第31話 シティリアの初来日・後編

 私たちは褪元さんに案内され、彼女? 彼? の家に向かおうとしている。

 否、していた。現在、襲撃を受けている。


 移動している最中に、何者かが襲ってきたのだ。人気の無い小道に入った途端コレである。褪元さんが狙われている。ということは、褪元さんが私たちをハメようとした? わけではなさそうだが……。思考を巡らせている時間は後に回そう。


 襲撃者は目視できるだけで5人。前方に3人、後方に2人。

 当然、鋭利な危なっかしいものを所持している。対する私たちは4人ではあるが、褪元さんを数には入れない。


 現実世界でも襲われることはあったし、異世界、彼の地でも戦闘経験は積んできた。昔の私なら、何もできず怯えていただろう。それなりに対応する術は身に着けてきているのだ。


 とはいえ、どうするか。まだ褪元さんが味方と決まったわけでは無いのだが、問答している暇がない。事情を聞き出すためにも今、彼女……、彼……? に死なれては困る。私は、マリに指示を出す。


「マリ! 褪元さんを守って!」


《了解です》


 自己の防衛を優先していた彼女が、褪元さんの援護に入る。前方の襲撃者たちは攻勢の手を緩める。


 と、思ったら後方の敵が7人に増えている――!


 私はシティリアをカバーするように戦闘態勢を整え、自身の能力を発動し、身体能力を強化する。


 後方の襲撃者たちが一斉に飛びかかってくる。が、焦らない。私は敵の攻撃をひとつひとつを捌いていく。この状況、一見、前後を挟まれた私たちは不利なように思える。しかし、それほど広くもなく、狭くもない小道という状況が幸いし、敵の攻撃はほぼ正面からしかこない。徒手ではあるが、何とか対応できる。


 私の後ろで控えていたシティリアが、余裕を持って魔法の詠唱を完了する。その雰囲気を察知し、私は入れ替わるようにシティリアと戦列を交代する。


 シティリアの手から放たれた魔法による複数の光弾が、直線状の襲撃者たちを捉える。


 被弾した襲撃者たちは、体を震わせながら、小さなうめき声と共に、その場へ倒れ伏す。


「痺れさせたわ。しばらくは動けないでしょう。今のうちよ」


 退路ができた。今ならば――。


「マリ! 褪元さんを連れて逃げるよ!」


 こくんと頷いたマリは褪元さんを肩に抱きかかえ、私たちとともに走り出す。


 褪元さんの悲鳴が木霊する。ちょっと可哀そうな気もしたがそんな事は言ってられない。


 その後ろから、当然の如く、襲撃者の3人が追ってくる。大通りまで出れば、襲撃者たちも諦めるだろうが……。念には念を入れて、私は目線でシティリアに「俺の任せろ」と送る。


 私は即座に体を反転させ、再び自身の能力、<<膂力りょりょくのカルマ>>を発動する。


 不意を突かれた襲撃者たちは、再び武器を構え、戦闘態勢を取る。


 私は素早く先頭の一人を捕まえ、その場で持ち上げ、残りの二人に叩き付けるようにその肉体を勢いよく投げ飛ばす。


 襲撃者たちは体を重ね合わせ、将棋倒しのように地面にうずくまった。


 体を返すように、私はその場から撤退する。


 ――。大通りに出て、襲撃された場所からは結構離れた……と、思う。


 シティリアがため息交じりに言う。


「全く、異世界に来てみても、こういう事に関しては私の世界とは変わらないわね」


 褪元さんも会話に混ざる。


「あ、あ、あの。助かりました。それと、下ろしていただけるとありがたいのですが……」


 褪元さん……。マリが肩に抱きかかえたままだった……。


「あー。マリ。下ろしてあげて」


 すとん。と地面に下ろされる。そんな褪元さんにシティリアが質問をする。


「褪元さん。あなた。なぜ狙われているのかしら?」

 

 困り顔になりながら褪元さんは答えた。


「ええ。それについてなんですが……。先ずは、落ち着ける場所へ行きませんか? 本来なら私の家が一番安全なのですが、移動中にまた襲撃されたら面倒なことになりそうなので、そうですね……。近くのファミリーレストラン等、如何でしょう。人目のある所なら彼らもおいそれと手出しできないはず。助けて頂いた恩もありますし、お礼も兼ねてお食事でも」


 ふむ。一理ある。ファミレスなら人目もあるし、丁度良いか。


 やれやれ。今度こそゆっくり話を聞けると良いのだが。

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