第11話 死闘の始まり
一人と一龍で世間話をしながら、留守番をしていると、急に極み爺の様子が変わった。
「しまった。やられた」
「どうした、爺さん」
「シンが、シンが魔王に」
翔は、全身の血が凍ってしまったような気がした。そこへ少し透明になったシンが戻って来た。
「しくじってしもうた。舞羅が魔王に取られた。御神刀もな。翔、あのナイフはお前は持っていないのか」
翔ははっとした。極み爺もそうだったが、怨霊龍になった直後は龍神特有の神通力と言うかテレパシーと言うか、そういうものが無くなるようだった。
最近は極み爺も何かと察しが良くなってはいた。地獄で大暴れした後からだったかもしれない。
それにしても察しの悪いシンとなると、どうしようもない気がする。察しの良さが、彼の取柄では無かったか。
翔は唾をのみ組むと、
「えっと、俺は持っていないな。しかしあれがあった所で、魔王と御神刀のセットには勝てないぞ。いくら死んだ後で、これ以上死なないにしてもだ」
身も蓋もない言い方だが、はっきりさせておいた方が良い。
もしかすると、あの夜、強烈兄弟のどちらかに、渡しているかも知れない気がするが、彼らが持って来た所でどうしようもない。持って来なけりゃ良いがと思った。有ったら有ったで、シンが不利な戦いを挑みそうで不味い。
チラッと横目で極み爺を見ると、こっちの様子も不味そうだ。怒り心頭のご様子である。
「シン、しっかりしろ。誰が持っているか位分らぬのか」
翔はため息が出る。自分だって怨霊龍になって直ぐは、レディー・ナイラの居場所が判らなかったろうに。これからどうすれば良いのか。どうやら翔が考えるしか無さそうである。
「舞羅が取られたって、地獄に連れて行かれたのか」
「いや、魔王が体を乗っ取っている」
「妙だな、あんな無垢な子に魔王が入れるとは思えない」
「魂はもらったと言っておった」
「ということは、魂が魔王と入れ替わったようだな。舞羅の魂はどこかに捉えられているんじゃないかな。見つけて体に返したら、魔王は出て行かなきゃならない。清浄な物とは相いれないんだったよな。爺」
「そうよな。良く言った、翔。おそらく奴は舞羅を、地獄の何処ぞに隠しておろうな。見つけて連れ帰るのが先決じゃ。今はさぞ心細いであろうぞ。翔、この前の作戦の繰り返しじゃ。やはりあのナイフは必要じゃな、わしらは誰か適当な奴に取りつかねばならぬし」
「だけど、どうやって探す?真っ暗だったろう」
「お前は見えなんだかも知れぬが、わしは見えておったぞ。シンもおそらく見えるじゃろう」
「それに、行けばきっと舞羅が私を呼んでいるだろうから、きっと見つけられる」
「じゃあ、烈に聞いてみよう」
と言う事になって、翔がスマホを使うまでも無く、烈がやって来た。
「このナイフ、形見に俺にくれたじゃあないか、シン」
「しっ、あまり刺激するな」
翔は小声で、烈に忠告しておいた。
烈は、翔を見て少し眉をひそめ、シンと翔を見比べた。烈はうっかり、シンが怨霊龍になっている事に気付かなかったようだ。しかし、気付かない事が、あるだろうか。
「烈、お前、目が良く見えないのか」
「ばれたか、人質になっていた時、栄養状態が良くなかったらしくて、見えにくいんだ」
「烈は、地獄行メンバーは無理だな」
翔はだんだんピンチを感じ始めていた。
「いや、行くよ。現実と地獄では見え方が違うはずだ」
ほっとした翔だ。地獄では、ほぼ自分は役に立たなかった。舞羅の事を思うと、じりじりと焦りのようなものを感じ始めていた。そこへリラがやって来た。これは勘弁してほしかった。
「何で来るんだよう」
思わず気持ちが口に出た。
「あたしだってチームだからね」
しかし、これには極み爺やシンも難色を示した。
「リラちゃんは、舞羅の体や真奈さんを、見張るって言う役はどうじゃろな」
「伯父上、それも危険ですぞ。リラは翔の家に居てほしかったのう」
烈が、
「リラさん、何か持っているようですね。それはナイフでは、俺のと似ていますね」
