第16話 桂木家ミッション


 葬儀屋さんの車が来ると、真奈は子供たちを連れて来なければと一旦家に帰って行った。

 翔はリラと二人で、強を空港に連れて行くと思っていたが、空港に向かう途中後ろを見ると、英輔や美奈がタクシーで付いて来ていた。

「なんだ、もうやって来てら。それなら俺は自分の車で家に帰ればよかった」

「何だか翔のパパ達、舞い上がっちゃったみたいね。これはもうミッションだわ」

「うん、棺桶移動作戦だな。棺桶の中に御神刀入れておいたけど、まさか金属探知機に通さないだろな」

「さあね、でも一応中は見るんじゃない。絶好の隠し場所と違う。密輸とかの」

「そん時はまた、俺が持っておかなきゃならないな。ちぇ、俺はいつ荷物を取りに帰れるのかな」

「あたしみたいに始めから持ってこなきゃ。割と要領悪いね」

 翔はリラと一緒に居ると、こき下ろされるなと思いながら霊柩車で空港に着いた。葬儀社の人は前にもこういうミッションは経験済みらしく、多分霊柩車用の出入り口らしい所から、中に入り飛行機の貨物搬入口に直接車を付けた。

「へえ、直接入れちまうんだな。中は調べないのかな」

 翔がしゃべりながら車から降りていると、霊柩車の運転手は、

「物が物だけに、あまり目立させたくないんでしょうね。棺桶は飛行機の中で一応検査するそうですよ。実際は知りませんけどね。係の人もあまり気持ちの良い任務じゃあないでしょうから、建前だけで実際は棺桶を開けるのかどうかは分かりませんけどね」

「あ、そうなんですか」

 と、相槌を打ちながら、翔は内心、『こういうのが一番やりにくいんだよな。どこかで家族立ち合いで開ければいいのに。どうしようかな』と思った。

 リラは、

「やっぱり棺桶の中は止めたら。あたし達で交代で持って飛行機の中に入れようよ」

「じゃあ、同じバックを二つ買って、誤魔化すかな。上手く行くかなあ。こういうの強が得意だったんだけど。死んじまうから」

「死んでなかったら、こんな事する機会は無いままでしょ」

『君達。お困りのようだから、調べられそうになったら、俺が霊界で御神刀を持っておくから、気にせず過ごしてくれたまえ』

「あ、居たのか。じゃあそう言う事にしようかな」

「強には死んでからも、気を使わせちゃうね」

 リラも何時になくお愛想を言い、

『じゃああたし達、生きている方の乗り場に行くから』

 等と、気を使わない言いようで強と別れた。

 翔は自分の荷物を持ってこようと、空港を出るが、タクシーは止まっていない。どうしようかと思っていると、真奈に会った。

「あら、家に帰るの。じゃあ、あたしの車使えば、此処に置いておくつもりだから」

「丁度良かったな。坊主、久しぶりだな」

 翔は、甥の翼を見ると、何か分からないけど、様子が違う気がした。

 黙って翔を見上げる翼。翔はため息が出た。

「翼、もう一回り叔父ちゃんとドライブしないか」

「いやだね」

「だろうな」

『俺が、始末しておこうか』

 強が側まで来ていて言うので、翔は、

『姉ちゃんの車に行って寝るから』

 と言って、キーを貰って車へ走って行った。

「何を慌てているのかしら」

 真奈が呟くと、

「気にするこたあないさ」

 低い声で翼が言った。

「ママ、翼に変なのが取り付いてる」

 舞羅が勘づいた。思わず翼の手を取ると、

「翼、しっかりして」

 2歳児に言ってもどうなると言うものでもないだろう、と思われたが、

「ぎゃっ」

 翼、いや取り付いている魔物は叫ぶと激しく抵抗した。

「翼ちゃん、どうしたのよ」

 真奈も、魔物にとっては、どうしたもこうしたも無いのは判っていたが、人の目があるので、取りなしているふりをして、二人して抑え込み、捕まえている事にした。こういう事情はリラから聞いていた。

 だが、我慢できなくなったのか、魔物は翼から出て、丁度横を通っていた小学生の低学年っぽい少女に移動したと見た。と言うのも少女は翼の側から突然後ろにふっ飛び、勢いでひっくり返ったからだ。

 そして心配して側で見ているだけだった強が、何故か急に、真奈にコンタクト出来るようになったらしく、

『その子に移ったぞ。捕まえておけ』

 と、強に言われた真奈は、助け起こすふりをして、

「まあどうしたの、大丈夫」

 と言いながら、捕まえた。

『舞羅には触らせるな』

 と言われ、

「舞羅、翼の面倒を見ていてね。アイスでも買ってやって」

 と言って、側の店に退散させた。

 少女は、口から泡を吹きながら、気を失った。どうやら翔がやって来ていて、魔物の急所を刺したらしく、少女はショックで気を失ったようだ。そこへその子の母親が驚いてやって来たので、真奈は母親に説明した。

「急に倒れられたんですよ。どうしたのかしら。救急車を呼ばなくては。あ、お店の方が、呼んだそうです」

 救急車の事はお店の人に呼んだと言われたので、真奈は母親にバトンタッチした。

 そして、そそくさと彼女達の側を離れ、無関係の素振りに移る。

 舞羅たちの側に行くと、

「やれやれね、あの子は災難だったけど、翼ちゃんから出てくれて良かった。何てことかしら。ひょっとしたら、地獄が無くなって、こっちに色々なのが来ているのかも知れないわね」

 見解を述べる真奈である。

「ママ、随分こういうのに慣れているみたいね」

 舞羅も不思議がる。

「あたしも、シンの子孫の端くれだもんね。何かしらの才能が開花したのかも」

 真奈が答えると、舞羅も、

「そう言えばそうよね。シン、黄泉でどうしているかしら。あたし達の事見ているかしら」

 と言い出して、シンを思い出ししょげている。

 真奈は強の指図の事、言うべきだったかなと思った。強の葬式に行ったら、舞羅に色々事情が知れるかもしれない。その前に二人の昔の事は舞羅に言うべきだろう。


 桂木家一家とリラで、待合室の片隅で時間をつぶす事となった。

 翼を心配気に見る祖父母であるが、普段と変わらないように見えるので、今更どうこうする必要も無いようで、翔がもどるのを待った。

 美奈は小声で、英輔に言う。

「どうして、あたし達の孫ばっかり魔物に取りつかれるの」

「わからんが、今日のは契約破りのせいかもしれん」

 翔が荷物を持って戻って来た。

「やれやれだったな。今度から翼がなんかに取りつかれたら、舞羅が触って、退かすのが一番だな。取りつかれたまま、魔物をやるのはきついからな。翼は小さいから、退かせられて良かったよ」

 そう言って翼を見た翔。黙ってまた、ため息をついた。

「どう言う事」

 皆、一斉に翔に目で訊く。翔は皆が判るかどうか分らなかったが、目で答えた。

『まだ、何か入っている』

 翼は言った。

「契約破りの奴の息子だからな」

 翔は、

「契約破りの奴は地獄に行ったんだろう。そっちで煮るなり焼くなりすれば良かったじゃあないか」

 と言うと、

「地獄が崩れて、そんな時間は無かった。因みに崩したのはそこの娘だが、生憎近寄れぬから、それもこの息子に報いを受けさせねばな」

「あたしが崩したって、そんな馬鹿な言いがかりは止めてよ」

 舞羅は憤慨して立ち上がった。自覚のないものは仕方がない。そして2歳の弟が言っているので、実際は取り付いている魔物が言っているのだが、まだ小学生の舞羅には実感が沸かなかった。と言う事で、舞羅は怒って、ぼこっと翼の頭を叩いた。

「ぎゃあっ」

 また、先ほどの繰り返しになるが、今度は、責任は家長に在るのでは?となり、英輔が、

「舞羅め。俺に触るでない。今度触ったら、こいつの命はないと思え」

 と言い出してしまった。涙目の舞羅。

 どうする、翔。親を刺せるのか。

「上手く刺せるかな。こういう時ってヘマするんだよな。俺としては」

 思わずヘタレた事を言う翔に、皆、絶望の目を向けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る