第17話 怨霊龍参上?
空港の待合室の片隅で、桂木家最大のピンチとなっていた。
強も、御神刀を持って現れたが、霊魂なのでこれ以上死なないとは言え、切りかかるタイミングが判らずにいる。相手はどうやら魔王の中の一人らしく、かなりの強敵である。
闘気からは御神刀が皆を守っている様だが、油断はならない。
翔はしくじればシンの二の舞と分っているので、親父の中に入っている魔物と睨み合いながら、身動き出来ずにいた。だが、早くしないと同化してしまう可能性もある。
その時だった。なんと、黄泉に行ってしまったはずのシンが現れた。どうやってこの世に戻って来たのだろうか。
皆、シンとは認識していたが、黄泉に行く前のシンとは様子が違った。
顔かたちは同じだが、雰囲気が違うという生易しい感覚ではなく、形相が違うというか別物に変わっているのだった。これが本当の怨霊龍と言うものなのだろう。
強から御神刀をひったくると、素早く英輔の左脇腹を刺した。急所だろうか。翔は疑問に思った。そこで、怨霊になったシンは、御神刀が上手く持てないのではと思い至り、
「ごめん、俺がやらなきゃならなかった」
と、御神刀を受け取った翔は、一度刺したので弱った魔王の急所をもう一度刺した。
翔が何とか片を付けたようなので、強が直ぐに言った。
『すまないシン。もたもたして、心配させちまったな』
『良い、元は我のしくじりからじゃ』
翔も、これにはすっかり気落ちしてしまった。
『ごめん、そんなに気に病まないでよ。俺のヘタレで、また怨霊龍になっちまったな』
舞羅がシンに近付こうとすると、
『近づくでない。我は地獄の奴らと似たようなものになり果てたよって、主が触ればどうなる事か分らぬ』
翔は、舞羅を捕まえると。
「触るとシンが苦しむ。止めておけ。怨霊になったんだ。俺らの事を心配して、無理にこの世に来てしまった。これからはどうやって黄泉に戻ってもらうか、対策を考えないとな」
「どうしてなの、あたしが触ると、パパも何だか具合が悪そうだったわ。何がいけないの」
『主には不浄な物を抹消する能力があるようじゃ。こうも、地獄に居ったものがこの世に出て来るようになれば、その能力、活躍しそうじゃが、我は御免被る。あはははは』
自嘲気味に笑ったシンは、どこかへ行ってしまいそうなので、これは不味いと思ったリラは、
「何処にもいかないでね、シン。これからあたし達、強のお葬式に行くのよ。一緒に行きましょうよ。南国の島よ。皆で、ぱあっと遊ばない。それくらいしてもいいと思うわ、シンだって。今日の活躍は見返りが必要よ」
どうやらリラは、シンのやりたい事リストでも見た事があるような口ぶりで、シンも、
『そうか、南国とやらに行ってみとうなったのう』
と言い出し、何処かへプイッと行ってしまわれる事態を、避けることが出来た。こうなったらその後は、USBB行きも決定の様である。
最終便は満席では無かったので、シンも開いている席に座り、久しぶりのチームメンバーの集合となっていた。と言うのも、烈が心配してやって来たので、全員集合となった。
シンを囲んで、地獄の輩が大勢この世に来ているらしいことについて、対策を考えてみた。キャビンアテンダントさん達が始終サービスに来るので、会話はすべてテレパシーである。
それでも翔の家族は、どう言う訳か翔らのテレパシーの会話が聞こえている様だ。どういう事だろうか。能力が開花したのは、非常事態になったからだろうか。
翔は、
『さっき、翼に取り付いていた奴は、一人じゃあなかったのかな。それとも直ぐ次のが取り付いたんだろうか。始めにやった奴は小物だったな。だけど次のは前にやりあった、魔王のNO,3か5位の力はあったんじゃあないかな。御神刀で攻撃は避けられたけど』
強も、
『もしかしたら、俺等がNO.を付けたランクは違ったかもな。それにしてもあの番号はどうやって分かったのかなあ』
その答えはシンが知っていた。
『奴らが自分で名乗っていた。自称といった所だな」
