第7話 クールで美人な黒髪の彼女とお嬢様
俺たちが
ピンポーン——普段は来訪者の少ない部屋のインターホンが鳴った。
「
「俺の背中に寄りかかって本を読んでただけのような……?」
八蜜さんが文句を垂れつつインターホンの液晶モニターのもとまで行き、ピタリと動きを止める。
「八蜜さん……?」
どうしたのだろう——そう思い八蜜さんの背後からモニターを覗きこむ。
そこに映っていた来訪者は、アニメでしか見たことがないツインドリルの髪型をした少女だった。
ちなみにツインドリルとはツインテールでいうところのテールの部分が縦ロール状になっている髪型である。
セットするの大変そうだな……。
「随分と個性的なキャラ……いや女の子ですけど、八蜜さんの知り合いですか?」
「……残念なことに、そのとおりよ」
珍しく深めのため息をつき、インターホンの通話ボタンを押す八蜜さん。
「なんの用?」
苛立ちを露わに対応する。
嫌いかまではわからないが、どうやら苦手とする相手のようだった。
『いきなりご挨拶ですこと。それが四年ぶりに再会した妹への言葉ですの?』
妹……?
八蜜さん、妹がいたのか……。
それにしても、なんというかわかりやすいお嬢様口調だな……。
「私はあなたのことを妹と思ったことはないわ」
家族仲がよろしくないというのは聞いていたが、八蜜さんがここまで嫌悪感を露わにするほどだとは……。
『それでも構いません。それよりも大事なお話がありますの。中に入れてくださらないかしら?』
「帰りなさい。あなたと話すことなんてなにもないわ」
『そうですか。では、あなたがお付き合いなさっている……
「っ……!?あなたっ、どうして大希くんのことを……!?」
焦った様子で背後にいる俺へ目を向ける八蜜さん。
家族仲がよろしくないということは、彼氏ができたと一報もいれてなかったのだろう。
『
何者なんだ鮎川家……。
『彼に手出ししてほしくないのであれば、
「……わかったわ」
エントランスホールにある自動ドアのロックを解除する八蜜さん。
「帰ったほうがいいですかね……?」
マンションのエントランスから八蜜さんの部屋に到着するまで、エレベーターを使っても一分はかかる。
そのため階段を利用すればすれ違うことなくマンションの外へ出ることが可能なのだ。
「いえ、いてちょうだい。私、あの
「八蜜さんがそう言うなら……あ、手を握っててあげましょうか?」
「えぇ、お願い」
冗談で言ったつもりだったのだが……まぁいいか。
「ご機嫌よう。大希さんもいらっしゃったとは。もしかしてお邪魔でしたか?」
金髪ツインドリルにゴシック調のドレス——口調といい見た目といいお嬢様感を醸し出している八蜜さんの妹さん。
もしかして八蜜さんの家って相当な金持ちなのでは……?
「えぇ邪魔ね。今すぐ私の視界から消えてくれないかしら」
「まぁまぁ。そんな邪険にしなくてもいいじゃないですか」
「大希くんはどっちの味方なの?」
元が美人なだけに睨みの迫力がすごい。
「あら。意外と話が通じそうな方ですのね」
「八蜜さんよりは頭は柔いつもりです」
「私の頭が堅いと言いたいのかしら?」
普段はともかく、今の八蜜さんが感情的になっているのは明らか。
まともな思考能力があるとは思えない。
「知ってるみたいですけど、八蜜さんの彼氏の要大希です」
「これはご丁寧に。
はちみつにきゅうり……美味しいんだろうか……。
「なに親しげに自己紹介なんてしているのよ」
「いちいち睨まないでくださいよ……変な性癖に目覚めそう」
「私に睨まれただけで達してしまう変態にしてあげましょうか……?」
「わーい(棒)」
八蜜さんとじゃれ合っていると、ものすごい怒気を含んだ視線を感じた。
八蜜さんの妹さん——九莉ちゃん。
「お姉様。
「あなたは私に用があったのでしょう?」
「それはまた後ほどお話いたします」
「……わかったわ」
釈然としない様子で俺と目を合わせ、小声で「用心しておいて」と言ってから八蜜さんは部屋から出て行った。
残される俺と
「それで九莉ちゃん。俺に話って?」
「
「……え?」
「あなたのような
あーいやですわ——先ほどまでのフレンドリーな姿勢はどこへやら、嫌悪感を露わにする九莉ちゃん。
「それにしてもお姉様……ますますお美しさに磨きがかかって……尊い、ですわ……」
呟くようにそう言いつつ恍惚とした表情を浮かべている。
んん……?
「それがあなたのような犬のフンに熱中しているだなんて……嘆かわしい」
「犬のフン……」
そんなこと言われたの初めてだな……。
というか実際に口にする人っているんだ……。
それより——。
「九莉ちゃんってもしかして八蜜さんのこと、好きなの?」
「お姉様のことを愛するのは妹として当然ですわ」
あっさりと認められてしまった。
ただのシスコンじゃねぇか。
「お姉様が屋敷にいた頃は、四六時中お姉様の行動を観察していたものです」
「……」
姉妹そろってストーキングが趣味とか……。
「あなたのような男のどこがいいのか微塵も理解できませんが、お姉様にあなたと別れろと言ったところで頷くとも思えません——なので。あなたと交渉させていただきますわね?」
どうやら九莉ちゃんは俺と八蜜さんの仲を心良く思っていないらしく、別れてほしいらしい。
「交渉……?」
「えぇ。一千万でどうです?」
「は……?」
「
「一千万なんて大金、そんな簡単にあげていいものなの?」
「
なるほど……鮎川家がどれほど金持ちの家かはわからないけど、九莉ちゃんが大金を積むほど八蜜さんのことを大切に想っているのかは理解できた。
「つまり、九莉ちゃんにとって八蜜さんは、お金でどうにかできる程度の存在ってことなんだね」
「え……?」
「八蜜さんは俺の女だ。一千万だろうと一億だろうと、そんなもので手を引くほど俺の気持ちは安くねぇ」
いくらお金を積まれようと、その先にあるのは八蜜さんのいない世界……そんな世界に魅力を感じるはずもない。
俺の言葉に驚くか怒るかすると思っていたが、意外にも九莉ちゃんの口元は緩んでいた。
「ま、最初からお金でどうにかできるとは思っていませんでしたわ」
ですから——九莉ちゃんが俺の目の前までやってきて、静かに俺の腕を掴んだ。
その腕が、導かれるままに九莉ちゃんの胸へと触れた。
「あなたのことを寝取らせてもらいます」
「……は?」
「あなたが節操なしでだらしのない男だと知れば、お姉様も愛想を尽かすでしょう。ですから不本意ではありますが、
「はぁぁっ!?」
なんだこの超展開!?
てか交尾って……!
「興味ありませんか?現役JKのカ・ラ・ダ」
「ごくり……」
「ごくり……じゃないでしょ大希くん」
「ひぃぃっ!?」
いつの間にか八蜜さんが帰宅していた。
「あらお姉様。お早いご帰宅ですこと。もう二時間ほど席を外していただいても構いませんでしたのに」
「黙りなさいビッチ」
「ビッ……!?」
あ、凍った。
「あなたたちの会話は盗聴させてもらったわ」
なんですと!?
「九莉……まさかあなた、私のことが好きだったなんてね」
「な、なにを仰っていますの!?わ、
「ツンデレ乙!——もしもあなたが私のことを好きだと認めるなら、これをプレゼントしようと思っていたのに……残念ね」
「そ、それはまさか……!?」
八蜜さんが手にしていたのは、一本の鍵。
まだ俺ですら貰っていないというのに、まさか八蜜さんの部屋の合鍵か……?
「大好きですお姉様愛していますわ!」
いや変わり身はやすぎないっ!?
「いい
八蜜さんは九莉ちゃんの顎を撫で、なぜか百合ムードを作り上げた。
「きゅん……お姉様……」
家族仲はよろしくない……はずだよな……?
「今日は大希くんとイチャイチャしていたいの。今日のところは帰ってもらえる?」
「はっ!お姉様のお言葉とあらば!」
言葉どおりそそくさと去っていく九莉ちゃん。
お嬢様だと思ったら忠犬だったか……。
「思った以上に個性的な妹さんだったね……」
「そうね。昔から私のことを嗅ぎ回っていると思っていたけれど、まさか禁断の愛に目覚めていたなんて……驚きだわ」
え、九莉ちゃんの好きってそういう好きなの!?
「それに、八蜜さんの家がお金持ちっていうのも初耳だし」
「いえ、経済面はごく普通の一般家庭よ」
「え?でも一千万がどうとか……」
「実物を見たの?」
「……」
見てない。
え、もしかして俺、九莉ちゃんに騙されるところだった……?
「九莉は病気なのよ」
「病気……?それって……」
「中二病の一種、お嬢様病よ!」
「……」
自分のことをお嬢様だと思っているとかそういう感じ……?
なんか急に可愛く思えてきた……。
次に会う機会があったら優しくしてあげよう。
「それはそうと大希くん」
「はい?」
「女子高生に興味があるの?」
「い、いえまさかそんなこんなクールで美人な黒髪の彼女がいるのに年下に興味あるわけ——」
「別に責めているわけじゃないのよ」
ふふ——八蜜さんはいたずらっ子のように微笑み——
「高校生のときの制服があるのだけれど……する?」
魅力的な提案をしてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます