第6話 クールで美人な黒髪の彼女とスキーデート
「そうだ。スキーへ行きましょう」
いきなりサブタイトル回収をする
産まれたばかりの小鹿ごっこをさせられている
「な、なんでいきなり……?」
「私、一度もやったことないのよ」
「やったことないって、スキーをですか?」
「そう、スキーを」
「
俺たちの住む場所が北海道だと発覚した瞬間だった。
それはそれとして、北海道では小学校でスキー学習がある地域がほとんで、グラウンドに作られた雪山であったりスキー場であったりへと赴き、スキーに関する基本的なことを学べる機会が設けられている。
なので北海道出身でスキー未経験者というのは稀なのだ。
「家庭の事情で機会がなかったの」
「なるほど……」
八蜜さんの家庭のことを詳しく聞いたことはないが、以前特殊な親と言っていたのを思い出す。
家が貧乏で、とかそういった理由だろうか……八蜜さんの立ち居振る舞いからは想像できないけど……。
「その代わりスノーボードなら習っていたけれど」
「……」
それ親がスノボ派なんてオチじゃないよな……?
個人的にはスノボが上手い人はすごくかっこよく見えるので、スキーよりもスノボしている八蜜さんを見てみたい気持ちがあった。
「というか、スノボの経験があるなら、別にスキーを滑れなくてもいいんじゃないですか?」
「ダメよ。北海道が舞台のラブコメ作品の冬にスキーをしないわけにはいかないわ」
どんな理由だそれは。
「その理屈なら雪まつりはどうなるんですか?」
早いときで一月末から二月中旬くらいまで開催される、北海道の冬を代表するイベントのひとつ。
時期は過ぎているので今年はもう見に行けないが。
「見るだけなんてつまらないじゃない。見ているだけでおもしろいのはカップルの喧嘩くらいよ」
「歪んでますね……」
「例外があるとすれば、
「言うことがちげぇや」
八蜜さんは五年もの間、俺に気付かれることなく俺へとストーキングを続けていた実績がある。
元ストーカーの言葉は重みが違う。
「なんだったら大希くんもしてみる?私の日常観察」
「そう言われましても……」
八蜜さんとは大学やバイトがある日以外は常に一緒にいる——それくらい八蜜さんとの日々は日常の一部と化しているので、今さら観察と言われてもいまいちピンとこない。
「それなら私の肉体観察なんてどう?」
「それ、最終的に八蜜さんがえっちしたいだけですよね?」
肉体観察なんてしていたら理性がもつはずもなく、互いにえっちな気持ちになって観察どころじゃなくなるのは目に見えていた。
「それはつまり、大希くんは私とえっちするのはイヤということ?」
「そんなわけないじゃないですか。好きな女とえっちしたいと思うのは、男の本能ですし」
「好きな女……」
いちいちそこで顔を赤くしないでほしい。
小鹿ごっこをしている俺が背中に座る八蜜さんの表情をなぜ知り得たのか……愛である。
「大希くんは、普段とえっちのときとでギャップがありすぎるのよ。私の心臓がもたないわ」
「いや知りませんけど」
それを言うなら八蜜さんだって……あまり
「それよりスキーでしたよね」
話を元に戻す。
このままでは妙な流れになってしまいそうだったからだ。
もちろんそれはそれで一向に構わないが。
「今度の休みにでも行きましょうか」
「いやね大希くん。あなたはいつもイッているじゃない」
「唐突に下ネタ投下するのやめてくれませんかね!?」
なんやかんやでスキーへ行くことになった。
今回も少しばかり長い話になりそうだ……。
***
「大希くん。私をスキーに連れてって」
「もう着きましたよ」
そのネタがどれほどの人に伝わるのか……。
ともかくスキー場へ到着。
八蜜さんは上下ともに紫色、俺は黒色のスキーウェアを
「それじゃあリフトに乗りましょうか」
「待って大希くん、これ歩きにくいわ。脱いでもいい?」
これからスキーをするのだから当然だけど、俺も八蜜さんも両足にはスキー靴を履き、スキー板に固定している。
そのため平地では歩きにくいというのはわかるのだが……。
「ダメですよ脱いじゃ。乗るときはともかく、降りるときはどうするんですか」
リフトに乗ってる間に装着すればいいのかもしれないが、それは危ない。そもそもリフトに乗る際にスタッフに注意されるだろう。
「脱いじゃダメ?大希くんは脱がすほうが好きということ?それとも着衣プレイかしら?」
「どうしてそうなった」
たしかに「スキー板を脱ぐ」というニュアンスには違和感があったけど、まさかそれを言いたかっただけなんじゃ……?
「それに私が乗るのは大希くんにだけよ」
エンジン全開フルスロットルな八蜜さん。
「じゃあ先に行ってるんで」
「えっ!?」
意地悪をしてやろうとリフトのほうへ向かおうとすると、八蜜さんは驚きつつも八の字歩行を利用してついてきた。
「説明しよう。八の字歩行とはスキー板の先端を八の字に曲げることで前へ進みやすくするスキーの基本動作なのだ」
「だれに説明しているの大希くん……」
八蜜さんが呆れたような表情で見てくる。
「というか歩けるじゃないですか」
「大希くんを真似ただけよ。トレース——オン、したの」
それより——八蜜さんが腕にしがみついくる。
「私のそばにいなさいよ」
潤んだ瞳に見つめられ、思わずドキリと鼓動が高鳴った。
「八蜜さん……」
見つめ合う俺と八蜜さん。
しかし——。
「それ嘘泣きですよね?」
「ちっ」
クールで美人な黒髪の彼女に舌打ちされました。
「でも、寂しくはなるから……」
ボソリと呟き、様子を窺うようにチラッと見てくる。
「わかってますよ。遭難するときも一緒です」
「雪山で遭難したら、体を温め合う必要があるわね」
「なにを言いたいかわかっちゃったんでその先は言わなくていいです」
***
「楽しかったわね、スキー」
スキーシーン全面カット……だと……!?
「当たり前じゃない。私の痴態を晒すわけにはいかないもの」
スノボ経験があるからスキーもある程度は滑れるだろうとタカを
何度も転びつつようやく一度滑り下りてきたところで八蜜さんが根をあげ「スキーやめる」と言い出し、せっかくレンタルしたスキー一式を返して二人でスノボに切り換えたのだが、そこからは八蜜さんの独壇場だった。
「スキーが楽しかったんですか?スノボが楽しかったんですか?」
「大希くんがスノボで七転び八起きしてるのを眺めるのが楽しかったわ」
生き生きとしてるなぁ。
「ひどい彼女だ……」
やっぱサド気質なんじゃないだろうか……。
「帰ったら大希くんが私にひどいことをするのよね?」
「ひどいことって……むしろ八蜜さんが喜ぶことでは……?」
「それじゃあ私がえっちみたいじゃない」
え、今さらそこ気にするの……?
「でもえっちはスキー(好き)ですよね?」
「……は?」
「……わ、わー……滑っちゃった……スキーだけに……」
「……寒すぎるわよ」
冬だけに……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます