第5話 シン。

昨日、二人は高田は雛に気がある、と直感して、それを雛に伝えた。

「あれ、絶対雛のこと好きだよね?」

「高田君て、確かサッカー部の一年でレギュラーになった、期待のルーキーだよ!」

「雛、可愛いもんね!雛は?雛は?すき?嫌い?」

どうにもウキウキの二人は早口になって雛に詰め寄る。

「え…どう…かな…?」

その話は下校時までのお楽しみとし、そのまま三人は授業に戻った。


放課後、部活も終わり、帰路につく三人。そして、加奈枝と絵里は話の中心に盛り上がった。当の雛を置いてけぼりにして。


「ねぇ、雛、前、好きな人居ないって言ってたじゃん?付き合ってみる気とか無いの?」

「いきなりすぎて…。てか、高田君て人が私を好きだって決まってないし」

追いつけず、動揺する雛だったが、自分に好意を持ってくれてる人がいるのは、いないよりは数倍嬉しい事でもある。


「ねぇ、高田君の事は知ってるの?」

「うん。顔くらいは…」

「雛、可愛いから、お似合いだと思うよ?」

「やめてよ!まだそうとは限んないじゃん。早とちりは恥ずかしいだけだよ」

「そう?まぁ、参考程度に」

「う…うん」


そんな風に褒められて、自分の事を好きな人がいてくれると聴いて喜んだのは一瞬で、その時、雛の頭には芯柄の顔しか浮かばなかった。



そして、夏休みに入り、部活は忙しさを増した。毎朝九時に集合。

一時間パート練習。昼食をはさみ、そして三時まで練習は続く。

後は、居残りで練習するもの。持ち運びの可能な楽器は家で練習する、そんな感じだった。

フルートは、そんなに大きな音は出ないが、雛のマンションは防音ではないので、そのため、家では練習出来ない。そのため、午後三時以降、先生に『帰れ』と言われるまで、練習を重ねた。その成果か、曲を吹いていると先生が個別指導してくれることになった。またとないチャンスだ。一年生の雛はセカンドパーを任されており、高い音より、低い音の質が問われた。中学の時からの課題が、まさに、低い音域だった雛は、先生の指導を必死で同じフレーズを先生に一生懸命、その指導されたところを、

「うん。中島大分よくなったな。二、三生に追いかけるだけじゃなく、学年関係なく、やれるだけのところはやりなさい」

「はい!ありがとうございました!」

個別指導が終わったのは、午後五時を過ぎていた。


次の日、いつもの様に、朝早くから夏休みの部活にやって来た雛を、校門で少し見覚えのある人が立っていた。


「おはよう、中島さん」

「あ…高田君…だよね?どうしたの?誰かと待ち合わせ?」

「中島さんに用があって…」

「私に用?」

「吹奏楽の地区大会、聴きに行って良いかな?」

「え…全然かまわないけど?」

「本当?本当!?俺、めっちゃ応援するから、頑張って!じゃあ俺も練習あるから、行くね。本番、頑張ってね!!」


そう言うと、健はグランドまで全力疾走で消えて行った。

『高田君、雛のこと好きなんだよ』

その加奈枝の言葉を思い出し、少し、健が気になった。ルックスは申し分ないし、性格も今ので優しそうな所で伝わった。そこに、運動神経抜群。雛はどれも魅力的なのは分かった。それでも、中々好きという気持ちは湧いてこない、雛だった。


そして、地区大会当日。

緊張はしているけれど、あんなに練習したんだし、先生にも及第点をもらった。

後は実力を出し切れるかどうかだ。イヤ、大会でこそ出し切るんだ。そうすれば、絶対に良い演奏が出来る。そう言い聞かせて、舞台に上がった。


地区大会では、二位の学校に大差をつけて、金賞を受賞。次の東海大会でも、なんとなんと金賞を取る事が出来た。『最低、関東大会までは』と言う、加奈枝と絵里との目標を果たし、しかし、全国大会の壁は厚く、最終的な結果は、『全国大会銀賞』で終わった。

しかし、全国まで行けた事を、先生は褒めてくれた。泣きながら三年の先輩はその話を聞いた。その先輩たちの涙に、こらえきれず泣く雛。『来年も頑張ろう!』そう思う雛だった。


ただし、この大会が大きく揺さぶる事になる。


全国大会が終わったところで、一息つこうと、先生のはからいで、夏休み残りの一週間は部活を自由練習にした。しかし、家で練習出来ない雛は、残り一週間も部活に通う事にした。

大会が終わった次の日から雛は部活に来ていた。そして、大会前と同じように、同じような人が校門にたたずんでいた。

「あ、高田君。おはよう」

「おはよう。中島さん!大会、すごかった!フルート吹いてる中島さん、めちゃめちゃ素敵だったよ!」

「あ…私なんかまだまだだよ」

「でも、一年生で出られるの、すごいんでしょ?」

「それは高田君もじゃん」

「え、俺?俺なんか全然大したことないよ!」

「どきょ…」

「ん?」

「度胸、無いし!でも、これ渡さなきゃ、男としてどうかな?って…思ってさ。これ、字、汚いけど、読んで」


封筒を雛に手渡すと、グラウンドに向かいながら、一度雛の方に振り変えると、

「それ、本気だから!!」

と謎の言葉を残して、今度こそグランドへまっすぐ走って行ってしまった。

「…」

しばらく、ポカンとしていた手紙は家に帰ってから読むことにしようと鞄にしまうと、部室へ向かった。


一通り、ロングトーンの練習をして、一年生で初めて演奏した曲、『糸』を練習曲に選んだ。その日の練習は二時頃切り上げ、家へ帰った。

そして、鞄を整理しようと鞄から色々取り出すと、朝、高田君の”読んで”と言わんばかりの、何だか、握られた後のついた手紙が顔を出した。



【中島雛さんへ



僕は一年六組の高田心と言います。毎日、朝、お昼休み、俺の練習が終わった後の放課後、中島さんのフルートを聴いていました。音楽の事は詳しくない…と言うより、知識はほとんどありませんが、中島さんのフルートは本当に奇麗な音で、毎日癒してもらいました。良かったら、付き合ってください。


返事は、すぐじゃなくても大丈夫です。一応、スマホの番号とラインのID書いときます。


読んでくれてありがとうございました。


                                 高田心】


(うわっ!まじでラブレターだ!これ!…もらったの、初めて…)

雛はなんだか胸がくすぐったくなった。しかし、その後、なぜか浮かんできたのは芯柄の顔だった。


頭をぶんぶん振って、必死で芯柄の顔を蹴散らそうとしても何処にも行かない。



「付き合っちゃおう…かな?」

部屋でボソッと呟いた。

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