第32話 褪元さんの事情・前編
ファミリーレストランについた
……。うーむ。一応、周囲は警戒しているが、マリに聞いても《問題ありません》と言っていたし、シティリアも「今の所、怪しいヤツはいない」と言っていたので問題なしと判断することにした。
店員に案内され、席についた私たちは、何か適当な注文をし、褪元さんから
ドリンクバーを頼んだので、マリがみんなの分の飲み物をトレーに乗せて持ってきてくれた。シティリアには店内のシステムを軽く説明してあるが、やはり物珍しいようで少し落ち着かないようだ。
注文した食べ物が届く間に、軽くお互いの自己紹介をすることにした。
「ちょっと待ってください」
と、褪元さんから待ったが掛かる。褪元さんは小声で呪文を唱えたようだ。
「一応ですね。周囲から私たちの会話を聞こえづらくする魔法を使いました。ここからは周りに聞かれたら
防音効果か。そんな魔法もあるのね。魔法に
さて、聞くところによると、彼の本名はアーセル・シュモットと言うらしい。こっちの世界では
シティリア達や異世界で活動している私は、ホワイトキャッツ王国なので……つまり、別の国の人間という事だ。色々聞きたい事もあるが、それは本人の口から語っていただこう。
と、その時、お店の店員が注文したものを持ってきてくれた。これで、とりあえず話し合いの態勢は整ったか。
褪元さんは最初に出会ったときに魔術師を探していた様子だったので、話し合いはシティリアが主体となって話してもらう。
フーッと、息を整えシティリアが質問をし始めた。
「さて、聞かせてもらおうかしら。あなたの事情と、さっきの連中の事について」
「ゴホンッ……。先ずは助けて頂き、ありがとうございました。本当は襲撃される前にこちらが助け船を出すはずが、逆になってしまいました」
「既に襲撃されることを知っていたと? どういう事かしら」
「順を追ってお話しましょう。私はとある目的のため、こちらの世界にやってきました。それは異物を探すためです」
「まぁ大体予想通りね。魔術師を探していると言っていたから、そうだろうと思っていたわ。それで、謎の襲撃者たちと異物が、どう関係しているのかしら? 褪元さん」
シティリアが相槌を打つように褪元さんの話に合わせる。
「その質問に答える前に、私からも質問をさせてください。
「そうよ。
「でしたら、ここはお互いに目的は秘匿と致しませんか? 知り過ぎるとよくない事もありますし、貴女たちのためでもあります。それと、できれば今回の異物の件については、私たちの国に関わることなので、そちら側からの探索は中止して頂けると良いのですが」
シティリアは少し悩んだ。が、即答する。
「探索の中止に関しては保留するわ。じゃあ質問を変えて、なぜ魔術師を探していたのかしら」
「それは、我が国の問題に他の国の人を巻き込みたくなかったからです。あの連中は探知魔法を使った人物を狙う可能性がありました。なので、探知魔法を使った魔術師を保護するため、シティリアさんを探していたのです。しかし、予想より相手方の出方が早く、襲撃される事になってしまい、申し訳ありませんでした」
「……。その割には、あの連中は褪元さんを狙っていたようだけど?」
確かにそうだ。シティリアの言う通り、襲撃してきた連中が魔術師を狙っているならば、シティリアを優先的に狙うはずだ。しかし、狙われていたのは褪元さんだった。
「そうです。連中の目的は異物を探している
「なるほど……」
シティリアもとりあえずは納得がいったという感じか。
それにしても、ややこしい話だ。
うーむ。私たちはどうするべきか。異物が褪元さんの国の問題ならば、私たちが関わると国際問題? になる……んだよな。
まてまて、それよりも、もしかして、探知魔法を使わなければ私たちは襲撃者に襲われることは無かったという事か。
しかし、そんなことが分かるわけはない。私たちは、私たちの目的のために探知魔法を使ったのだから……。
問題はこれから。
私たちは、異物を探すのか、探すのを辞めるのか。これは一度村瀬さんや森繁さんにも相談する必要がある。
となると現状としては、襲撃者の存在に対して、どうするべきか? 最終的な判断はやはり、村瀬さんたちに委ねるとしても、また襲撃されたら、降りかかる火の粉は払わなければならない。
とりあえずシティリアの問題は、探知魔法を使った人物だったから。で、ここまでの話は終わりだ。
私は褪元さんに質問をすることにした。
「褪元さん。私たちはいったん、戻る事にしますが。褪元さんは、どうされるんですか? 連中に襲われたら危ないのでは」
「そうですね。それが良いとは思いますが、まだ完全に現状が安全であると決まったわけではないので、ここで少し待っていただけませんか? 巻き込んでしまったお詫びに私の仲間を護衛役として呼びます。私の事はお気になさらずに」
護衛……。確かに襲撃してきた連中の事を考えると、ここは護衛を頼んだ方が堅実か。さっき手合わせした感じでは、私たちだけでも対処できない事はない連中ではあったが……。
そうだな…。とりあえず携帯電話で、直接村瀬さんに連絡を取ってみよう。
通話が繋がったので、かいつまんで事情を説明しておく。
村瀬さんも事情を呑み込んでくれたようだ。しかし、今は村瀬さんは直接動けないとの事。
「いったん戻って来てほしい」と言われたので、返事をし、通話を切る。
しばらく待っていると、褪元さんの仲間と思われる人たちが数名、合流。
車を回してくれているとの事で、ありがたく乗車させて頂こう。
「皆さんの護衛を務めさせて頂きます。とりあえず、この街を出る所までは車でお送りします」
護衛役の人が2人、私たちに同行することになった。
ああ、そうか。シティリアは車に乗るのは始めてか。「大丈夫だ。危険ではない」と念を押す。
褪元さんとはここで分かれた。連絡先は交換しておいたので、何かあれば連絡は着くが……。考え事をしながらも、車は発進した。
しかし、なんだ。異世界の人でも車って運転できるんだなとか、余計な事を私は考えていた。
しばらく道を進んだ時である。
車の進みが遅くなってきた。
「何かあったんですかね?」
運転手に声をかけてみる。
「そうですね。何やら、工事中のようで……。あー。一台ずつ、迂回の指示を誘導員が出してますねぇ」
ホントだ。道は混みながらも、迂回路を突き進む。
外の景色を眺めていたら、シティリアが独り言をつぶやき始めた。
「ねぇ。ライチャス……じゃなかった。中島君。こっちの世界でも、
ん? 変な質問だな。
「あー。いや、どうだろ? いないんじゃないのかな? 俺は今までこの世界で魔法を使える人間なんて出会ったことはないけど」
「さっきの、棒を振ってたヘンな人? 誘導員とか言ったかしら。あの人から魔力を感じたのよね」
車内がざわつく。
護衛役の人たちも険しい顔になり、魔法の詠唱を始めた。シティリアもだ。
すると、普通の街並みだと思って走っていた車の風景が、急に切り替わった。
元々この街には詳しくは無いが、今、自分たちがどこにいるのか分からない。
一つ言えることは、人の気配がしないような場所を、車は走っているという事だ。
「幻影の魔法を使われていたみたい。今、魔法で解除をしたわ」
シティリアが説明してくれた。
《申し訳ありません。危険を察知できませんでした》
マリが申し訳なさそうに謝罪する。私もシティリアも気にするなと声を掛けておいた。
「一度車を止めます。周りが安全か確認を致しますので皆さん車から降りてください」
運転手の人が車を路肩に移動し、停車させてくれたので私たちは車を降りる。
護衛役の人たちは、周囲を警戒している。私たちもだ。
既に護衛役の人やシティリアが、防御の魔法を唱えてる。
マリが声を発す。
《前方、怪しい集団がこちらに近づいてきています》
どうやら、戦闘は避けられなさそうだ。
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