第2話 悪魔の商法

 無事本日分の契約書にサインし終えた悪魔は、早くも経営についての相談を始める素振りを見せている。

 チラチラと腕時計を見る悪魔。どうやらキッチリ2時間で相談を終えるつもりのようだ。

 ひょっとして、延長料金を支払いたくないのだろうか?



 悪魔は得意げな表情で、起業に至る経緯を説明する。

「最近では不眠だったり眠りが浅い人族が多いと聞いてな。これはビジネスチャンスだと思ったのだ」

 なかなかのビジネスセンスをお持ちの悪魔であるようだ。


「なるほど。それで亜隈出あくまでさんは、その眠りについての悩みを解決するすべをお持ちだと言うことですか?」

 小鶴井こづるいが尋ねると——


「うむ。吾輩は人族を眠りにつかせる呪い…… いや、魔法を使うことが出来るのだ」

 ……話の途中に出てきた怪しげな言葉は聞かなかったことにしよう。


「……ずっと眠り続ける…… なんてことはありませんよね?」


「おいおい、そんなことしたら、利用料を回収出来ないではないか。寝ている人はお金を払ってくれないぞ?」

 料金前払いのシステムにすればいいと思うのだが、それは絶対に言わない方がいいだろう。


「まあ、吾輩の力をもってすれば、もちろん死ぬまで眠りにつかせることも可能だが…… ビジネス的に考えて、だいたい1時間ぐらいが妥当であろうと考えている」

 やはりビジネスライクな悪魔のようだ。



 ここまで悪魔のビジネストークに押され気味の小鶴井こづるい。だが彼とてヤリ手の経営コンサルタントだ。ここらで一つ、画期的なビジネスプランを提示させていただく気になったようだ。


「でもここにはベッドが4台しかありませんね。もし来客数が増えたとしても、これでは効率が悪いのではありませんか?」


「ほう? 今、当店では閑古鳥が鳴いている状況だというのに、もう将来のことを見据えるとは…… キサマ、なかなか見所があるではないか。どうだ、吾輩の眷族けんぞくにならないか?」


「……お断りします。で、その安眠効果が得られる…… その魔法は、亜隈出あくまでさんが直接お客様に触れないと、効果が発揮されないんですか?」


「バカにするな! 大悪魔である吾輩ならば、……その魔法を仕掛けておきさえすれば、どこでも誰でも吾輩の術にかかること請け合いでアル!」

 この悪魔、自信満々のようでアル。



「ならその呪い…… じゃなくて、魔法の仕掛けをローソクとかお香に仕込むことなんかも可能であると?」


「煙が出た際に呪い…… いや、魔法が発動するようにすれば良いのであろう? たわいもないことだ」


「じゃあ、それを商品にして売りましょう。ローソクなら単価はそれほど高くはありませんので、リスクも大きくありませんから」


「おお、それは妙案だ。キサマ、やはりヤリ手であるな。どうだ、我が眷族に加えてやろ——」

「お断りします」


「……なんだ、欲の無いヤツめ」

 眷属になると何か良いことでもあるのだろうか? こういう強引なタイプの人…… いや、悪魔とは仕事だけの関係にとどめておくべきだ。

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