「自称なのか。この前俺に取り付いていたNO.2らしい奴は、俺に触っても平気だったな。アマズンのアバが、奴はいつもは地獄から出て来ないと言っていた。出て来たのは御神刀を狙ったからだそうだ。そのくせ御神刀を持つことも出来なかったな。御神刀の事何も知らないのに、狙うだけ狙ってみたようだったな。面倒なことになったと思う。シン、当分こっちに居るなら、御神刀持っておいてくれる?」
『どうしたものかのう』
シンは翔に頼まれて、御神刀をじっと見た。勘の良いリラは、丁度翔の横に座っていたので、翔の手をつねった。驚いて翔がリラを見ると、口パクで、
『止めろ、シンを見てみなよ』
と言う。翔がシンの様子を窺うと、御神刀を見ながら思案している。もう一度リラに物問いたげな顔をすると、又口パクで、
『自分を刺してみようかと思っているって』
それで翔が驚いた顔をして見せていると、
『リラ、口パクでもゆうて居るのと同じと知れて居ろうが。テレパシーで先ほどから会話しておるのに』
と、シンに言われてしまった。
『御神刀は我をもう、嫌っておるようじゃ。我は預かる事は出来ぬ。刺すのは痛そうで嫌じゃ。そういうもの好きは翔くらいの者ぞ』
翔はリラを見て、
『リラがあほらしい空想するから、シンにまた皮肉を言われたな』
と言っておいたが、リラの懸念は図星だったと感じた。やはり御神刀は翔自身しか保管できないと、腹を括ったのだった。
そうこうしているうちに、強の故郷、南の島ピピアに着いた。日の国では最終便だったが、この島はまだ日は暮れておらず、熊蔵爺さん達が待っていた。この島の霊柩車と思しき車に強の棺桶を乗せる手配もしてあり、不思議なお祈りをしながら強を乗せて行った。桂木一家とリラは、マイクロバスに皆で乗る事となり、空港前に揃って待っていると、派手目のアロハシャツを着たおっさんがこちらにやって来る。
『何だかあのおっさん、王露羅パパに似てないか』
まだこっちの側にいる強に、翔は問いかけた。
『似てないかじゃなくて、本人、いや本龍じゃないか』
強に言われて、みんな
「ええっ」
と声を出して叫んだ。
シンと言えば、
『チェッ』
と、今風の反応である。翔は察した。
『シン、さっきから芝居していたのか』
側まで来た、大露羅パパは、
『久しぶりのピピアは、だいぶ様変わりしておるな。シン、ママがワシに早う迎えに行けとうるさいから来た。この世に来たのは遊びでは無いからな。大神様に叱責されるのをママが、心配して居る。魔物の始末が終わったら、さっさと黄泉に帰らねばな』
皆一斉にシンに非難の目を向けた。大露羅パパはシンの様子を見て、
『シンは変化の術が得意だからな。怨霊龍の真似をしていたようだが、別人にもなれる能力があるぞ。皆、騙されないように、気を付けろよ。ハッハッハ』
『我には我の考えがあってのことじゃったのに、父上が来おって台無しじゃ』
呆れたリラが代表で言った。
「じゃあ、簡単に黄泉からこの世に来れるようになったの」
『黄泉には大神様がおって、支配しているのだが、魔物がこの世に頻繁に表れる様になったよって、成敗にこの世に降りて良いと、お許しが出たのじゃ』
リラは睨みながら言った。
「じゃあ、成敗が終わったら、さっさと帰りな」
『すべて片が付くまで、居ろうと思ったがの』
大露羅パパは、
『いやいや、成敗が済めば直ぐ帰還じゃ』
『それはそうと、父上はこの島で何をして居たんです。アロハ着て』
シンの鋭い質問にはパパは答えず、シンの首根っこを捕まえ、空を飛んで行った。皆で、
『じゃあまたね』
『ぱあっと遊べず残念だったな。シン』
とか、舞羅は、
『シン、あたしとは破局ねっ』
と言いながら、手を振って見送った。
マイクロバスが来たので皆で乗りながら、美奈は
「龍神様と言うから、もう少し怖い人かと思ったら、案外気安かったわね。能力はすごいけど」
真奈も感想を言った。
「翔と仲が良いんだから、気付くべきだったわね。あ、そうだ最初に会った時も西京に行くのに、『我に乗って空を翔けるのじゃ』とか言われていたんだった。冗談がシュールよね」
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