。

キャルメリのシステム上、取引が完了した後もメッセージのやり取りはできてしまうのだ。たとえ無視しようとしても、宰からのメッセージは届き続ける。


住所を知られている弱みを考えれば、放置して逆上されるのも怖かった。だから航太も、時折当たり障りのないことを返信するのだが、そのたびに画面いっぱい文字で埋め尽くされたメッセージが打ち返されてくるので気が滅入ってしまう。


やや青ざめた航太に、風間は提案した。


「警察行けば?」

「えっ、でも何かされたわけじゃないし」

「気持ち悪い文章読まされてるだろ」

「まあそれは……」

「はあ、お前のそういうとこだよなあ」


舐められてるんだって、と忠告する友人の言葉が耳に痛かった。気持ち悪いことこの上ないが、航太もこの件を大ごとにしたいわけではない。とにかく、宰からの一方的な接触をなくすことができれば、それでいいのだ。


うかつな管理で商品にオメガのフェロモンを付けてしまった自分にも責任はある、と航太は考えていた。ただ、宰は一時的にそれに当てられているだけだと思うのだ。もう少し落ち着いたら宰も冷静になってくれるかもしれない。それを待ってやりたい気持ちもあった。


アルファは傲慢だとなじる人もいるが、アルファの家族を持つ航太としては、宰を一方的に悪者にしたくはなかった。


——たぶん、普段はもっとまともな人なんだ。


バース性に振り回される辛さが分かるぶん、航太はその可能性に賭けようと思っていた。

運命のつがいだなんて馬鹿げた話も、思い違いだと気づいてくれるだろう、と。


風間は再び航太のスマホをいじると、ふと思いついたように顔を上げる。


「そういえば航太、こいつのTwatter見た?」

「いや、おれアカウント持ってないから」

「おれ、やってるから見てみようぜ」

「ええ……」

「オッサンだったらドンマイだな」


風間は悪戯っぽく笑うと、自分のスマホを器用に操作し始めた。画面が青に染まった後、ユーザー検索に宰のアカウントIDが打ち込まれていくのを見ながら、航太は知らずそわそわした。宰は変わってはいるが、どんな人間なのか気にならないと言えばうそになる。


「あった」


風間はためらいもなくメディア欄を遡っていく。そして表示された一枚に、航太の目は釘付けになった。風間が小さく息を飲む。


「航太……」

「…………」

「い、イケメンじゃん……」


画面に映っていたのは、端正かつ上品な顔立ちの青年だった。滑らかな肌に、サラサラの黒髪がよく映えている。

「今日は晴れています」というコメントともに、眩しげに目を細めて微笑む青年は、航太と同じ年ごろに見えた。


——こいつが、宰?


たしかに、プロフィール欄にも「ツカサ」と書いてある。航太がおそれていた文面とまるで印象が繋がらなかったが、あのメッセージが嘘でなければ、この男が「ツカサ」だということになる。


「意外といいんじゃねえの、航太」

「えっ」

「医学部でイケメンで金持ちなアルファで、しかも航太にベタ惚れなら、多少性格に難があってもさ」

「いやいやいや……」


絆されかけてしまった風間の肩を掴んで、航太は必死に首を振った。

ちょっと、ほんのちょっとだけ航太も心が揺らぎかけたが、冷静になってみれば、そんな、アプリ上だけの付き合いなのに。


いやでも、もし宰が正気に戻ったとしたら。

だったら、もう少しちゃんと話せたり、とか……。


「もうちょっと見てみるか」

「うん」


前のめり気味になった航太を横目で見て笑いながら、風間は宰のコメント欄をさかのぼっていった。







◆◆◆






ツカサ@top_of_theWorld411

今日は課題提出の日。

僕は早さより質を重視したいタイプなんだけど、ゼミのなかで一番早くに出してしまったみたいだ笑

失敬失敬!(^^)



ツカサ@top_of_theWorld411

今日、生まれて初めてフードコートという存在を知った。店の中に入らない、という意味が分からなかったけれど、みんなで屋内ピクニックを楽しんでいる、という考えでいいのかな?



ツカサ@top_of_theWorld411

自分の直感を信じろ。

僕はいつもそうしている。



ツカサ@top_of_theWorld411

将来僕が日本の医学界を背負って立つと思うと荷が重いな。でも、負けたくない。



ツカサ@top_of_theWorld411

英語の担当講師の「th」の発音が気になる。



ツカサ@top_of_theWorld411

ゼミで正論を言ってしまった。

正しいことを言うだけが、正義じゃないな笑



ツカサ@top_of_theWorld411

あの店、コーヒーの味が変わったのかな?

前の深煎りの方が好きだ。

変わらない良さ。

僕はそれを、大切にしたい。



ツカサ@top_of_theWorld411

キャルメリを利用し始めた。

この世のアンダーグラウンドという感じだ。



ツカサ@top_of_theWorld411

値下げ交渉……?



ツカサ@top_of_theWorld411

買ってみた



ツカサ@top_of_theWorld411

ん?



ツカサ@top_of_theWorld411

んんんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!!!!!!??????????



ツカサ@top_of_theWorld411

ああ〜〜〜〜〜〜〜これはやばい!

やばいぞ!やばい!



ツカサ@top_of_theWorld411

祝!!!!!!つがい発見!!!!!!



ツカサ@top_of_theWorld411

一生大切にする。



ツカサ@top_of_theWorld411

誓いますか?

答えはひとつ。


Of course!


T♡K







◆◆◆








「うわ、きっつ……」

「もういい……、もういいよ……」

「そ、そうだな……」

「…………」


航太のテンションは過去最低まで下がりに下がっていた。海底を這う深海魚よりも目が暗くなった航太の背中を軽く叩き、風間は優しく助言する。


「やっぱり、警察行け」

「ちょっと考えてみる……」


航太は半ば、人間不信になっていた。


これ以上悪いことは起こらないんじゃないか。もうそろそろ、おれにも幸せなことがあってもいいんじゃないだろうか。


そう思いながら、彼は暗くなった家路についた。


しかしその願いもむなしく、その日、航太のアパートのポストには、狩野田宰からの分厚い手紙が届いていたのだった。






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