第19話 不都合な御神刀
憔悴の翔が烈の所に行ってみると、強の葬儀の宴会はまだ続いていた。機嫌が良いのか悪いのか、良いわけがないと思うが、熊蔵爺さんと烈はかなり出来上がっているようだ。リラが自分が酔ったふりをすると言ったはずで、南国のフルーツ酒は旨いらしい。
ご機嫌に酔っている所を、恐縮だが翔は烈に声を掛けた。
『烈うー、話がある』
ギョッとして烈が翔を見た。
『翔、取られちまったのか御神刀』
『うん、だから烈の持っている奴、くれ』
『そりゃあ、やるけど、不味いことになったな。誰に取られたんだ』
『リラが鬼みたいな奴と言っていた』
『お前は会っていないのか』
『うん、金属探知機を通る間、リラが持って霊魂で居ることにしたら、取られちまった。俺が持っておくべきだった』
『どっちが持っていても取られたのかもしれないな。御神刀を狙うやつがいるって言うのは、こっちの予知能力者達の間でも有名な事だ。あまり話したがらなかったけど』
『アバは業火の中にでも捨てられただろうと言っていたけど、違うのか』
『あれは、霊獣だって殺せるんだぞ。手に持つことが出来る奴なら、レディー・ナイラだって、アバだって殺せる。リラが気にするだろうから、そう言ったんだろう。不味いぞ』
『なんで、ヘタレな俺らに保管させたのかな。誰か龍神が持っていればいいのに』
『お前が持っていると最強なんだってさ。とにかく俺のナイフやっとくから、大露羅様にデカくしてもらいな。ほら、二つともあるんだ』
利口な烈は二つとも身に着けていて、翔にくれた。
烈に言われたことで嫌な予感がしてきた翔だが、大露羅様のいる黄泉へはどうやって行くんだっけ、と思って、あても無くうろついていると、シンが迎えに来てくれた。
まともそうなシンを見てほっとした翔だったが、
『シン、なんで死んじまったんだ。俺、困っているんだぞ』
思わず弱音を吐いてしまった。
『ほう、困っておるのか。身から出た錆だな。せいぜい困っておれ。よこせそのナイフ。父上に何とかしてもらおう。お前が黄泉にたどり着いた頃には出来上がって居ろう』
『一緒に行ってくれないのか、何処にあるのかな』
『のろいお前には付き合えぬ。その辺をウロツイテおれ』
『冷たいなあ、いつものシンだな。会えてよかった』
しみじみうろついていると、血相を変えたシンが出来上がった刀を持って現れ、
『急げ、舞羅たちが危ない』
驚いた翔は急いで飛行機に戻ってみた。
日の国に到着していた飛行機には、丁度明のゾンビが入って来た所で、乗客は阿鼻驚嘆、皆、後方へ逃げ惑っていた。目覚めた翔の上に、舞羅がのっかっていて、
「おきてよー」
と叫んでいた。
「どいてよー。これじゃあ動けない」
と翔も叫んだ。
シンが出来上がった御神刀で、ゾンビ明を刺したがびくとしない。御神刀で殺せないという事は、多分、明が死んでいるからではないだろうか。死んだらこれ以上は殺せない。と言う事はゾンビに入れば鬼や魔物は無敵って事か。誰が思いついたのだろう。こうなったら、ゾンビ自体を倒さなければどうにもならない。
シンは御神刀を翔に投げ渡し、
『これは効かぬ。焼くしかないのう。アバを呼ばねばな、寝ておらねば良いが』
と懸念を言う。シンも恐れるアバの機嫌だ。テレパシーで呼んだらしく、さっきの普段着と違う戦いの衣装で登場したアバ、
「非常口から皆を逃にがさねば、焼け死ぬぞ」
と言われ、キャビンアテンダントさん、大慌てで、非常口の準備をした。皆が逃げる間、アバは持っていた槍でゾンビ明を突いていた。シンはその横でアバに何か話している。小声なので翔には聞こえなかった。気になったが人間は逃げねばならず、後は二龍に任せるしかない。
飛行機の周りには警察車両や、消防車が取り囲んでいたが然したる活躍の場は無い。乗客が逃げ終ると中から青白い炎が噴き出てきた。
飛行機はあっという間も無く燃料に引火し、大爆発を起こした。近くに寄り過ぎていた警察車両は、巻き添えで爆発してしまうような大惨事になった。
しかし人間は爆風で転んだりしたものの、不思議と火には巻かれず怪我人はいなかった。恐るべし龍神様のお力である。
逃げた皆は口々に、
「あの人は一体何だったんでしょうね。まるでゾンビみたい」
とか、
「不思議な人が現れたねえ、何処から出て来たのかしら。南国風の衣装だったけど」
とか言っていて、翔はちょっとアバを目撃されていては、不味いのではと思っていたが、テレビ局の人たちが取材に現れるころには、皆、塵尻に帰り居なくなっていた。翔たちも手荷物はしっかり持っていて、バス乗り場で並んでいた。タクシーは出払ってしまっていたのだ。自分の車に乗りに行ったはずの真奈がやって来て不満気に、置いていた筈の自家用車が無くなっていると呟いた。翔を見て、
「あんたに貸したんだったよね。ちゃんと同じ所に置いたんでしょね」
と言うので、思わず、
「そりゃ置いたさ」
と答えた。しかし翔は思い出した。真奈の言う所には、止めてはいない。
レッカーで移動されているだろう。サツの駐車場だろうなと思ったが黙っておいた。あの時、翔は駐車場に戻ると空きが無かったので、警察車両の勤務中のステッカーを貼って、送迎用の駐車場に止めておいた。おそらく、覆面パトカーでもないので、警察に預かられているだろう。
「俺、流しのタクシー探して、自分の車取りに行くから」
と皆と別れた。
