第4話 地獄へ出発

 ロン・ロックの埋葬に付き合う二龍神、見かけは人間に化けてはいるが、只ならぬ雰囲気を出していた。と言うのも怨霊龍、北の極みの尊の考え無しの行動で、どう考えても破滅まっしぐらに思えるシンである。二人並んだ時、思わず柄にもなく感情的言葉がほとばしり出て来た。

「私への憤りは重々承知しておりますがね。伯父上。しかし、この地獄行計画は無理ですぞ。早くそいつから出ねば、必ず後悔しましょうぞ。我はともかく、翔の身に何かあれば、伯父上は我ら龍神の末代まで龍神介にかかわる事は、許されますまい。それが判っておいでとは思えないのです。どうしてしまわれたのですか、伯父上」

 それは、怨霊になったからに決まっているのだが、判っていても言ってしまうのは身内の性だろう。

 話すうちに段々興奮していくようなシンの様子。翔とリラは心配だが側に寄り付く勇気は無い。だいたい、日の国の言葉でシンがしゃべっているのが、ここでは異常である。ケインやアンリは、

「ジェーンのパパ、日の国の言葉判っているみたいだね。学識のある人には見えなかったけど」

 と、呑気な話をしているが、他の大人たちは、埋葬が済んだのを幸いに、後ずさりしながら退散している。賢明な行動と言える。

『ごちゃごちゃほざくでない。わしは日の国の言葉は判らん設定のはずじゃ。主、不自然で在ろうが』

 怨霊龍にしては冷静な指摘である。シンはこんな伯父はほっといて、どこかにずらかりたい気分だが、翔の身が心配で頑張るしかないと思いなおし、

『早う、そいつから出て来て下され。その後は我を気のすむまで、打ち据えてもよろしゅうございますが、翔を地獄に付き合わせるのは、我の命に代えても、止めて見せまするぞ』

『では死んでもらおうか』

「ギャ」

 怨霊龍に一番言ってはならない事を、興奮して言ってしまったシンは、極み殿にあっという間に御神刀を奪われ、おまけに切りつけられてしまった。

「わあっ」

「止めてよ、極み殿」

 翔とリラは、急いでシンをかばった。

「極み爺さん。止めなよ。分かった。シンは放っておこう。一緒に地獄に行くんだな。分かった。場所を変えような。ここは不味い。ほら、行こうぜ。火口迄行こう」

「さらばじゃ皆の者」

 北の極み殿は、覚悟をしているのだろう。そんな挨拶をして、御神刀を手に翔に首根っこをつかまれて飛んで行った。後には御神刀による深手で、翔らを追いかけられないシンと、霊魂の出て行ったすやすや睡眠中の翔が残されている。リラは、

「わあぁん。パパどうしよう」

 なすすべなく一部始終を見ていた広永和夫だが、引き続きなすすべは無い。

 しかし年長者として、段々知恵が湧いてきた。手始めに、救急車を呼ぼうとしているママに、

「呼んでも無駄だ、この人は人間じゃあないんだ」

 と止める。

「翔さんの方は?具合が悪いんじゃあないの」

「まだ、寝ているだけだが。そのうち具合も悪くなるかも知れないな。その時に救急車を呼ぶ事になるかな。だが今は家に二人とも運ぼう、ケインとアンリは翔をお前らで家に運べ。ママは病院に俺は退院すると電話してくれ。リラと俺とでシンをママの車に運ぶぞ。それから強烈君を呼ぼう」

 和夫の指図で、それぞれ行動する。そんな時、ジェーンが、

「あのう、パパがお空を飛んで行ったような気がするけど、それに、その人も殺しかけたでしょ」

 と、恐る恐る聞いてきた。和夫は、

「え、1人でさっき家に帰ったんじゃあないですか。大丈夫ですか。見間違えたようですね、人間は空は飛べませんよ。家に帰ってしばらく横になってみては。こっちはちょっと、取り込んでいますから、しかし、車運転出来ますか。何ならリラに送らせようか・・・あ、良いですか。じゃあ、今日は大変でしたね。では」

 大変なのはこっちの方だが、社交辞令は心得ていた。

 皆で家に帰り着くと、強烈兄弟が、連絡の必要もなくやって来ていた。お母さんは超能力者なので、世話は入らない。烈が薬らしきものを手にしており、

「母さんがシンの傷口に、これを塗れって言うんだ。先祖伝来の秘薬だそうだ。これで治らなきゃ、処置無しだ」

「そんなあ」

 涙目のリラだが、泣く暇はない。

「翔は?」

 彼らは、そのことは知らない様である。不思議に思いながら、

「翔は極み殿に付き合って、地獄に行くんだって、地獄の入口の火口に行った。おばさん言ってなかった?」

「どう言う事かな。何も言わなかった」

「見えなかったのかしら。シンが御神刀で怪我したのは見えたんでしょ。極み殿を止めようとして彼に切りつけられたのよ」

「それは不味いな、俺らも行ってみようか、烈」

「そうだな」

「止めといた方が良いよ。犠牲者は少ない方が良いと思う」

 リラも随分成長したものである。和夫は感心していた。

 それにしても薬を届け終わったら、兄弟がリラ達の家ですることは無い。帰るように見せかけて、実際帰るはずがない事は、お互い承知していた。兄弟は地獄入り口の火口へ行ってみた。ジェーンの父親と思われる男は倒れていた。

「もう行ってしまったんだな、どうする強」

 そう烈に言われても、強も思案した。

「俺らはシンと地獄近くまで言ったことは無いし、様子見だ。あの薬でシンが回復したら、多分こっちに来るんじゃあ無いかな」



 少し時は戻る。

 翔は北の極み殿をつかんで、この火口まで到着してみた。一応来たが、翔はこの計画は不可能と思っていた。

 極み殿は、

「主、わしの首根っこをつかまずとも、この男も地獄の小鬼じゃから、自分で動けるものを、こういう動き方は、ちと見てくれが良くないのう」

「そうだったの、だけど霊力温存しといたほうが良いよ、ちいとでも。言っておくけど俺、地獄の中に行くの初めてだよ。あんたもだろうけど。中に入れたとして、俺ら何処で落ち合うの。言えるものなら、俺にわかるように説明してよ」

 翔はごもっともな意見を言った。

 翔も少しは考えることが出来る。シンに見せたい所である。

 極み殿は少し考えて、

「わしにくっついて、一緒に行けぬものかのう」

 これは、希望的説明である。

「どうやってくっつくわけ」

「手でもつないでおこうか」

「試したことないよね」

「うむ、一緒に行けなんだら、わしだけで何とかしよう。主はわしをこれで刺すだけで良い。もし此処に居ったままなら、我を追いかけずに帰るのじゃ」

「判った。ひとりでも行くんだな。でも無理だと思ったら犬死にしないでね。撤退だって戦法だろ」

「そうじゃな、それも考えにいれておこうぞよ、ぐずぐず出来ぬ、止めが入る前にやってみようぞ」

 と言う事になり、翔は左手で極み殿の左手をつかみ、御神刀で極み殿の急所を刺すこととなった。なんだか妙な体制だ。

 地獄に行った後の計画は無い。行き当たりばったりと言う事だろう。このコンビにしか出来ないというか、やらない行動の始まりである。

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