第3話 魔王を阻止する者
翔たちは地獄の魔王ナンバー3を何とか始末した。
と言う事で、とりあえず本来の目的であるロン・ロックの葬儀に参列となった。飛行機がUSBBのリラの家に近い空港に到着と同時に目覚めた二人、周囲の視線を気にしつつ、急いで空港から出ると、ケインとアンリが迎えに来ていた。
「わあ、実態が来た。翔、このあいだ僕はポイント2稼いでいたんだよね」
アンリは翔に似た頭の作りと気付いたリラ、
「挨拶なしで、急に偏った話題を言い出す奴。アンリは翔と似てるねえ。それ何の話題さ」
「アンリ、その話題はもう止めてくれないかな。シン達が多分まだこの辺に居ると思うんだ」
翔が言うと、
「そう。シンが怒っていたもんね」
「ああ、なんかごちゃごちゃ言い合っていた事あったっけ。アンリ、だからどういう事か説明しなよ」
リラを観察した翔は、彼女は青筋を立てることが出来る事を発見した。ケインは、
「早く車に乗ってよ。ママがさっさと連れて来いって言っているんだ。今日の午後から葬儀だよ。俺ら何と説明すればいいかわからなくて、ずっと、親類たちから逃げているんだ。パパはまだ入院しているよ。だからジェーンの様子が変なのを、ジェーンの実家の方の人たちがどういう事だって、俺らに聞くけど、なんで僕らに聞くのかって事さ」
「そりゃあ、知っているだろって事さね。その調子で逃げ続けるしかないな」
翔は意見を言っておいた。大した意見では無いが。リラは
「誰も説明する気ないな」
これはポイントの事である。リラは、次にジェーンの件について言う事になる、
「そう言えば前に行ったとき、ジェーンの実家に御神刀探しに来た人居たね、あれはきっとあっち側の奴らだよね、ちょっと今からまた、なんか有りそうな気がしない?」
「有ったとしても小物さ。シン何処にいるかな。おおい御神刀持って付いて来てくれてるんだろ」
「この車、定員四人であろう。我らは上におるからの、伯父上一人に出来ぬ」
シンは急にリラとシンの間に座ったかと思うと、直ぐに消えた。
「あれっ、今のシン?前と何だか感じ違ったね」
ケインがミラー越しに見て、感想を言った。
「着ているもの、すごくなかった、ケイン。それでだろ」
アンリが観察したことを言った。
「それもだけど雰囲気が」
「着ているもので感じ変わるよ。リラの例の写真見たけど、まるで別人じゃないか」
「あんたら、どうやって見たのさ」
驚くリラ。
「翔のママが写真取り寄せて、こっちに送ってくれたんだ。で、結婚したのかどうか、みんなで考えていたんだけど、実際どうなの」
すかさず翔は言った。
「してない。写真撮っただけっ」
そうこう言い合っているうちに、リラの家に着いた。しかし、母親の車が無いので、
「ママ、もう教会にいってら」
ママに、リラ達の結婚についての懸念を晴らしてやろうと思っていたアンリは、ちょっとがっかりだ。
「じゃあ荷物置いたら、俺らも行こう」
翔は荷物を運びながら、裏のロンの家を見ると、ジェーンはまだ教会に出発してはいないようだ。親類らしい人影も数人いる。御両親かな。じっと見ると、向こうもじっと見ている。妙だな。不味くないか?
