第21話 新たな任務
翔はシンから聞いたアホ龍の企みに、怒り心頭だった。
落ち込んでいた気分はすっかり無くなり、元気いっぱいやる気十分である。新しく作ってもらった御神刀を持ち、アバの住むアマズンに行きアバを守りつつ、盗まれた御神刀を探すことを決心した。
刑事の仕事は止めることにした。辞表を持って元山さんの所へ提出しに行った。
元山さんは不機嫌そうに、
「そうか、退職か。有給休暇も消化したし、思い残すことは無いな。この一身上の都合とは、俺なんぞには言えない事情だろうな。最近、妙な事件も多いし」
「はい、その妙な事件も少し関係ありますが、自分は刑事には不向きだと、以前から感じていましたから、そういう事情ですから。どうも、長い間お世話になりました」
「今日は、皆出払っているが、もう帰るのか。他の奴には挨拶なしか」
「川田には見舞いがてら、挨拶するつもりですが、まあ、他の人は暇があった時にでも、寄ります。今ちょっと、急用があって急いでいますんで失礼します」
翔は早くアマズンに行きたかった。こういう気分の時は、何か起こる。翔は実体では間に合うかどうかも分からなかったので家に戻ると、霊魂になってアマズンに行ってみることにした。
一方リラは今朝、一先ず家に帰っていた。USBBの勤務先から、出勤日を知らせて来たと言い、今朝の便で帰らなければ間に合わないと言う事だった。アマズンに行く時は連絡してと言っていたが、警察に又入る気なら、今までの様にはこういう事に関われないだろう。
翔は今回、烈とだけ一緒に行動することにしようと思った。烈には取りあえず霊魂で様子を見に行こうと伝えた。そして霊魂でアマズンの方へ進んでいくと、烈と道々遭遇する事となった。
烈は、
『俺たち良く遭えるもんだよな。この広い霊界を移動してさ。自然とテレパシーかなんかで近寄るのかなあ。良く判らんが』
『そういえばそうだな。あまり意識しなかったけど、大概うろついていると落ち合えるな』
そう言って笑い合っていると、不機嫌そうなリラが、やって来た。
『ありゃ、リラが怒ってら』
翔は良かれと思って、付き合わせまいと思ったのだが、
『お前らあたしを除者にしたな、行くときは呼んでって言ったのに』
『お前はサツに入るんだから忙しくなるだろ』
『今はUSBBは夜だよ。それに現実ではそんなに時間経たないじゃないか。何とかなるから仲間外しは止めてよね』
『ハイハイ、ごめんね』
三人でアマズン上空に到着した。
『この辺は開けているから、アバのいる所じゃあ無いな。本龍に気付かれずにうろつけるかなあ。分かったら逃げような。シンには、自分の面倒は自分で見れると言ったそうだから』
『せっかく来たんだから、見つかったら、御神刀を探しに来たと言うべきよ。でもあんたらは逃げな。あたしはこの前おこしても怒らなかったから、きっと大丈夫よ』
翔は前の時はリラが泣いていたからで、今回はどうかなと思ったが、アバがどうするかは見ものなので、黙っておいた。
アマズンは都会にはビルがあって他の国と大差はないが、都会とすぐ隣合わせでジャングルがあり、南国の木々が茂り、野生動物も人の住む側までうろうろしていた。
三人は、いくら何でも龍神達は、この辺りには居ないだろう、もう少しジャングルの奥深くに居るだろうと思った。
上空から、ジャングルの奥深くに移動し、下を眺めていると、
『おっ、変な気分になって来たな。こういう気分が御神刀が呼んでいるって事じゃあ無いかな』
翔は、今まで経験した事のない、自分の気分の変化のような物を感じて言った。しかし烈は、
『この気分はな、俺の経験では殺気だな。俺ら例の龍に狙われているぞ』
『わっ、ヤバ。見つかったんだ。どこかに隠れなきゃ』
リラは辺りを見回した。下は川の下流の、木々が生えていない河川敷で、生憎隠れる所は無かった。
