第5話 地獄へ侵入

 翔と極み殿、真っ暗な所ではあるが、地面らしき平面に打ち付けられて、地獄に到着を察した。

「うわぁい、うまくいっちまったぜ。じいさん」

 移動している間に極み殿は翔にとって、怨霊龍から、爺さんに格下げ?格上げと見た極み殿である。

「おお、やったな、翔。これからが本番じゃ。わしから手を離すではないぞ」

「そうだね、こう真っ暗じゃ、くっついていないと迷子になりそうだな」

「その、御神刀、わしに寄越さないかの」

「うん、爺さんの方がここじゃあ、持っておいた方が良いな。と言う事は俺をどうして連れて行きたがった訳」

「ふふふ、お前が居るとこの刀が盾にもなるのじゃ。先日の魔王退治の様子で知れた」

「なんだ、あれは俺が御神刀を持っていたから、攻撃を避けられたって事か。龍神だったら持っていても避けられないんだな。俺がくっついているのは盾変わりなのか。まあ良いけど」

 役割を確認し合った翔と爺さん。そこへぶううぉわぁあんと、例の攻撃が始まった。四方八方から攻撃してきたが、いずれも避けることが出来ている。翔はテレパシーで、

『爺さん、この攻撃だと、あいつらが何処にいるか判っちまうだけだな。近づいてくるのも判るな。せいぜい頑張って殺してくれや』

『おう、そのつもりぞ』

 それからは、翔は極み殿が、サクサク動いてやっつけているらしいのが、判るだけだった。

 サクサク以外にも、ドスドスや、ゴキゴキも在り、どの位の数をやっつけたか分からなくなるほど、大勢始末し終わった。

 ぐぅうぶぅわぁあうぅうをぉうぅんーんー

 だが、ついに何だか物凄い闘気の攻撃が来た。おそらくNO.1と言った所の、魔王だろう。翔と極み爺は此処からが勝負の分かれ目と覚悟して、身を引き締めた。

 ところが、

【オマエタチ、ココカラデテイケ。二ドトクルナ。ワレラモチジョウニワユクマイ】

 と、物凄いパワーでテレパシーが来たかと思うと、その瞬間、今度は元の火口付近に転がっていた。

「わああ、いてっ」

「翔、大丈夫か」

 強烈兄弟が、駆け寄ってきた。

「ああ、頭から着地しただけだけど、あれ、爺さんは」

 慌てて辺りを見回す翔に、強はもしや、と思いながら確かめた。

「爺さんって誰の事かな」

「あ、極み爺さんだ。手をつないでいた筈なのに消えた。何処へ行ったんだ」

 言いながら翔は、つないでいた筈の手を広げてみた。そこには極み爺さんの物と思われる沢山の龍の鱗があり、手を広げた為に、さらさらとこぼれ落ちた。

「どうなっているんだ、地獄から出られなかったのかっ」

 狼狽して叫ぶと、強が、

「いや、翔と手をつないで戻っていたぞ。俺は一瞬極み殿を見た。だが一瞬だけだったな。烈は見たか」

「俺も見たけど直ぐ消えた。俺らを見て笑った気がしたな。一瞬の十分の一位の瞬間だったな。ところで翔、御神刀はどうしたんだ」

 すると、強が、

「それは極み殿が持っていたようだな。瞬間的に見た」

「んじゃあ、どこに消えちまったんだよ。畜生、爺さんに御神刀取られちまったな」

『取ったなどと、失礼じゃぞ。これは元々わしの刀だ』

 三人とも極み殿の声は聞こえていて、慌てて辺りを見回した。

『上じゃ、上じゃ。聞こえる向きが判らぬのか。やれやれじゃの。御神刀は返してもろうただけじゃ。主らには扱いにくいよって、わしが預かっておく。誰ぞとは違って、必要な時はちゃんと持ってくるから安心せい。地獄でだいぶ遊んだよって、気分がようなっての。空を翔けてみとうなった。主らの真上辺りに何時もおるから、用があるなら呼べばすぐ行く』

 上を見上げると、極み爺さんは巨大な龍神の姿になっていた。灰色の空いっぱいの大きさで、少し透明だった。透明なのはもう亡くなっているからだろう。気を付けて見ないと、雲と見間違いそうだ。あまりの大きさに、三人で感心してみていると、機嫌よく立ち去ったように見えた。

 こっちからは、会話できなかったのだが、翔は、

「爺さん、少しは気が済んだんだな。良かったな。だけどさっきの話、シンへの皮肉入っていたよな」

「もう少し時間が必要なんだろ。やはりだいぶ二人でもめていたらしいな。さっき良くなってきたシンから、話を聞かされていたんだ。あいつの事だから、地獄から戻って来たのは察しているだろうな。帰ろうぜ」

 強に言われて、翔はシンが大した事なくて安心した。と言う事で、三人は火口を後にした。

 地獄の奴の言う事など、嘘じゃないかと思った翔であるが、一先ず戻れたので、後の事はなるようになれである。

 強烈兄弟は自分たちの今の住処に帰るというので、途中で別れた。強は意外とムショが気に入っているようだ。外より平和で良いらしい。

 ひとりでリラの家に行ってみる。

 表のドアは開いていた。まあ、鍵は約に立たない日常なのだろう。中に入ると、リビングのソファに鎮座したシンが、リラのママに薬を塗ってもらっていた。

「ただ今帰りました」

 リラのママに声を掛けた。振り返ったママは、

「あら、御無事でしたの。皆で心配していたのよ。今、シンの傷に薬を塗っていたの。始めはどうなる事かって感じだったけど、今はほら、だいぶ良くなっているの。見てごらんなさい」

 翔は言われてシンの傷口を見てみた。塞がっている。ママはせっせとガーゼに薬を塗り、傷にぴしゃっと乗せた。テープで止めると、

「もう夜も遅いからママ、寝るわ。シンも早く寝るのよ。起きていたら傷に良くないわよ、きっと」

 と言って立ち去った。

 まあ、他の奴にしてもらうよりは、リラのママが適任と言えるだろう。

「傷口、塞がっているね。治るよね、その薬で。シンには心配掛けたようだけど、無事、帰って来たよ。俺ら矛と盾のコンビだったな。しまいには魔王らしい奴が音を上げて、返してくれた。爺さん、数えきれないくらい色んな奴を殺して、気が済んだらしいな。上空をうろついているって言うんだ。気分がすっきりしているから、当分心配いらないと思うな。俺としては」

「傷は良くなっておるようじゃ。主には面倒をかけたな。我も主が戻って来て安心したぞ。伯父上を爺さんと呼んでおるな。伯父上もそれを喜んでおる様じゃ。伯父上は子が居らぬ故に孤独だったものを、我が期待に背いたし、死んだ親の所に行っておったのも、お怒りじゃったな。生きて居る伯父と親しくすべき所を、考え違いして居った。今、思うても致し方ない事じゃが」

「ふうん、だけどあまり気にしなくて良いんじゃないか。原因はほとんどが、あいつに自分の死骸を食われちまった事と、酒の毒に気が付かなかった自分に、がっかりだったと思う。今、機嫌良いし」

 そう言って翔は取りなして置いた。内心、

『あ、今の話、爺さんには聞こえて無きゃ良いけど』

 と思った。地獄耳の爺さんには、気を使う事である。

 腹がすいたと、食べ物を探しにキッチンに行ってみた。リラの家だしと思い、冷蔵庫も勝手に開けてみた。予想通り、翔の分は残して置いてくれている。食べ物を見ると急に空き腹が身に染みて、冷たいままでもいいやと、ぱくついていると、リラがやって来た。

「暖めなくて良いの。お急ぎの様ね」

「うん。冷たくても食える。ところで、リラ、最近色んな事が有って、慣れっこになっているね。前はこういう場合、よく無事で帰って来た。みたいな感じで、感激していた筈だけどね」

「ふん、止せばいいのに極み殿に付いて行って、馬鹿やろうって言うのよ、こういう時はね」

 と殴られて、

「うん、俺も殴られるのは割と慣れたな」

 と言いながら、弾みでこぼれた物も、拾って食べた。実の所食い足りない。そこではっとする。

「リラ、俺ってやけに腹がすいているんだけど、小鬼に取りつかれてなんかいないよね、見た感じどう?」

「それ、例のフライパンで作ったんだ」

「なるほど、何かに取りつかれて居たら、すぐ分かるからね。この空き腹は健康なだけか。ところで、他に食い物無いかな」

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