第13話 死闘2

 翔は強と一緒に、舞羅に乗り移っている魔王と、その子分らしい真奈の様子を見ていた。

 翔は気が付いて、

「おい、あいつらバックの中に御神刀を入れているぞ。飛行機に刃物持って乗れるものか」

 強はしれっと翔の予想を否定した。

「きっと、魔王は自分の良いように人を操れるだろうよ。乗ろうと思えば乗れるさ」

「あれ、奪えないかな。方法を考えようぜ」

「近づけるものか、シンだって殺されたんだろうが」

「畜生」

 翔が睨んでいると、感づいたのか舞羅に乗り移っている魔王が振り向いた。

「しまった」

 慌てて他の人を盾にして、顔を背けた。そんな事で済むのだろうか。しかし何もしてこない。また様子を見ることにした。

「あれ、強。見ろよ、舞羅、寝ているんじゃあないか」

「何だと。寝ているというより、地獄に戻ったんじゃあないか。感づいたんじゃあないか。不味いぞ、シン達が危ない」

「どうする。そうだ、真奈に取り付いている奴は、小物だよな。俺らで御神刀を取り戻して、地獄に行って助っ人しないと、勝ち目はないぞ。おれが、気を引くから、強はバックをひったくれ。こういうの得意だろ」

 事実であるが強の気に障った様で、

「ちぇっ、さっさと気を引きな。気を引けるんならな。」

 気にせず翔は計画を話す。

「きっとお前を、追いかけるから、人のいない所で、真奈を刺して一緒に地獄に行こう」

 強は、分かり切っているようで、

「だから早よ、気を引け」

 翔は、真奈に歩み寄り、

「姉ちゃん、何だよ。USBB に行く気か。どういう用件でさ」

「五月蠅いね。どうして来たんだ。仕事があるだろ。さっさと職場に戻れ」

 強はすかさず、御神刀入りのバックをひったくり通路を走って行った。

「どろぼー、つかまえてー」

 真奈に取り付いている小物は、強を追いかけた。真奈の体を酷使して追うが、無理と言うものだ。翔も、

「姉ちゃん、俺が追いかけるから、後から来な」

 と言ってみるが、そうはいかない小物である。この不始末が魔王に知れれば命は無い。必死である。

「姉ちゃんやる気になれば、走り、そんなに速かったのか」

 関心する翔である。翔と変わらぬ速さだ。これは不自然だろうなと思った。周囲の目を気にしつつ、人気のない所に誘導する強である。非常口の扉を開け、非常階段の踊り場にたどり着いた。

「ここで、三人のびて居るしかないな」

「ここで上等だ。さっさとやろう時間がない」

 焦る二人だが、地獄とこの世の時間差を、知っている訳では無かった。だが、勘で急がなければならない事は、分かっていた。

 御神刀を持った強は、翔と共に地獄へ向かった。しかし大露羅殿は、強烈兄弟に御神刀を持つなと言ってはいなかっただろうか。そんな事はすっかり忘れている、翔と強である。

 以前の様に転がって、地獄の地面にたたきつけられた二人。

「うわっ、痛ぇ」

 転がった拍子に強は、御神刀で、自分の足を切ってしまっていた。

「鞘に入れる暇はなかったしな。大丈夫か」

 翔は言ったが、内心、強に持たせては不味かったのを思い出していた。

「大したことは無い」

 実際、本当だろうか。翔は不安になった。しかし強の方が、年の功で上手く刀を操れると思っていた。

 行きついた所は薄暗く、何もなかった。

「ここは前に行ったときは、地獄の外だったはず。地獄の中に行けなかったって事なのかな」

 疑問を口にする翔である。強も大露羅殿に言われていた事を思い出したようで、

「しくじったのかな、俺ら。俺が御神刀を持っていたからかな」

「ここで、今更言うなよ」

 翔は周囲を見回した。

「地獄じゃあ無いな。どうする、強。何処にシン達が居るか分からないねえ。呼んでみるか」

「それしかないな」

 強も同意して、叫んだ。

「おおーい、シン、烈、極み爺」

 返事は無いし、仕方がないので翔は舞羅も呼んでみた。

「まいらー。いないのかー。返事しろよー」

「翔叔父さーん」

 なんと、舞羅の声がかすかにした。

「あっちだよな。行こう強」

 翔は強を見た。ところが、強が居た辺りには、強は居ない。御神刀は抜身のまま足元に転がっていた。翔はそれを拾い、たった今までいた筈の、強はどうなったのかと、驚いた。

「強、何処行った?」

 かすかに、

『俺は死んじまった。御神刀で怪我したから。ここにはいられない。皆は魂がバラバラになって無くなった。魔王にやられた。舞羅を助けないと。舞羅の能力、とられそう』 

「何だって、強、聞こえなかった。もう一度言えよ」

『聞こえたくせに』

 確かに、強がかすかに言ったように思えた。しかし、翔は聞こえなかったことにしたかった。だが、今の『聞こえたくせに』ではっきりした。泣きたくなったが、そうもしていられない。

 翔はさっき、かすかに聞こえた舞羅の声を頼りに、実際はあてもなく進んだ。 

 試しにもう一度呼んでみた。

「まいらー、どこだー」

「ここよー、ここよー」

 やはり、この方向で間違いない。翔は急いで、しかし、御神刀を手に用心しながら進んだ。前回の経験が役にたっていた。シンにぴしゃりと目の前で手をたたかれて、シンが居るのが判ったのは何故だったのか、あの時聞いておけば良かった。もし、魔王が側にいたらと想像すると、ぞっとした。この用心は重要だった。急に御神刀を掴もうとするものが現れた。姿は見えない。しかし翔が持っているために、翔は優位に立っていた。

「ぎゃっ」

 と、声が上がった。同時に魔王らしき大男と舞羅が見えた。魔王は手が痛むらしく手を気にしている。不思議と舞羅を捕まえていない。舞羅は横でポカンとしている。

 触れないんだと判断した翔は、

「舞羅、おいで」

 と手を掴んだ。

「翔叔父さん」

 舞羅は喜んだが、翔の事は見えていないようだ。以前の翔とシンの様である。翔は思わずシンの真似をして手を叩くと、舞羅は翔を認識したようだ。しかし、翔は御神刀を落としていた。とっさにやってしまった、自分のバカさが身に染みる。

 魔王が御神刀を拾おうとするが、また、

「ぎゃっ」

 と叫んで手を引っ込めた。

 それで翔は御神刀を奪われず、拾う事が出来た。舞羅を後ろに庇い、

「野郎、これでも食らえ」

 と、切りつけるが、下手はどうしようもない。すると、強の話では消えたと思っていたシンが、何処からともなく現れた。ほっとした翔はシンに御神刀を渡し任せた。 

 シンは御神刀を手に取ると、少し弱っている魔王に切りつけた。さすがにシンは急所を刺すことが出来、魔王は倒れた。 

 やっつけたのか、シン。翔は思わずシンの手を取った。

 舞羅もシンに手を添える。

「生きていたの、良かった」

「奴にバラバラにされたが、何故か元に戻った」

 三人で魔王の様子を、観察する。倒れたままだ。どうやら仕留めた。と見える。

「やったんじゃないか、シン。動かない」

「デカいからな。用心じゃ。しかし、仕留めたろうな」

 いつの間にか極み爺も横に居た。烈も居る。しかし強は?

「強は御神刀にやられたな。注意したのに、死んで、黄泉に行ってしもうた。じゃが、わし等も直ぐ追いかけることになろうな」

 極み爺が言った。

「じゃあ、怨霊龍じゃあ無くなったのか」

 翔が聞くと、

「こいつが死んだなら、わしも本望じゃ。シンはどうじゃ」

「我も舞羅を助けたよって、黄泉に行く」

 実際は翔が来たからであるが、翔もそこは黙っておく配慮はあった。

 消滅して行く魔王を確認した後、三人と二龍は出口を探し当て、この世に戻ることが出来た。

 シンは、

「翔、世話になったな。お主を助けようと氷から出てきたつもりが、焔の童子や魔王達を討つにつけ、舞羅を助けるにつけ、お主らの助けで我の思いが叶った。子孫に助けられようとは、思いもよらぬ事じゃった。お主なら我が居らずともやって行けような。黄泉に行かねばならぬよって、ここで別れよう、さらばじゃ」

 極み爺も、

「お前たち、まだ、地獄から這い出て来る奴らが居るぞ。その御神刀で始末しろ。わしはもう存分に始末した気がするからの、黄泉に行けそうじゃ。シンと共にこの世とは縁を切ろう。その御神刀、しっかり持っておれ」

