第20話 御神刀の行方

 翔はがっくりしながら流しのタクシーに乗って、自分の車を置いていた警察関係者用駐車場に行った。そこには真奈の車も置いてあって、真奈も自分の車で帰ろうとしていた。

「翔ったら嘘ばっかり」

 一言文句を言って帰るつもりだった真奈だが、翔の様子が違うのに気付いた。

「どうしたの。何かあったの」

「ママ、いつだって何かあってるでしょ。パパのゾンビ以上の事があったの?翔叔父さん」

 翔はこんな所で言うのも不味いと思い、

「今日の所は、ゾンビ以上のことは無かったな。他は些細だ」

 二人とも、翔の様子で些細では無さそうな気がしたが、言う気も無いようなので気を付けてとお互い言い合って別れた。

 翔は車に乗ったものの、がっくり来ていた。

 ハンドルに額を付けてふさぎ込んでいると、誰か居る気配がして、見回すと、シンが横に座っていた。

『御神刀、出来が悪いようだな。作り直すから、貸しておけ』

「ったく。悪すぎ。返すよ。お前が持っていろよ。俺、やばくてもてない。普通、凶器は捨てて逃げるんだ。犯人はな」

『そうであろうな。お主たちの様子は監視カメラによう写っておるから、我がカメラは壊しておいたぞ。気か効いておるであろうが』

「ふん、そのくらいしてくれて当然だ。川田の様子も、知らないおっさんの様子も分かるなら言ってよ」

『うむ、どちらも命に別状はない。どっちにしても魔物の急所と人間の急所は違うからの。刺しても死にはせぬ。そのはずじゃが、最初にお主を刺したときは、黄泉へ行ってしもうたから、我はすっかり肝を冷やした。今になって思えばお主とは色々在ったのう』

「うん、前も言ったけど、お前死ぬの早すぎ」

『仕方がなかろう。お主もいつ死ぬか分らぬぞ。それまでは悔いのないように生きるのだぞ。我の様に時を無駄にするな』

「どうしたんだよ。なんだか急にしおらしい事言い出したな。俺、もうすぐ死にそうなのか」

『後、7,80年かのう』

「それな、普通の人間の寿命だから」

『人の命は儚いのう』

 そう言って御神刀を持ってシンは立ち去った。

「あいつ、利口なようで、恍けた奴だな」

 少し元気が出た翔は、元山さん達に嘘八百並べ立てる気力も出て、事務所によって犯人には逃げられたと言っておこうと思った。


 翔は報告書などを事務所で書いた後、家に帰ってみると、リラが泣きながらUSBBに帰る支度をしていた。

「どうしたんだよ」

 訊くと、

「どうしたもこうしたも無いわよ。あたしの不始末でみんなに迷惑かけちゃった。あんたも殺人者になりかかったでしょ」

「どうして知っているのさ」

「あたし、紅ママとつながる事があるの、特にママが狼狽したときとか。あんたが困っているってテレパシーで言っていたの。それもこれも御神刀をちゃんと持っていなかった、あたしが悪いの」

「ちゃんと持っていなかったって、どういう風に持っていたの。そう言えばバタついてて、お前からそこんとこよく聞いていなかったな」

「聞かないで欲しかったけど。ただのヘマなの。実は何だかとても刀が重くなってきて、多分誰かが引っ張っていたのよね、下から。それでつい持つ手が緩くなったみたいでさ、下に落ちて行ったの。慌てて追いかけたんだけど。物凄い速さで落ちて行って、地上に着くころには何処に行ったか分からなくなった。アバのいる辺りだったらしくて、探し回ったけど無くて泣いちゃってたら、アバを起こしたらしいの。多分、地獄の方に行ったんだと思う。生きていたら、地獄には普通行けないから、仕方が無いってアバに言われた。それで諦めたの」

「そうか、そりゃ仕方ないさ。多分俺が持っていても落としただろうさ」

「そうかな、あんたなら踏ん張ったかもしれないよ」

「すんだこと言っても仕方ないって。シンが作り直すってあの御神刀また持って行ったけど、俺、持っておかないからって言ってやった。当分誰も刺したくない」

「やっぱりショックよね。本当に怪我しちゃったら」

「うん、シンも前に俺刺したとき、死んじまったと思ってショックだったらしいな。さっきそんなこと言っていた」

「そうなの、あのお方も黄泉に行ってから丸くなったみたいね。世間話風な事、言い出したよね。それって、こっちに合わせているね。なぐさめられてさ、翔も元気出て来たんだよね。そして、段々本当の神様風になって行くのかな」

「そして今に拝みたくなるってか。はっ、リラだけ拝んどきな。俺は無理。拝みたかったのは、生きているアバだったな。俺を助けに来てくれた時は感激したな」

「シンだって翔を大部助けているのに、拝みたくないの」

「あいつは先祖だから、助ける義務がある。だけどまあ、時々礼ぐらい言ってもいいかな。今はまだ、そう言う段階だな」

 噂をしていると、シンが現れて、ちょっと気まずくなった翔であるが、

『我の事はともかく、アバを拝みたいなら、拝んでも良いぞ。そのように慕っておるなら、お主に言っておこうかの』

「え、何の事」

 翔は、シンの物言いに嫌な予感がしてきた。最近は勘が鋭くなってきた翔である。

『ほれ、御神刀。レベルアップした。だが本物ではないから、誰が使っても同じじゃ。本物を取り返して、翔が持っておかねばならぬぞ。翔が持てば盾にもなる。我らが黄泉から見て居ったら、本物は地獄ではない。この世にある』

「生きている奴が奪ったって。そんな事できるのか。リラの話では超能力っぽかったぞ」

『この世にも、そういう能力のすぐれたものが居る。あの、アマズン一帯は龍神の年ばかり食った奴が大勢おってな』

「何だかシン、そいつ嫌いみたいな言いようだな。遺恨でもあるのか」

『遺恨は、今から起きるかもしれぬ事からじゃな。その年だけ食ったアマズンの老龍神の内の一匹がアバを殺そうと考えおってな。御神刀を奪ったのじゃ』

「何だって、とんでもない奴じゃないか。同族を殺そうとしているのか。犯罪だろ。殺人、じゃなかった、殺龍未遂で捕まえられないのか」

『それが何しろ、年だけ食った老龍神だが、能力はあるよって誰も捕まえる事は出来ぬ。アバなら出来ようが、アバに言うても、殺せるものならやってみろ等と言って、取り合わぬ。我は少し気がかりでのう』

「極み殿ならやっつけられるんじゃないの」

 リラが思いついて言った。

『伯父上は最近寝てばかりじゃ。それに寝て居らぬ時でも、我らがこの世に行けるのは、地獄の輩の成敗にかかわる事だけじゃからの。年だけ食った奴でも生きておるから、伯父上には手は出せぬよって、我はほとほと、お手上げじゃ』

「シンが困っているのは分かったけど、その年だけ食った奴にはなんか名前は無いの。まあ、シンが早死にしているから、気に障っているからかもしれないけど。俺は聞き飽きたな。その台詞」

『ふん、それなら[アホ]とでも言っておこうか』

「気持ちは分かるけど。そういうふざけたのじゃなくて、本当の名だよ」

『本物の名に決まって居ろう。あの一帯の言葉で、[ア]の後にハヒフヘホが来るのが、主らの唯一発音できる所じゃ』

「バビブベボじゃないの。ひょっとしたらアボと違うの」

『断じて違う』

「いいじゃないアホで、シンがそういうならさ。あたしはアホと呼びたい」

「リラが良いならそれで良いけど。とにかく俺らは、そのアホの企みを阻止するのが、任務って事かな」

『そういう所じゃ。主がアバを慕っておるなら、引き受けてくれようと思っておった』

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