翔は、殺気なのかなと烈の意見に違和感を少し覚えたが、烈の言う通り、強烈な力で地面に引っ張られてしまった。こうなっては身動きできずに、地面に叩き付けられると覚悟した。しかしそれどころか、地面を通り越し、地下にずんずん引きずり込まれた。
『どこまで引っ張られるの。やばいよう』
リラ同様、翔や烈も恐怖を覚えた。その時、アバがやって来て、翔たちを引っ張る力から庇って、下に回り物凄い引力から逃れることが出来た。あの引力を遮ることが出来るアバ様は、やはり強かった。リラや翔を抱えて上に戻ろうとするアバに、
『俺は、自分で戻れそうです』
と言って、翔は自力で戻った。烈は割と平気そうに動いている。半霊獣と言われるはずである。と言う事で、リラだけ甘えて抱えてもらっている。
翔は助かってほっとしながらも、相手は一体どこから襲ってきたのだろうと、不思議だった。地上に出るときは用心すべきだろう。
翔は地上が近くなるにつれ、またあの、妙な気分になって来た。
『烈、きっとそばに居るよな』
『そうだな、気を付けようぜ』
その時、今度は横にビューンと引っ張られ出した。すると、アバが翔たちには分からない現地の言葉で、叱責するように何か言った。途端に今度は翔と烈はスクリューの様にくるくると回り出した。これはたまらない。
翔は地上に出たらきっと目が回って、戦うどころでは無いなと思った。これではアバのお荷物が三つ増えたようなものだ。何のために来たのか、情けない限りである。
しかし次に今度は、翔は本当に御神刀が、呼んでいる気がした。さっきの殺気とは別物の感覚がしてきた。と言う事は、奴の居場所が解るな。翔は集中して、くるくる回りながら御神刀の位置を感じようとしてみた。回っていても、その位置は一定だった。
『分かった。あそこだ』
翔は持っていた少し能力の劣る御神刀で、見切った所に居るアホ龍に切りつけた。一か八かである。ところが、
『危ないっ』
と叫んだアバに、庇われてしまった。危なかったらしい。情けない事に、アバは本物の御神刀に切られた。
本末転倒ではないのか。
『アバさーん。大変だー』
地上に出て、皆で駆け寄る。情けない三人組である。切られた所は肩で、幸い急所には遠かった。
『大変だ、俺、母さんから例の薬貰って来る、アバさんそれまで持ち堪えてください』
『ちょっと待って、あたしんちの方がずっと近いよ。この前のシンの残りがまだある。使用期限とかないよね。持ってくるから待ってて』
翔は思った、
『足りるのか、どのくらい残っているんだ』
と言う事で、烈は、
『リラのが早いから取り合えずそれを塗っていろ。俺も取りに行く。足りなくならないようにな。翔、お前は傷を抑えていろ』
『君達、俺は大したことは無い。そのうち治るさ』
御神刀の威力を知らないアバが言ったが、リラと、烈は吹っ飛んで家に帰った。
翔は、
『アバさん、僕は毒でも吸い出しましょうかね』
翔はきっと強は毒にやられたんだと思い、傷口を吸ってみようかと思い立ったが、
『よせやい、何を言い出す。ほんのかすり傷じゃあないか』
あくまで、大した事は無いと言い張るアバだが、傷から龍の血のようなものが噴出してきて、慌てて、傷口を抑えることにした。
『自分の面倒は自分で見る。お前ら大げさだぞ』
と言ううちに、見る見る顔色が悪くなってきている。
『でも、見た感じ重症になって来ていますよ。絶対』
翔は言っておいた。近寄らせてくれないから、忠告位はしておこうと思った。
『解った、薬が来るまで大人しくしている。それよりお前は御神刀を取り戻さなくて良いのか』
『取り戻したいけど、アホ龍は強すぎて無理です』
『いや、目的は達したんだから、返すんじゃあないかな。あの辺にいるはずだ』
それもそうだなと思った翔は、アバが指し示した辺りを見回した。
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