「そうそう、やだ、あんたらが色々言うから。これ、知らない龍さんが持って来たの。大露羅さんから頼まれて、いわゆるお使いだって。知らないうちにフライパン持って黄泉に行っててさ、大露羅さんがナイフに作り替えたからって、持って来てくれたのよ。本体じゃないから御神刀としてはそのナイフより、弱いけど小物は殺せるって。言っておくけどそのナイフは御神刀だから刀にしとけばよかったのにって、怒ってたそうよ」
「なるほど、今となっては間に合わないけどね。それにしても龍神って割と大勢いるんだね。どんな奴だったの」
翔にとって、龍神はその辺に居る兄ちゃんか、おっさんに成り下がりそうだ。
「それがさ、初め見た時、カラフルな顔でさ。どっかの舞台の途中で大露羅パパに呼ばれて、うろついているのかと思ったら、戦いの化粧なんだって。昔からの装いで、戦う時はこの格好だって言われちやった。芝居じゃ無くて本物だってさ。でも地獄には付いて行けないって。この世で戦う時は加勢するって言ってたよ。極み爺は多分知っているって言っていたけど。名前は言わなかった」
「おう、知って居る。そいつはアマズンに住むあの一帯の王族の龍ぞ。若いころは大露羅とわしと三龍でつるむことが有ったのう。じゃが、近頃は会っていなかった。だいたい奴は年を食ってからは寝てばかりで、昼寝の邪魔をした奴はひどい目に合わせておったから、シンが生まれる前から、あやつのねぐらに寄り付く者はおらんかった。あいつが起きてしもうたとはな。おそらく、あの魔王が起こしおったな。かなり怒って居ろう。じゃが、魔王は舞羅に取り付いておるから、まだ、手が出せずにおるのだな」
「じゃあ、舞羅さえ助ければ、何とかなりそうな感じ?」
「うむ、勝機はある」
「それじゃ、早く助けに行こうよ。どうゆう手筈なの。極み爺」
「うむ。わしと、シンが、リラと、翔に取り付き、烈が先にリラを刺して一人目を地獄にやる、その時ナイフはリラの手にも持たせて刺しておけ。さすればわしがナイフを持って地獄に行ける。次に翔に取り付いたシンを刺す。その時は翔と手をつないでおく。さすれば烈もシンと地獄に行けるし烈がナイフを持って行くことになる。どうじゃ。それで良かろう」
「おいおい、爺さん、と言う事は、俺とリラは地獄へ行けないぞ」
翔はあの一回目の地獄行の事を思い出すと。取りつかれて、刺された人間は,この世でぐうスカ寝ていた事を、思い出していた。
「今回はこの方法で良い。第一皆が皆、地獄へ言ってどうなると言うんじゃ。この世には魔王が居るぞ。奴を見張らねば」
「そうかな、爺さんはどうやら、俺ら二人はこの世に残しておきたいらしいな」
「じゃが、この組み合わせにするしかあるまい。烈に取り付いて、御神刀で烈を刺せば、本当に死ぬかも知れぬぞ。さすれば黄泉に行く事になり。烈は、黄泉に行ったきりになるかもしれぬぞ。父上が、烈と強は半霊獣と言っていた。そうなれば戦力減少じゃ」
「そうなのかな。ところで強はどうしているんだ」
すると、烈は、
「真奈さんと舞羅ちゃんの事が心配だと言って、そっちに行ってしまった。魔王に気付かれたら、危険だと言ったんだけどな」
「やれやれ、シンだってやられたのに。死にたいのかな強は。あ、だけど霊魂ってやられてもこれ以上、死なないんじゃないのかなあ」
烈は、
「言っておくが、強は脱獄した。霊魂じゃなくて本体だからな」
極み爺さんはこの霊魂がやられた場合については、
「翔の言っている事は、良く考えるとわしも分からぬ。もしや霊魂がやられると消滅かも知れぬ。これは最悪じゃ」
シンは、
「これから後の事は、まだ誰も試しておらぬ事じゃからの。思わぬ事態になるかもしれねば、互いに最善を心がけるしかあるまい。翔、地獄で我らがしくじったならば、アマズンの龍神と力を合わせ、魔王を倒して欲しい。その時は舞羅の体も奴にどうされるか分らぬよって、覚悟を決めておいて欲しいし、真奈も危ないであろう。元はと言えば、我のしくじりのせいじゃ。すまぬ」
「わかったよ。でも、シンのせいじゃないぞ。ひとりではとても敵う相手ではない。ぐずぐずしても居られないな。やっちまおうぜ」
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