リラは能天気にメールを見ながら、
「ママはパパも連れて行くから、早めに出て、病院に行ってるってさ」
「そうか。ところで、ジェーンの親類みたいなのが、こっちを窺ってやがる」
リラ共々、又睨み返す。
「どうするの、ここで始める訳」
アンリが聞くので、どうしようかと思っていると、向こうの家で、動きが始まっている。
「シン達が始末したみたいね。伯父さんが始末したがったのね。きっと」
「だろうな、地獄の奴を殺すときっと気分が鎮まるんだろうな」
「どういう事」
二人が聞くとリラは、
「イラつき易い伯父さんが最近いらしてるの。あんたら、会ったら失礼のないようにしてよね」
翔は、説明はリラに任せるのが一番、と言う事が解った。
ジェーンの所で、騒動があった筈なのだが、ジェーンは何事も無かったかのように、定刻に教会にやって来ていた。翔たちとほぼ同時だった。と言っても他の親類縁者はすでにほとんど来ていたので、翔たちはともかく、喪主のジェーンについては異様な事態と言えなくもない。
「始めてください」
神父さんに開始をお願いしているのは、ジェーンの父親である。
「あの人さっきジェーンちに居たよね」
「しっ」
アンリが言って、リラに注意されている。遠目だったが見ていた翔もそう思った。
彼は、シン達とひと騒動やっていた。取りついた奴を、退かしただけだったのだろうが、気絶せずうろつけるのか。
翔は不思議に思っていると、その横にシンが喪服を着て座っているのに気付いた。そして、シンがこっちに振り返った。
何とも言えない初めて見る表情だ。笑った顔もこの前見て驚いたが、今回の顔も珍しくて驚かされる。何だか翔に訴えている様なのだ。
どういう事?それに、気が付いたのだが、俺らが付いた時にはすでに、シンや、ジェーンの親父さん達は前方に座っていた。
ジェーンは時間ギリギリなのに変じゃないか。それにジェーンの母親の方はどうしているんだ。居ないじゃないか。さっき家からこっちを見ていた奴らに、交じっていたが。彼女は取り付かれていたので、気絶しているのか。親父はなぜ気絶しない。
「・・・・・。リラ、あれ、ジェーンの親父さんだろ。何か態度おかしくね」
神父さんのお祈りが始まっているのに、足を組んでこっちを振り向きにっこりした。リラは驚き、
「シンの伯父さん、ジェーンのお父さんに取りついているみたい」
「げっ、止めなかったのかシン」
シンはまたこっちを向き、途方に暮れたような顔をした。
「止めても取りついたんだな。困ったな、同化しちまう前に辞めさせなきゃ」
「式の間は無理よ」
「だけど、どの位で同化し出すと思う?俺の場合、直ぐらしかったぞ」
『同化して、主が伯父上を御神刀で始末し、伯父上が地獄に行ったうえで、魔王をやっつける計画になって居るそうじゃが、知って居ったか』
シンがテレパシーで言ってきた。
『聞いていない。早く辞めさせないと。そんな事できるとは思えないよ。多分、極み殿だけで地獄に乗り込むなんて無理。』
『もちろん、我と主は付いて行くことになろう』
「そんな馬鹿な」
葬式中に思わず声を上げる翔。しまったと思うと、
「すみません、彼は今、少し病んでいまして」
とリラはワザとらしい言い訳をした。
翔とシンのテレパシー会話は続く、
『取り付いたりして、伯父さん、地獄の奴っぽくなったらどうするんだよ』
『しっ、聞こえているんだぞ』
『妙な話声が聞こえたが、翔、今の言葉本気では無かろうな』
『ちょっと冗談言っただけだよ。ところで、どうしてその人に取りつかなきゃならなかったの』
『地獄の門には門番が居るのじゃ。わしら霊獣は、そう易々とは入れぬ』
『なるほど、じゃあ取り付いて御神刀でやられたら、行けるんだね』
『たぶんな』
『たぶん?断言できないって事。つまり誰も今までやった事ないって事でしょ。龍神は死んだら霊獣用の黄泉に行くのだから、霊獣用の地獄に行くんじゃないの』
『そういう所は無い』
『極み殿がその住人一号になる可能性は?』
『あるかもしれんのう。じゃがその前に人間用の方に行く』
『行けるの』
『わしの見極めでは、御神刀に急所を刺された鬼は、門を通らず地獄の中に直接入って行き居った。おそらくわしも行けると考えて居る』
『なるほど、でも俺とシンは門からになるよね。そこんところはどうなんだよ』
『主と、御神刀を見れば門番は逃げると見た』
『シンだけ行くんじゃだめなの』
『シンはあてにならぬ。お前ならわしの言う事を聞くじゃろう。実際、行く気になりだしておろうが』
ギョッとした、翔。実際、出来るなら、極み殿の願いが叶うと良いなと思ったのは、確かだ。だが、翔には地獄に入って、怨霊龍の手伝いとかする能力は無い。出来ない相談である。
ところが、内心思い出していた。熊蔵じいさんとの鍛錬の日々をである。出来ない、出来ないと抵抗しながら、結局全てをこなしてしまっていた。しかし練習と実戦では全く別物だ。気持ちだけで、どうなる物でもないだろう。
『気持ちだけ応援していますから、シンとでやってください。俺、人間ですから、一応。遠慮したいです』
『何を心にもない事を。付いて来い。シンはほっておくぞ。奴はしたいようにするさ。葬式が終われば始める。教会の外でな。わしにも常識と言うものは、まだ、持っておるからな。あ、終わったな。付いて来い』
しかし、極み殿、ジェーンから、
「パパ、何処へ行くつもり。今から埋葬でしょ。ママは寝てしまっていたから、パパは絶対最後まで居てよね。皆から変に思われているわ。自分だけさっさと教会に行くし。今だってよ、周りを見てよ」
と言われ、ジェーンの父親役だった事を後悔していた。
『参列者の仲間にしておけば良かった。ちと、考えが無かったのう』
もっと考え無しの事を、今から始めようとしているのだが。
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