そこへ相方の川田、いや元相方の川田がひょっこり現れた。元なのは、翔がずっと出て来ないので相方を変更したと、元山さんから例の連絡があった時に同時に知らされていた。
「桂木、お久しぶり。元気そうで何よりです。知っているかもしれないけど、僕、最近小田くんと組んでいるんですよ。仕方ないから」
「そうだってな。ところで何日か前、真奈姉ちゃんの車がレッカーで運ばれて来たろ、警察の車庫に」
「うん、お前の仕業だろ、ほったらかしは。こっちにもどって来たなら、真奈さんにもきっとメールが到着しているさ。普通の車にサツのステッカー貼るの止めたがいいぞ。どうせ誰がやった事か判っているけど。ところで明さんっぽいゾンビがうろついていた筈だけど」
「それな、飛行機と一緒に燃えたぞ。今しがた」
「うん、そうらしいけど。乗務員に聞いても、誰も火が出た事情が分からないって言っている。周りに居た奴も急に爆発したっていうし。桂木の乗っていた便だよね。実際の所どうだったの」
「実際の所、俺も一般乗客だったからな。非常口から逃げ出した後、爆発したな」
「ゾンビは襲い掛かって来なかったの」
「ゾンビは動きがのろかったな。誰かが刺又っぽいもので抑えていたな。だからその間に皆逃げた」
「誰かって誰」
「南国の人の様だった」
「桂木も見ていたんだな。その人を。でも乗客名簿に当てはまる人は居ない」
「ゾンビを追って入って来たんじゃあないかな」
「予想?」
「俺、ゾンビが入って来るまで寝ていたからな。騒ぎで目が覚めたから、ちゃんと目撃していた訳ではないから」
「ふうん、やっぱりそうなのか。最近の警官って、目撃者を留めておいてくれないんだ。やりにくいったらないよ。その、南国の外国人が助けてくれたって事迄は、何とか分かった。でも火が出て、爆発が起こったのが何故かってとこさ」
「そこまで報告できるなら良い方じゃあないか」
「そう思う?それならここまでで出しておこうかな。鑑識にゾンビを調べたいって言われていたけど、燃えてしまったから仕方ないな」
「ところで、新しい相棒の小田はどうしているんだ。お前だけなのか」
「別の所で尋問しているんじゃないかな」
「へえ、俺も尋問されているのか」
「ふふん。ところで、以前元山さんが見張っていた刀ね、あれをFFBBIがしつこく探し出せって言ってきているけど、桂木は知っているんじゃあないかな、と思っているんだけどな」
「どうして俺が知っていると思うのかな」
「どうしてえってええ、お前が盗んだろうがああ」
翔はため息交じりに、
「川田は何に取りつかれているのかな。知らなかったのか。お前が地獄の奴なら、盗んだ奴の仲間と違うのか」
「盗まれたのかあ。ばかやろう。俺が欲しかったのにい」
「はいはい。残念でした」
そう言って、翔は刺そうと思って新しい御神刀を出した。するとそれを見て、
「持っているじゃあないか。うそつきがあ」
と言うので、違いが分からないんだなと思い、
「お前、だいぶ小物だな。とっとと失せろ」
翔は小物に聞いても事情は分からないだろうと思い、始末しようとした。しかし、目撃者がいることに気づいて、逃げて追いかけさせてみようと走った。小物が取り付いた川田は意外と足が速い。
翔は慌てて必死で走ることにした。地下鉄に行く階段を急ぎ降りながら、何処に行けば人が居ないかなと思案の翔。地下鉄のトイレに誰もいない事を願いながら、入ってみると、別のが居て襲い掛かられた。必死で急所と思う所を刺すと、命中だった。ほっとする間も無く、川田が入って来たので、勢いで川田も刺すと急所に命中した。
やれやれと思ったのは、つかの間の事だった。何と、この御神刀は人を守ってはくれないらしかった。二人とも、はっきり言ってまともに刺されているのだ。倒れたまま出血している。この出血の仕方は、動脈ではない。ほっとしたものの慌てて、御神刀を鞘に入れ、バックになおしこんだ。翔は自分が殺人未遂の犯人になったのに気付いた。
警察に電話した。
「桂木です。殺人未遂事件発生。地下鉄の、空港前駅トイレで怪我人発見。桂木、これから犯人を捜します。事件発生からまだ、間がないようなので。直ぐ、救急車手配お願いします」
翔は今は逃げるしかないと思った。だが、怪我人は放って置けない。それに、何処かの監視カメラに俺らの様子、映っているんじゃないかなと心配になって来た。
兎に角、川田の傷口を抑えながら、途方に暮れる翔だった。もう一人も、抑えたいが、手が届かない。こうなっては救急車を待つしかない。
ふと思いついた翔は、自分が来ている服を見回して、返り血がないか確かめた。玄人なら返り血と分るかもしれない状態である。そうなるとバックの中身を、調べられるかもしれないと思えた。いくら翔が、警察関係者と言えどもである
しかし幸い、救急車の方が先に来たので、これで翔は怪我人を任せて、現場から逃れることが出来ると思った。救急隊員にも、これから犯人を捜しに行くと言っておいた。今更探せるのかと思われたかもしれないが、怪我人の世話をしていて、相手にはされなかった。
翔は彼らから離れ、手を洗い返り血をぬぐうが、もうしみ込んでいる。びしょ濡れになったが、血が付いているシャツのままで外には行けなかった。運ばれていく川田達を見ながら回復を願い、その場から逃れた翔である。
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