第32話 褪元さんの事情・後編
――。
ん……。あれ、ここはどこだ?
頭がボーッとする。うまく思考が纏まらない。
両手は後ろで縛られ、足も縄のようなもので拘束されている。
そうだ。段々と思い出してきた。
敵対勢力と戦闘に入り、数の差で押され、私たちは全員捕まってしまったんだった。その後、全員眠らされて連れ去られてしまったようだ。辺りを見回す。狭い部屋だ。ドアには取っ手が無い。部屋の内側からは出られない仕組みになっている。そういえば、前にも拉致されて捕まった事あったっけな……。周囲には捕まってしまった仲間たち、護衛役の二人もいる。みんなも、拘束されてしまっている。
《目が覚めたようですね》
心配そうに声を掛けてきたのはマリだった。私は返事をする。
「ああ、皆無事かい?」
《全員無事です。目が覚めたのは中島さんが最後です。私は捕まってからも眠らされなかったので》
あ、そうか。マリはゴーレムだから人間に対する睡眠薬とか効かないのか……。
「マリ。ここはどこだか分かるかい?」
《分かりません。ここに連れ去られるまでの間、目隠しをされていました。しかし、襲撃があった時間から逆算すると、戦闘があったあの場所からここまで1時間ほどかかる距離のようです》
ぬう。とりあえず何とか脱走する手段を考えないといけないか……。マリだけ厳重に拘束されている。見た事は無い拘束具だが、魔術関連の拘束具のように見える。アレではマリでも抜け出せないだろう。
私も、
コツ、コツ、と足音が聞こえる。誰かが部屋に入ってきた。二人組。顔は分からない。二人ともマスクをしている。二人のうち一人が喋り始めた。
「あの男か?」
「はい。この男で間違いありません」
私の方を見て、二人で会話している。なんだなんだ?
「連れ出せ」
男がそう言うと、更にマスクの集団が部屋に入って来て、私を無理やり連れだそうと両腕を捕まえてきた。
「え、ちょ。まっ。ンガっ……」
私は布で口元も抑えられ、目隠しもされた。仲間たちとの会話も許されず、どこか別の場所へ連れていかれる。
次に目に光が入ってきたのは、刑事ドラマで見た事のあるような、尋問部屋だ。部屋の中央に机がひとつ。左右に椅子がふたつ。私は口元の猿ぐつわも外され、喋れるようにされ、片方の椅子に座らされる。
二人組のうち一人がもう片方の椅子に座り、もう一人は隅っこで起立の姿勢のまま立ち尽くす。
男はマスクを外し、その顔が
「初めまして。
――。
無言でいると、部屋の隅に立っていた男が近寄って来て、私の頭を掴み、机に叩き付ける。
「ぐっ」
「返事をしろ」
私の頭を掴んでいる男はまだマスクを外していないので顔は分からないが、このグレッドと名乗る男の部下なのだろうか……。
「は、初めましてグレッド……」
私は机に頭を突っ伏したまま返事をする。
対面の男、グレッドが右手をサッと上げると、私の頭は解放される。
「さて、単刀直入に言おう。中島君。きみは私の部下になりなさい」
……。
「こ、断ったら、私は……俺は死ぬのか?」
男はニッコリと笑う。
「ん-そうだね。君が私の部下になると言ってくれれば、その問いに答えよう。ちなみに、オマケで答えてあげると、君のお仲間は無事ではなくなるだろうね」
なんだそれは、もう、答えは一択じゃないか。
「さて、答えは?」
優しい顔でこちらの顔を見つめるグレッド。私はYESと言うしかなかった。
「分かった。あんたの部下になる」
「よろしい。サロス。中島君の拘束を解放してあげたまえ。例の首輪をつけてからね――」
こっちの男はサロスと呼ばれているのか……。
私は首輪をつけられた代わりに、手足の拘束を外される。
「では、中島君。君は今から私の部下だ。これからは私の事をグレッド大佐と呼びなさい」
大佐……軍人か?
「……分かりました。グレッド大佐」
「うむ。さて、先ほどの問いの答えだが、もしも断っていたら君は実験動物のような扱いを受けていただろう。ああ、心配しなくてもよい。私の部下になった以上、そのような扱いはさせないし、君のお仲間たちは、無事に返してあげよう。目的が済んだらね」
なんだ。目的とは……。クソッ。分からん。素直に聞く。
「目的……とは、なんでしょうか?」
「私たちはとあるモノが欲しくてね。それが手に入ったら解放してあげるという訳だ」
とあるモノ――。異物の事だろうか?
「中島君。色々聞きたい事がたくさんあるだろう? 私から説明させてもらっても良いかな?」
勿論答えはYESだ。部下になったとはいえ、何をするのかも分からない。
「お、お願いします……」
私は出来る限り頭をフル回転させて、現状を把握しようと身構えたのだった。
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