第12話 死闘1
普通、人は取り付かれた後刺されて、気を失うというさんざんな目に合った後は、しばらくは、眠ってしまうものだ。しかし今日の翔とリラは呑気に眠ってはいられなかった。
翔は気が付くと、まだそれほど時間は経っていなかった。シン達は地獄へ行ったのだろう。彼らの気配は無かった。翔は心配でたまらなかったが、彼には役目が有った。まだ気を失っているリラを翔の家に連れ帰った。
その後、強に電話してみると、真奈と魔王は、USBB行の飛行機に乗るべく飛行場に居た。明は病院に放って置かれている様だ。
「USBB に、何しに行く気かな」
「俺が思うに、レディー・ナイラの能力は愛と希望を、振りまくんだったよな。その能力が舞羅の器に無いのが判ったんだろうな。だからまたレディー・ナイラとも繋がる気なんだろうな。無駄なのに。おそらくその能力は、まだ舞羅が持っているんじゃあ無いかな」
「そうなのか、それで良く舞羅は地獄に居れるよな。地獄ではきっと拒否反応が起こっていると思うけどな」
翔の言っている事は当たっていた。
地獄では困難な戦いとなっていた。今回はあの御神刀が無いので、翔が地獄に行っても盾にはなれず、連れて行かなかった極み殿。シンより先に地獄に行ったのも不利だった。地獄の輩のぶおぉん攻撃をまともに受け。それは怨霊龍の霊魂といえども、段々バラバラになりそうな威力だった。先に着いた分、長くその攻撃を受け、苦しい戦いとなっていた。
地獄という怨霊の住処は、地上より時間の進み方が早い。それにナイフなので、敵が近くに来ないと殺せなかった。そうなると、彼らは近くには来なかった。極み殿は、シンが来る前に自分の終焉が来そうだと感じた。後の二人は地獄へ来るのは初めてであるし、盾のない戦いである。どちらにしても困難である。
「これで、わしの
呟いたその時、
「伯父さーん、シンの伯父さーん。頑張ってー」
何処からか澄み切った声が聞こえて来た。
「おお、舞羅か。何処に居る。助けに来たぞよ」
「ここよー。ここよー」
地獄に響き渡るその声により、極み殿は心が澄み切って行くのが判った。今まで攻撃していた地獄の輩は、慌てて地獄の門の方へ行き、門を出ようとしていた。居た堪れない感覚なのだ。
極み殿はその声に導かれて、急いで進んだ。段々、あたりの様子が希薄に感じられるし、地獄の輩が散り散りに逃げ出しているのを見て、もしかしたらこの地獄の存在が、危ぶまれてきたのではと察した。こんな状態になっては、急いで助けねば元も子も無い。
「舞羅やー、舞羅。何処じゃ。返事をせい」
「ここよー、ここよー」
極み殿は、舞羅が声を出すと、地獄の崩壊が早まるが、かと言って、黙ってしまっては、場所が判らず、困ってしまった。
そこへシンが烈と共に、極み殿の側に転がって来た。
「主ら、遅いのう。舞羅の居り場所が判らぬ。声を出させると地獄が崩れて行くのじゃ」
「舞羅どのー」
「ここよー」
ガラガラガラ。音を立てて何処かが、崩れた。
「きゃー」
「おお、崩れ始めおった」
シンは場所が判ったようで、烈からナイフを貰うと一瞬のうちにどこかに行ってしまった。残された烈と、極み殿のピンチは続く。
「極み殿、この前はここからどうやって帰って来たのですか」
「それよのう。前は魔王に追い返されたが。ここが崩れ始めたと思った奴らが、逃げた方へ行ってみるか。おそらく出口があるじゃろう」
烈はがっくりした。
「そういう事でしたか」
一方シンは、舞羅の気配の方へ急いだ。呼んで声を出させては地獄が崩れて危険だ。気配の方へ進むが、一向にたどり着かない。
「妙だな。たぶらかされたか」
小声でつぶやくと、
「シン。ここよ」
と声がした。今の呟く声が聞こえたのだろうか。先ほどの声とどこか違うし、地獄も崩れてこない。妙である。
