第31話 黄金の草原 - 14
魔獣の遺体をある程度処理をし、討伐した証拠として牙をナイフで確保してから折れてしまったショートソードの柄を回収する。
刃の部分は勇者の力で鋼鉄に変えておけばいいけれど、柄は保持力の強化と同時にアングロサンの技術を使って高周波振動にも耐えられるものにしているのでこれを他の人に回収されるわけにはいかない。
最悪これも分解してしまえばいいのだけれど、結構細かい構造になっているため自分で生成するのは出来なくはないが時間がかかるし集中力的にも周囲警戒が出来なくなるので再生成はしたくない。
『うん、丁度こっちに走ってくる気配があるからやらない方がいい』
イーアに周辺警戒をお願いしていたことが功を奏した形になった……今から刃の方を構成物質変換をしようとしていたタイミングだったので助かった。
体重移動の癖や気配を隠そうともしない悪癖は恐らくロイだとは思うけれど……多くの商隊が村に入って忙しいタイミングであるにも関わらず結構な速度で走ってきているのを感知できる。
『まぁ……そういうことなんでしょ』
「村でもトラブルかぁ、これでも滞在中は対魔獣専門みたいな契約だったと思うんだけどなぁ」
ただあの村長のしたたかな部分を考えれば現場に居れば対応してくれると思われているってことだろうし、状況を見てから判断することではあるけれど……あの村長のことだからイネちゃんが参加するだけの要因を色々積み上げてくれちゃってそうなので軽くため息が出る。
「うぇ!なんじゃこりゃ!」
どうやらロイがイネちゃんが魔獣と戦った中でも一番村に近い地点まで来たようで周辺に散らかる魔獣の血とその酸性によって灼けた樹木や草を見て声を挙げたようだ。
「何かあった?」
イネちゃんは二の足を踏んだロイに声をかけて予想している内容だろう報告を待つ。
「え、あ、大丈夫なのか?って村でトラブってるんだ!」
「ハイ大丈夫だから混乱しない。それと予想通り何か起きたわけね」
「予想通りってどういうことだよ」
「魔獣に交通インフラ分断されている状況で食料自給率はどこもきついだろうからね、どっかしらの商人とかが強欲な面の皮を見せるだろうなって思ってただけだよ。村長も想定してたんじゃないかな」
「……確かに村長来るのは早かったな」
「その上でイネちゃんを対魔獣メインで護衛契約したわけだから多少遅れるのは想定内だと思うよ、村長も」
ロイと会話しながらもイネちゃんは魔獣の牙の収集を進める。
魔獣駆除の証拠としてなら爪でもいいとは思うけれど、できれば新鮮ほやほやな魔獣の血がついている奴の方がインパクトはデカいし牙の数本程度なら渡したところで優秀な加工師が時間をかければナイフくらいなら作ることが出来るし、人によっては矢じりなんかにして元から毒を分泌できる構造の牙であることから毒矢として使うこともできるので交渉材料としては弱いけれど選択肢を与えることは出来る。
「その村長に呼んできてくれって言われたんだよ!」
「追加報酬要求出来るかなぁ……」
「こんな時に何を言ってんだ!」
「一応これでも旅人、冒険者、傭兵なんていう自由業だからね、まぁ既存の報酬を受け取れなくなるのも困るし交渉は事後でいいか。そのための材料も採取出来たし」
そう伝えながら魔獣の体毛を採取して簡単にまとめた束を1つロイに投げる。
「魔獣討伐の証って意味なら連中の護衛にとっては意味のあるものだと思うからね、イネちゃんはこいつらの討伐数で稼いでないから別に執着する必要もないから丁度いいでしょ」
「って魔獣の毛かてぇ!」
「硬さは違うけれど人の毛だって重要な器官を守るための防御機能だよ。魔獣の場合は走行速度とかの関係で木の枝とかで傷つかないように進化した結果じゃないかな。それでも金属刃をちゃんとした技術で扱えば魔獣の毛の上から皮膚だって斬ることも可能な程度だから生物は生物、酸の血が面倒なだけだね」
ロイに解説しながらも自分の言葉の内容をイーアに思考してもらう。
『生物としていびつな行動や臓器の位置なのに、今イネの言ったように生物としての常識の範疇に収まってたりするのは不思議なんだよねぇ』
そんな疑問を漏らしているが、今イネちゃんたちがそれを細かく考えたところで答えどころか憶測すらできないので新たに舞い込んできた仕事の方に意識を向ける。
「それで、村はどういう状態?」
「俺が呼びに出る直前でも宿泊所の1階で衝突する寸前ってところだった」
「となるともうドンパチ始まっててもおかしくないか……」
対人戦を実戦でルスカ少年に経験させるにはいいタイミングかもしれないが、実力と現時点での彼の心構えを踏まえて考えた場合リスクも大きい。
ただ目の前で殺意むき出しの人間相手への対処方法をレクチャーするにはベストな環境かもしれないのでいい機会であることは間違いないか。
そう思い立ちトラブルをチャンスと捉える精神に切り替えてから。
「それじゃ、現場に案内してもらっていいかな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます