第14話 1,3,5 と 2,4

 翔は御神刀を、じっと見ながら、何故か言ってみる。

「1、3、5と2、4。あれっ」

 はっとする翔。

「ちくしょー」

 自ら勢いよく、やられ慣れている奴らの急所を御神刀で刺した。やられ慣れていなければできない芸当だ。

『いてーよー、ちくしょー』

 翔は痛いと文句を言いつつも、慣れを感じる。転がる場所も見当がついて、転がりながら地獄の魔王二位か四位か知らないが、取り付いていて翔と同時に転がり落ちている奴の、居場所を見極める。

「なんで俺に取りつけるんだよ。1,3,5,はギャッと叫んでいたぞ」

「ひひひ、あいつらは軟弱者よ。俺がNO.1になるのも時間の問題だった。さて、貴様をどう、料理したものかな。だがそいつを寄越せば見逃してやっても良いぞ」

「嘘つけ」

 翔は必死に御神刀で、切りつけようとするが、悲しい事にヘタレである。だがNO.2も御神刀を振り回す翔に近寄る事は出来ない。ぶうおぉぉん攻撃も、やっても無駄と心得ているようで全くやらない。

『こいつ、割と利巧かもしれない』

 翔は察した。誰の助けも無い孤高の戦いだ。

 動いても消耗するだけだと思い、御神刀を、構えたまま睨みつけた。しかし、シンの様に、奴が襲ってきたとき急所を刺すことが出来るだろうか。

『畜生、弱気になるな』

 自分を叱咤する翔。そんな時何処からか声がした。

「おやおや、人間ごときに手を焼いて、助っ人が要るんじゃあないか」

「五月蠅い奴。貴様なんぞ地獄の瓦礫の下が似合っている。さっさと潰れていろ」

「何を。お前なんぞ。あの娘がきゃあと言うただけで。さっさと逃げ出したくせに」

「愚か者め。俺は地獄が崩れると分かっていたから、外に移動しただけだ」

 翔は、そろそろと後ずさりし、言い合いが過熱してきたところで、ダッシュした。大体の見当でこの前出たばかりの、火口目掛けて走った。霊魂だけど走った方が早い気がした。本能である。

 後ろから、

「奴が逃げたぞ」

「貴様、邪魔しやがったな」

 と、まだ言い合いながら、追いかけて来る。

 翔は必死で走って逃げた。内心、逃げた所で、誰も助けてくれるものは居ないと分かっていた。だが、最後まで戦う。皆そうだったじゃないか。

 火口が見えて来た。熱くなる。霊魂だけれど感じる気がした。まだ生きているんだし、これからも生きる。火口から飛び出ると。後ろから奴らの手が、背中をかすった。危機一髪だ。

 どうして危機一髪と思ったのか。これからも、ずっと際どい戦いは続くんじゃあないか。

 だが。

 なんと、火口の外には助けが待っていたのだ。

 リラも言っていたように、USBBのどこかの有名劇場に出演していた途中で、抜け出したかのような、化粧と舞台衣装的なしろものを着た男がいた。

 例のアマズンの王族様だ。翔は嬉し涙に暮れた。

「助けに来てくれたんだ。見も知らぬ俺を。極み爺や、シンの親父との友達と言うだけで。良い人だなあ、いや、良い龍神さまだなあ。ありがとう。ありがとうございます」

「なんか、後光が射しているみたい。それとも朝日かな、夕日かな」

 違う。怒りの炎だ。あっという間に真っ赤なデカい龍神が現れた。たぶんこのお方は怒ると真っ赤な龍になるんだと思う。

 すると、二人の魔王も龍神と同じくらいにデカくなり、昔の特撮映画を思わせるような、物凄い戦いが始まった。

 大丈夫なのか、二対一で。翔は何とかお役に立ちたくて、魔王の足に御神刀を必死に突き立ててみた。足に当たりそうになったら、ひょろひょろ避けていたのだが。

『お前、気が散ってじゃまだ。危なくない所に引っ込んでいろ』

 とテレパシーで注意されてしまった。お言葉に甘え、引っ込むことにして遠くまで移動した。

 優しさが身に染みる翔。

 また、涙に暮れて見ていると、何とこの龍神様、口から火を噴き出した。そして、魔王達に火を吹きかけだした。怪獣ではない。断じて。この火は神の怒りの神聖な火である。赤い色から青白い光に変わっていく。魔王達は大慌てで逃げ惑う。素晴らしい技だ。

 翔は見とれていると、

「ちょっと、あなた。その御神刀を貸して下さらないこと」

 まさか、その声は聞き覚えがある。翔は驚いて声の方を向くと、やはりレディー・ナイラだった。手を出して、頂戴って所なので、翔は御神刀を、捧げ持って、よろしくお願いします。とばかりに、差し出した。

 「じゃあ、少しの間お借りするわね」

 レディー・ナイラは翔ににっこり微笑むと、御神刀を持って飛び上がった。シンを思い出した。何故か物腰が似ている気がする。

 それから、龍神の神聖な火に焼かれた瀕死の魔王達に、レディー・ナイラが御神刀で止めを刺した。

 翔はその様子を遠目に見て、幸せに浸っていた。

 『これで魔王はNO.1から5までそろって片付いた。しかし、どうしてシン達は黄泉に行く前に、俺に取り付いているNO.2が判らなかったのだろう』

 翔が疑問に思っていると、アマズンのお方が、

『判っていたさ。だが北の極みの尊達は、黄泉に向かう潮時だった。無念を晴らした。気がかりが無くなった。と、思った時に黄泉に行かねば、黄泉に行く時期を逃してしまう。翔なら自分で何とかできると思っただろうし、俺も後の事を引き受けていたからな。実際お前は何とかやり遂げたろう。魔王をこの世におびき出したからな。俺らは地獄に行くことが出来ないし、NO.2と4もこの世に出て来ない。そうなると、退治できないのだが。奴が御神刀を狙った今回が唯一のチャンスだった。よくやったな、翔。誉めてやろう。人間にしては良くやったと言えるな』

『そうかな、逃げて来ただけのような気がするけど。それにしても、助けてくれてどうもありがとうございます。ところで龍神様のお名前は?』

『シンよりもっと長いし、お前には発音も出来まい。アバとでも呼びな』

『あたしはナイラだけで良いよ。翔。皆、死んでしまって、寂しくなったねえ、アバ。あんたは寝てばかりだから、大した違いは無いかも知れないけど』

『なんの、寝たふりをしているだけだ。でないと、アマズンは喧しくてたまらんのだ。翔、俺は寝床に帰るが、御神刀の守りはせいぜい気を付けるんだな。ナイラ、またな』

 そう言ってアバは、今度は少し黒っぽい色の龍神の姿となって、アマズンの寝床に帰って行った。

「お世話になりました。アバ」

 翔は手を振って見送った。

「翔はひとりになったら、随分しっかりして来た事。何か困った事が起こったら、あたし達が助けに来るから、気を落とさずに御神刀を守って頂戴ね。あなたは本当に不思議な子ね。シンに似ているのよ。人間の筈だけど。自分ではどう?自覚はあるの。あら、無かったの。あの、舞羅って子は夕霧に似ているし、あなたはシンに似ているし、こんなご時世な事も、あなた達が生まれて来た理由なのかも知れないわねえ」

「そう言うナイラも、シンと似ている気がするけど」

「あら、そう見えたの。実は私と、極み殿や、大露羅殿は人間の言い方では、従兄妹なのですよ。昔々の話、私達の父親が兄弟でしたからね。どこか似て居るんでしょうよ」

 そんな事を話した後、レディー・ナイラは帰って行った。

 後に残された翔は、へーと思い、家に帰ることにした。

 これから、強を南の島の彼の故郷に連れ帰って、そこで熊増爺さん達と共に葬儀をすることになっていた。一応、強は検死を行う事になっていたが、もう、終わっているだろうし。

 翔はその時困った事に気付いた。御神刀をどうやって、飛行機に乗せるかである。魔王じゃあるまいし、バックに入れて、席に持って行くわけには行かない。そこで、

『棺桶に入れておくかな』と思う翔である。

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