シンは静かに集中して、舞羅の気配を感じようとした。だが、その前に、近くに忌まわしい気配がする。気配を消したつもりでいる様だが、その禍々しさは消せようが無い。ぞくっとするが、ナイフなので、近くに来るまではどうしようもない。相手は襲う前にどうしても、笑いたくなったとみえ、
「ひひひー」
と言ってしまった。シンは素早く相手を見切り、ナイフで刺し殺した。
「きゃあー」
と舞羅に似た声で倒れたのが、腹が立った。だが冷静にならねばと、思いなおし、舞羅の気配を追った。
さっきより、遠くなってしまっていた。焦るシン。誰かに連れて行かれている。遠くなりつつある、気配を必死で追った。
「舞羅に近づける奴とは誰だろう」
思わず疑問を呟くと、
「こっちよー、パパと逃げているの。パパは死んだって」
なるほど、パパなら近づけるな。しかし、舞羅の父親が地獄に落ちるとは。鬼に近づきすぎたのだろうか。
しばらく追いかけると、明と舞羅の姿が在った。
「パパ、シンが来たわ。パパはあたしから離れて。パパの体が変になって行くみたいよ」
「良いんだよ、どうなっても。それから、言っておくが、シンは人間じゃあないんだ。戻っても別れねばならないよ。それだけは約束しておくれ」
追いついたシンは明を安心させた。
「私はもう死んで怨霊龍となった身。舞羅を助けた後は黄泉に行きます。ご安心ください」
「ああ、そうだったのか。じゃあ、この子を早く連れて行ってくれ。舞羅、お別れだ。好きなように生きておくれ」
「どうしたの、パパ。パパは逃げないの」
「パパは地獄から逃げられないのさ。してはいけない事をしたんだ。舞羅、幸せになるんだよ。良い人を見つけるんだよ」
「パパ、ここは危険よ。逃げようよ」
地獄と、そこに居る住人が崩れて行くような、物凄い振動がして来た。
「それではお別れします。舞羅さんを連れて逃げます。私にはあなたを助ける能力がございませぬ。申し訳ありませぬ」
シンは、明にそう言うと、舞羅の手を取り飛び上がって、崩壊を免れた。
「パパー」
舞羅は叫ぶが、自分の声が崩壊を招いているという自覚は、無いようなのが哀れである。
一方極み爺と、烈。地獄の輩が逃げる方向に行くしかない、気不味さである。
差し迫った崩壊の危険の方が気がかりで、極み爺と烈を横目で見ながら皆、門の方へ走って行く。門が見えて来ると、極み爺は、
「烈、ひょっとしたら、こいつらはここから出られぬのかも知れぬぞ。門の前を見ろ」
確かに集まって来ているだけで、どいつも門の外に出ようとはしない。
「俺らは出られるかな」
「出らずにおれるか。わしら地獄の住人では無いわい」
極み爺は、烈を捕まえ一緒に飛びあがり、空中を飛んで門に差し掛かった。門番が地獄の輩を押し留めていた所を、上から行くと、門を抜けることが出来た。
門番は上を見て、極み爺らが門から出るのに不満気だったが、地面の奴らで手一杯らしかった。
その時何処からか舞羅の声が聞こえ、また地獄の崩壊が進みだした。烈は、
「わあ、危機一髪でしたね。極み爺。おかげで私も助かりました。シンはどうしているかな」
「シンは舞羅を見つけたな、さっきの声がそのような事を言いおった声じゃ」
その時またガラガラと崩れた。舞羅の声も聞こえていた。
「舞羅の声が原因なんでしょうね。完全に崩れましたかね」
「うむ、完全じゃあないようだが。中の奴らは潰れて居ろうな」
二人はそう言いながら、先を急いでいるらしいシンを追いかけた。すると、舞羅の悲鳴が聞こえた。どういう事だろうか。極み爺は急いだ。
シンに追いついてみると、なんと、巨大な男がシン達の行く手を阻んでいるのだった。魔王だろうか。
魔王らしきその大男は、シンや極み爺たちに一段と強力なぶうおぉん攻撃を掛けだした。
これは後、一、二回でバラバラになりそうだと、烈は感じた。
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