第10話 人工肛門になったお話 4
さて、袋を付けた入院生活が始まりました。
なんだかお腹がボヨンボヨンしましたよ。
開腹手術はお腹の筋肉も切るからでしょうか?
お腹がポッコリ出てしまった上に便の袋もポッコリ出ていて退院したら着る服がないからどうしようと思いながら入院していました。
手術から4日目にやっとICUから4人部屋の一般病棟に行けました。
立派なカーテンで仕切られていて自分のスペースは広々としていて驚きました。
大腸のポリープ手術の時にいた一般病棟はカーテンさえ邪魔な狭さでしたから。
内科と外科の違いですかね?車椅子率が高いとか。
私のベットの前には80代の女性、安藤さんがいました。カーテンで仕切られているし、寝たきりで動けないようで話す機会はなかなかありませんでした。
どうやら大阪から駆け付けた息子さんにスマホを渡されて困っているようです。
全部、独り言を言って説明してくれます。
看護師さんが来たら、
「息子の名前で電話が鳴るんだけど出れないのよ。どうすれば電話をこちらからかけれるの?」
と聞いて堂々と息子さんへ電話をしていました。
「あんたの名前が画面に出るけど出方がわからなくて困ったのよー。看護師さんに聞いてかけたの。」
と大きな声で(それ知ってるけど)こちらにも教えてくれます。
ある意味面白くて耳を傾けてしまいましたよ。
そして慣れてくるとそのスマホにいろんな人から電話がかかってきて入院に至った経緯、今動けないから病室から電話をしていること、今後の心配、息子の意外な優しさ、嫁が手伝ってくれたこと。夫の軽度認知症の具合。
すべてを話すので、その人のことを他人とは思えないくらいに知ってしまいました。
私の方は
大腸ポリープの主治医、大腸ポリープの執刀医
外科手術の執刀医3人が
「バーバラさん!どうですか?」と毎日、顔を出してくださり
例の「森美森さん」(生徒の保護者の女医)の話からのピアノ教室の話や発表会の日程やらコンクールの日程やらが全部聞かれていました。
そして、とうとう退院3日前くらいその80代の女性、安藤さんとご対面する日が来ました。
たまたま安藤さんが歩行器を使えば歩けるようになったのでトイレの前でバッタリ!
「あなたがバーバラさんね。有名人なの?先生が入れ替わり立ち替わり挨拶に来てるじゃない?」
「いやいや、安藤さんのところにも先生は毎日いらしてますよね?たまたま私は3人の先生と関わっただけですよ。」
「あら、そう?ピアノの先生なんでしょう?知ってるのよ。
私ね、椅子の上に登って冷蔵庫の上の物を取ろうとして落ちたのよ。」
「ぷっ、知ってます。」
「あ?やっぱり?聞こえてた?」
「安藤さんのことなら何でも知ってますから何でも聞いてください。」
「そうよねぇ、知られてるわよね。笑!」
2人で大笑いして仲良くなりましたよ。
看護師さんが忙しい時は私が歩行器の安藤さんを連れて一階のコンビニに行ったり、洗濯機の使い方、無料のお茶や自販機の場所、あちこちにあるトイレの場所を教えてあげたりしました。
いつも退院後の生活についての不安や軽度認知症の旦那さんの愚痴をスマホで話してらしたので、勝手に聞いてわかる範囲でアドバイスしたり。
私が退院する時は
「バーバラさん連絡先を教えてよ。また会いたいわ。」
と言われました。
「安藤さんちのマンションの近くの〇〇スーパーにほぼ毎日行くので、お会い出来ると思います。きっとご縁がありますよ。」
と言って逃げました。
お互いの自宅が徒歩で15分ほどの距離でしたが、退院してから付き合うということは安藤さんの面倒を見るということだと、その覚悟のいることだと思いました。
二人の息子さんは遠くに住んでいるけれどちゃんと駆け付けて来てくれているし、近所との付き合いもある方だし、他人が無責任に手出しすることにならないよう距離を置かせてもらおうと思いました。
〇〇スーパーは滅多に行きません。街中なので徒歩で15分もかかるスーパーに行かなくても5分も歩けば4店舗もスーパーが有ります。
申し訳なかったけれど安藤さんとは退院後、お会いすることはありませんでした。
でも安藤さんのおかげで楽しい入院生活となりました。
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