「分かった。二人とも元気でな。あ、ちがうか。気を付けて黄泉に行ってくれ。それも変だな。えーと」

「翔には気の利いた挨拶は無理だな」

 翔と烈、二人でごちゃごちゃ言っているうちに、シンと舞羅は黙って抱き合った後、シンは消え、極み殿も翔たちに、にやっと笑って、いつの間にか姿を消した。


 三人は空港へ行ってみた。どのくらい時間が経っているだろうか。それほどではないと思うが気になる所だ。

 空港の非常階段には、強が死体となって横たわっていた。南の島の自宅から、霊魂となって来ていた烈は、そんな強を見た後、自宅へ戻った。両親に説明しなくてはならない。

 目を覚ました翔は仕方なく、上司の元山さんに連絡して、脱獄していた強が事故で死んだと連絡した。元山さんは翔にお悔やみを言った。

「君のお父さんの従兄弟だったそうだね、残念だったね。脱獄したのも何か事情が有っての事だろうね。気を落とさずに、勤務に来いよ」

 つくづく元山さんは良い人だ、と思った翔である。元山さんとしては、翔に休んでばかりいないで、大概で出勤しろと言いたかったのであるが、翔には通じていなかった。

 真奈は、目を覚ました舞羅に言った。

「やっと目を覚ましたのね。ママね、あっちの非常口に倒れていたのよ。それにしても、なんでUSBB に行こうとしていたのかしら。あたしも脳溢血になりかかっていたかしら。それからね、舞羅よく聞いて、病院から電話があっていたのよ。舞羅が寝ている間に。パパが死んでしまったの。舞羅、なかなか目を覚まさないんだから。でも、今更急いでも仕方ないんだけどね」

 舞羅が泣き出すので、真奈も涙を流していた。

「ママ。舞羅ね、最近の事、何故か覚えていないのよね。パパが病院に入院したとこなんか全然よ」

「きっとショックからよ。パパ、頭の具合が悪くて、様子が変になってたの」

 二人は空港を出て、タクシーに乗り、病院へ急いで行った。

 そんな二人の様子を、上空から眺めるシン。そばには極み爺が居る。

「もう、このくらいで良かろう、シン。いくら見ていても仕方がない。黄泉からでも、下界の様子は見えるらしいではないか」

「そうですけどね、ここからの方が近いでしょう。だから見ていたのですよ。では。仰せの通り参りましょうか」

 二龍は少し透明な龍の姿になって、黄泉へと翔けて行った。翔はその様子も空港の窓から見ていた。なぜか、龍となって登って行く二龍のタイミングが、判ったのである。


 その後、翔は家に戻ってみると、リラが、USBBの自宅に帰る準備をしていた。

「帰るのか」

 訊くと、

「パパから電話があったの。ジェーンが職場の上司に自首したって言うか、本当の事を話したんだってさ。あたしをハメたって事をね。で、あたしは無罪放免ってとこ。首は取り消しだから職場に復帰していいし、辞めるなら、貰えた筈の給料とかもくれるって言うんだ。でも、あたし、ジェーンにあんな事されなかったら、昇進試験受けるはずだったんだ。昇進したら、そしたら殺人捜査専門の部署に入れてくれるって飲み仲間の警部に言われていたし、だからUSBBに戻るよ。それに、大概、皆死んじゃったしね。シンのいない日の国なんて、居たくないし。ぐすっ」

 リラは急に泣き出した。いつの間にかリラの気持ちは、翔からシンに移っていたようだ。無理もない。翔の勘では真奈だって、気がありそうだった。周りの女は皆シンが好きになっていたようだ。しかし、奴はそんなにもてるタイプだったかな。翔は不思議に思った。最初の印象を思い出してみた。

「お前、奴の妙な術にかかったんじゃないか。最初に会った時の印象、思い出した方が良くは無いか」

「ええっ。変な術はともかく、良い奴だったのは間違いないよ。翔だってそう思っているでしょ」

「たしかに。最近はつるんでいたくなって来ていたな。俺もあいつのいない日常に戻れるかな、強も居ないし。」

 リラとは逆に、翔は警察の仕事を、まだやり続ける気がしなくなってきていた。その時、翔のスマホが鳴った。出ると、熊蔵爺さんだった。

「翔、御神刀はお前が持って帰ったのか。その刀、お前を守るようじゃな。それなら、お前が紅軍団の長だ。この世も、あの世も、怖いものなしじゃ」

 そう、熊蔵爺さんに言われて、翔は道場でも始めようかな、と思った。元山さんの様に目を皿のように開けて、御神刀を見張るわけには行かないが、これを家に放って、仕事に行くのもどうかと思った。それに警察には花丸のコネで入った事だし、そろそろ退職すべきかもしれない。脳の程度がばれるのも時間の問題じゃあないかな。

 自室に入って、翔は御神刀を鞘から出して眺めた。

「色々、ぶった切った割には刃こぼれも無いし、増々切れ味良さそうだ。不思議な刀だな」

 ぎらりと光る刀に写った翔の顔は、以前とは違っている。

「えーと、1、3、5と2、4。あれっ」

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